あなぶきアリーナ香川(香川県立アリーナ)

~大規模アリーナの音響設計と明瞭性・遮音性の評価について~

 中四国最大級である1万人を収容可能なメインアリーナを中心とし、サブアリーナと武道施設から構成される新たな県立アリーナとして、あなぶきアリーナ香川(香川県立アリーナ)は2025年2月にオープンしました。設計は妹島和世氏と西沢立衛氏による建築ユニット「SANAA」が担当。本施設は瀬戸内海に面した高松駅からほど近いロケーションの元、周辺の広場やプロムナードと一体となった”公園のような公共空間”をイメージして計画されました。そして3つの施設(メインアリーナ、サブアリーナ、武道施設)を緩やかな曲線屋根によって繋げることで、周辺環境と調和した外観デザインとなっています(図1~3、写真1)。また、ユネスコのベルサイユ賞において『世界で最も美しいアリーナ(The World’s Most Beautiful Arenas)2025』の一つに選出されており、その意匠性が国内外から高く評価されています。
 本施設の中心となるメインアリーナは、スポーツから軽音楽イベント、展示会などを行う多目的アリーナであり、拡声音の明瞭性の確保、外部への音漏れ防止が非常に重要な要素となりました。

図1 配置図
図1 配置図
図2_施設断面
図2 施設断面図
図3_施設平面
図3 施設平面図
写真1 施設外観(左からメインアリーナ、サブアリーナ、武道施設)
写真1 施設外観(左からメインアリーナ、サブアリーナ、武道施設)

●室内音響設計

 多目的用途で使用されるメインアリーナでは、大空間特有の音響課題である「明瞭性の低下」が生じないよう配慮した音響設計が行われました。図4にメインアリーナの音響設計概要を示します。
 本アリーナは、一般的なアリーナ建築とは異なり、競技面と交流エリアが壁で区画されていない点に特徴があります。この構成により、視覚的に空間全体の一体感や臨場感が高められています。音響的にも、界壁面からの反射音が生じないためロングパスエコーが低減され、明瞭性の低下を抑制する効果があります。固定音響設備位置を音源とした音響シミュレーション結果を図5に示します。一般的な界壁有の場合と比較して、界壁無の方が反射音が抑えられている様子が確認できます。
 一方で、空間全体の容積が大きくなるため、残響過多による明瞭性低下が懸念されました。そこで場内の吸音配置については、残響過多とならないよう調整しつつ、スポーツ観戦時に重要となる歓声の臨場感を損なわないよう配慮しました。具体的には、アリーナ部では吸音と反射を分散配置し、交流エリアでは全面吸音とする設計としました。

図4 音響設計概要
図4 音響設計概要
図5 音響シミュレーション結果(界壁有無の比較)
図5 音響シミュレーション結果(界壁有無の比較)

●明瞭性の評価

 明瞭性を阻害する要因としては、①残響の長さ、②エコーの2点が挙げられるため、それぞれについて実測値に基づき影響度を評価しました。検証に用いた音源と測定点位置を図6に示します。評価方法として、①については床置きの無指向性音源を用い、②については固定音響設備を音源として測定を行いました。

図6 音源・測定点位置
①響きの影響

 無指向性音源を用いた際のメインアリーナの残響時間(空席実測平均値:500Hz)は3.5秒と同規模空間と比べて長めとなっています(図7)。一方で、現地で実施したポップス系音源の試聴では、聴感上で過剰な響きは感じられず、大規模空間であるにもかかわらず、音響関係者の間では『明瞭である』との共通した評価が得られました。ポップス系音源は比較的パルシブ(瞬発的)な音の集合体であることから、過渡的な減衰特性を把握するため、二乗音圧レベルによるエネルギー減衰を確認しました。競技面および観覧席の代表点での結果を図8に示します。比較として、逆二乗積分法による残響減衰曲線(いわゆるシュレーダー曲線)も併記しています。

