Background

音響模型実験

音響模型実験技術

壁、天井および座席列等を忠実に再現したホール全体のスケールモデルによる総合的な音場の評価と、部分模型による各部位ごとの音響特性を評価検討することが可能です。いずれも、幾何音響シミュレーションでは得られにくい音の波動性に起因する現象の把握に役立ちます。

音響模型による主観評価の有効性は極めて高く、模型内ダミーヘッド両耳で得られた測定データにデジタル信号処理技術によって測定系の補正をかけたインパルス応答と、ドライソースとを畳み込んで聴感的に音場を評価することが可能です。(ハイブリッド・シミュレーション法)

音響模型実験における相似則

1/n縮尺の模型実験では、実物に対して音速は一定で、距離(=波長)がn倍となることより、音速・波長・周波数の関係より、実験周波数はn倍となります。室内音響の模型実験では、最も一般的に用いられている1/10縮尺を採用しています。

音源とマイク

実物ホールの測定では、12面体無指向性スピーカや人の頭を模擬したダミーヘッド等を使用するのに対して、模型実験では上記の基本相似則より放電パルスを音源に用います。放電パルス音源は、可聴帯域をはるかに越えた100kHz近くの音を含み、無指向性で再現性が良いという特徴があります。また受音マイクには高い周波数まで収音可能な1/4"マイクや、耳の位置に1/6"マイクを埋め込んだ模型ダミーヘッドを使用します。

放電パルス音源
模型ダミーヘッド

内装材料吸音特性のシミュレーション

室内の響きは内装材料の吸音特性に大きく左右されます。そのため模型の主要材料については、模型残響室を用いて10倍の周波数で実物と同等の吸音特性となることを確認して選びます。とくに椅子と人体は受音点に近いため、吸音特性や形状をできるだけ実物に合わせる必要があります。人体模型は、ポリスチレンフォームに服と髪の部分にフェルト厚さ1mmを被覆し、低音域の吸音のため腹部に空洞をあけたもので、全帯域に渡って実物椅子の着席時の吸音率に非常に近い値となっています。

客席椅子と人体模型(1/10縮尺)
残響室の模型(1/10縮尺)

空気吸収のシミュレーション

模型実験では高周波数の音を用いるため、空気による音響吸収の影響が無視できなくなり、高域のエネルギーが早く減衰し残響が短くなります。この影響を取り除く方法として、減衰に寄与する酸素分子を除去する窒素置換法を用います。実験では、通常21%前後の酸素濃度を極めて低い5%以下の濃度にして行います。

音響模型実験による主観評価

室内音響の模型実験では、残響時間・音圧レベル分布をはじめ、各種の聴感的物理量により音場の評価を行いますが、最終的には実際にホールで演奏されたときの楽音等を、直接耳で聴いて判断する必要があります。ここではデジタル処理技術を用いた聴感評価実験手法をご紹介します。

インパルス応答たたみ込み法(ハイブリッド・シミュレーション法)

ダミーヘッドマイクと放電パルス音源による応答をAD変換してコンピュータに取り込み、直接音の相関が高い応答のみを同期加算した後、測定系の逆特性フィルタを合成(たたみ込み演算:Convolution)してインパルス応答を測定する手法です。このインパルス応答とドライソースを合成し、ホール内で演奏した時の楽音として聴くことで、音場の評価を行います。この手法ではS/Nの高い応答が得られるとともに、インパルス応答から残響時間、D値等の各種物理指標を算出することが可能です。

模型の音と実際の音の聴き比べ

Real Hall (MP3) 370KB
Model Hall (MP3) 363KB
Dry Source (MP3) 179KB

実施例

新潟市民芸術文化会館
福岡シンフォニーホール
宮崎県立芸術劇場
いずみホール