あきた芸術劇場 ミルハス
~2000席規模の多機能ホールにおいて、音響性能バランスを最適化~
あきた芸術劇場ミルハスは新たな秋田の文化芸術の創造拠点として、2022年6月に開館しました。本施設は高い音響性能と舞台機能を併せ持つ大ホール(2007席)と臨場感を重視した中ホール(800席)をはじめ、2つの小ホール、練習室等を備えた複合施設です。2つの主ホールのまわりに豊かなパブリックスペース「秋田小路」や「パークホワイエ」が広がり、来館者へ多様な居場所を提供しています。秋田杉がふんだんに使用されているほか、樺細工や川連漆器、大館曲げわっぱなどの伝統工芸品が随所にちりばめられており、秋田の魅力が十分に感じられる施設です。
設計コンセプト
大ホールは多機能ホールとして、クラシック音楽からポップス系音楽、歌舞伎などの舞台芸術まで、さまざまな演目への対応が求められました。特にその中でも、空間の響きが重要となる生音系の音楽用途に適した音空間の実現を目指し設計を行いました。大規模空間でありながらどの席でも豊かな音を聴くことができる音場を実現するため、直接音、初期反射音、後期残響音の最適なバランスに重点をおいて、室形状、内装仕様等の詳細検討を実施しました。
音量感・明瞭性の課題を解決するため、客席天井に大型の浮反射板を設けることで、室容積を確保しながら客席全体に上部からの反射音を供給する計画としました。
音線図(図1)より、客席前方の天井を適切な角度に設定することで、反射音が1階席中央部からバルコニー下奥まで到来することが確認できます。また、浮反射板により客席中央部から2階席後方まで反射音が到来することも確認できます。
ホール完成後に1階席中央部で実測した反射音の分布結果(図2)からも、客席前方の天井や浮反射板から多くの反射音が到来することが確認されました。
図1:赤線部分の天井における一次反射音の音線図
※音線法:音を直進する線として扱い、音の伝搬を追跡する手法
図2:初期反射音の到来方向の可視化(一階中央)
※C-C法により音響インテンシティを測定し解析
※解析区間:184ms(0.08×RT500Hz)
※解析周波数帯域:250 – 4 kHz、測定点:舞台先端から21 m
設計段階でホールの室形状を検討するにあたり、音空間を総合的に評価するため、3次元CADシミュレーションを行い、音量感の指標であるG値と拡がり感の指標であるLE値を算出しました。初期形状では、G値は1階席後方・2階席ともに中央ブロックの値が小さく、LE値は1階席中央部の値が小さい結果でしたが、側壁形状の変更や音響庇の追加等により、設計最終形状では初期形状と比較してG値、LE値共に改善が見られました。
以上の検討結果を反映した、各部位の音響的な設計コンセプトを示します。
中ホール
設計コンセプト
中ホールは幕設備のみの舞台芸術型ホールであり、舞台上の生音やセリフが隅々まではっきり聞こえることが求められました。そのため、音量感・定位感・明瞭性のある音場を目指して音響設計を行いました。