図7 同規模多目的空間との比較[1]
図4_音響設計概要
図8 エネルギー減衰特性
二乗音圧レベル波形
  • 測定点によらず、領域Aにて大きな減衰を示し、その後は緩やかな減衰に移行する。
  • 競技面のほうが観覧席に比べて、領域Aにおける減衰が緩やかである。
    →競技面周囲壁からの反射音の影響と考えられる。
逆二乗積分法(残響減衰曲線)
  • 初期の急激な減衰は見られず、概ね一定の傾きで減衰する。
  • その傾きは、二乗音圧レベルにおける領域Bの減衰傾きと一致している。

 これらの結果から、領域Aでは近傍反射面の影響を強く受け、領域Bでは交流エリアを含む空間全体の反射音が支配的となっていることが示唆されます。つまり、エネルギーは初期(領域A)で大きく減衰した後、緩やかな減衰に移行する構造となっています。人の聴感は特に初期の減衰に敏感であるため、パルシブな音源では測定上の残響時間(3.5秒)よりも短く知覚され、明瞭性に対する響きの影響は小さいものと考えられます。

②エコーの影響

 競技面と観覧席のインパルス応答波形(以降、IR波形)を図9に示します。競技面においては、直接音から150ms程度遅れたエコーが確認できますが、これは競技面周囲壁から生じているものと考えられます。観覧席においては、全体を通して孤立したエコーは確認されませんでした。このようなIR波形の特徴を踏まえ、エコーによる妨害度を定量的に評価するため、「エコー妨害度曲線」を用いて評価を行いました(図10)。競技面で生じているエコーは評価上10%未満であり、妨害感を生じさせるものではないと判断されます。観覧席については、IR波形同様に妨害感となる要因は確認されませんでした。そのため、大規模空間でありながらも、エコーによる妨害感は生じにくく、明瞭性が確保されているものと推察されます。

図9 インパルス応答波形
図9 インパルス応答波形
図10 エコー妨害度曲線
図10 エコー妨害度曲線

[1] 荘大作, 大型ドーム施設の音響設計, 日本音響学会誌, 61(10), 609-615, 2005
[2] D. Polack, “La transmission de l’énergie sonore dans les halles (The transmission of sound energy in the halls)”, Ph.D. thesis, University of Maine, Le Mans, France, 1993
[3] R.H.Bolt, and P.E.Doak, A Tentative Criterion for the Short-Term Transient Response of Auditoriums, JASA, 22(4), 207-209, 1950

●遮音計画

 近年、ライブイベントなどにおいて音漏れを目的として周辺施設に集まる「音漏れ参戦」と呼ばれる行為が問題視されています。メインアリーナにおいても遮音性能確保は非常に重要な課題となりました。しかし、メインアリーナでは界壁がないため、アリーナで生じた音を外周部遮音層(屋根及び外周ガラス壁)のみで遮蔽する必要がありました。そのため、外周ガラス壁と通路には遮音カーテンを配置し、遮音性能を確保する計画となっています。外周部遮音層断面を図11に、遮音カーテン配置を図12に示します。遮音カーテンの選定については、現場において取り付け状態を模した数種類のサンプルを測定し、最も性能が良かったものを採用しています(500Hz以降で+4dB以上)。
 競技エリアを音源とした際の敷地境界上との遮音性能は、Dr-50以上と問題のない遮音性能が確保されています。オープン以降、様々なイベントが行われていますが、音の漏れの問題は生じていません。

遮音計画
図11 外周部 遮音層断面図
遮音カーテン
図12 遮音カーテン配置

音響データ

メインアリーナ
主な用途 スポーツイベント、コンサート、ファッションショー、国際会議、武道大会、発表会等
室容積 166,500㎥
収容人数 最大10,000人
残響時間* 【空席時】3.5秒
【満席時(推定)】2.5秒
平均吸音率* 【空席時】19%
【満席時(推定)】25%
*:500Hz

残響時間特性
残響時間周波数特性

関連リンク