Ginza Music Concierge:Artist Interview

Ginza Music Concierge

二胡奏者 ウェイウェイ・ウー:二胡はまるで女性そのもの。優しく、かわいらしく、情熱的。

「同じ二胡奏者でも、私にしかできないことがあると思う」

蝶々が大好きで、アクセサリーやグッズを集めているというウェイウェイさん。彼女の二胡には、いつも蝶がとまっている。六角形の琴筒から縦に伸びた長い棹、琴杵(ちんがん)と、琴杵の一番上にある内弦軸がクロスする場所に。

中国の伝統楽器である二胡は、本来座って演奏するものだ。ウェイウェイさんはそれをスタンディングでプレイしながら、リズムに合わせてステップを刻む。彼女と共に二胡は踊り、音色と共に蝶も舞う。「演奏しているときが一番楽しい」とウェイウェイさん。二胡を奏で始めると、自分の一部のように同化する感覚があるのだという。「曲に対する自分の想いを音色で代弁してくれる。一緒にいるとすごく安心するんです」。その言葉どおり、彼女がステージ上で舞うさまは実に楽しげで華やかだ。

「みなさんが二胡の音色を聴いて主に印象に残るのは、優しさと哀愁でしょうか。でも、本当はすごく情熱的な楽器なんです。例えば、私のファースト・アルバムに収録しているチック・コリアの名曲『スペイン』に代表されるように。ただ優しいだけでなく、かわいらしさや熱情の激しさもあわせもつ女性そのものなんですよね」。

ウェイウェイさんが二胡に興味持ったのは、上海戯曲学校在学中。5歳からバイオリンを弾きはじめ、メンデルスゾーン「バイオリン協奏曲」の第2楽章を聴いて「バイオリンのソロを二胡で演奏したらもっと雰囲気が出るのでは」と考えた。同校ではバイオリンと二胡を専攻し、いずれも主席で卒業した。以降、数多くのトップアーチストと共演しながら、クラシック、ジャズ、ポップスなど、さまざまなジャンルで二胡の音色を響かせてきた。

クラシックで音楽の基盤を築いた二胡奏者は少ない。もとはバイオリン奏者だったからこそ、ウェイウェイさんの身体は立ったまま全身で音楽を表現するすべを求めていた。しかし二胡は、バイオリンのような構えで演奏する構造にはなっていない。スタンディングというスタイルは、立ったまま二胡を縦にホールドできるよう、腰に装着するホルダーを自作することから始まった。

「同じ二胡奏者、バイオリニストでも、私にしかできないことがあると思う」
西洋の楽器で音楽の基盤を作り、伝統楽器のあり方を追求してきた彼女ならではの言葉だ。

いまの伝統楽器のあり方を模索する同じ志を持った2人のコンサート

伝統楽器を学びその良さを知り尽くした上で、新しい伝統楽器の世界を切り開く。楽器が持つ可能性を広げることを使命として捉えるウェイウェイさんが、同じ志を持つアーチストと共演する機会があった。3月27日に銀座ヤマハホールで催されたコンサート「ASIAN HEART」だ。お相手は、「和楽器の貴公子」とも呼ばれる尺八奏者、藤原道山さん。道山さんは10歳から尺八を習い、中学時代からはジャズの即興演奏やクラシックなどの演奏を始めた。現在も歌手、音楽家、美術家、俳優などと積極的にコラボレーションし、尺八の新境地へと果敢にアプローチしている。

いまの感性に合った伝統音楽のあり方を模索する2人。シンパシーや刺激を感じ合う中で、さらに新しい表現が生まれるのではないか。「ASIAN HEART」は、そんな意図を持つ「クリエイティブ&コラボレーション」企画として発案された。音楽監督兼シンセサイザーは、ウェイウェイさんのアルバムをプロデュースしたこともある作曲家の三宅一徳さん。ほかにもピアノ、ベース/ギター、パーカッション、ドラムという編成だ。

コンサートは、道山さんが作曲した「春告鳥」で幕を開けた。尺八、二胡、ピアノの編成で、ヤマハホールの特性を生かしたアコースティック演奏だ。道山さんが奏でる尺八の柔らかで明るい音色、ウェイウェイさんの二胡の微妙な音の揺らぎ、ピアノの澄んだ響きが耳に心地よい。目を閉じて聴いていたくなる、穏やかでどこか懐かしさを感じる旋律。尺八と二胡はそれぞれ違う音の特性を持つ楽器のはずなのに、双方がハーモニーを奏で始めた瞬間、それぞれの音色が調和し、融け合っていったことに驚きを覚えた。音の相性が抜群にいいのだ。

第2部の最初でも、尺八と二胡による即興演奏「インプロビゼイション」がアコースティックで行われた。鳥の声を模した音の導入からメロディラインが作られていく。互いの音色に呼応しながら旋律を追いかけ、フォローし、自由に響き合う。尺八と二胡という意外な組み合わせだけに、プレイヤー同士が相手の出方をうかがう緊張感と、それを楽しんでいる様子が伝わってくる。

しっとりと聴かせる曲はもちろん、バンド編成を生かした迫力のある「Oriental CUBE」「東風」のような楽曲でも、尺八と二胡は何ら違和感なく融け込み、確かな存在感を光らせていた。ウェイウェイさんの二胡もめまぐるしく表情を変える。ときには優美にせつなく、ときには激しく、ときには朗らかに。

バンドと共に演奏した曲は、ほかに道山さんとウェイウェイさん、三宅さんのオリジナル曲、「さくらさくら」「夜来香(イエライシャン)」といった伝統音楽、テレビ番組のエンディングテーマやショパンの前奏曲(アレンジ)など。バラエティに富んだ盛りだくさんの内容だった。

「はっきりしないもの」に想いを寄せて

コンサート終了後、ウェイウェイさんに話を聞いた。道山さんとの初のセッションに大きな手応えを感じたようだ。

「尺八と二胡、思った以上にすごく合いますね。でもそれは単純な楽器の特性ではなく、道山さんと私がそれぞれ追求してきた道が交差したところで生まれた音なんですよね。お互いが言葉でなく、それぞれ二胡と尺八を媒体として会話していた」

バラードで同じメロディを交代で演奏していると、尺八の音が自分の演奏する二胡の音に聞こえることもあるくらい、シンクロを感じたという。また、道山さんはリズムの載せ方が巧みだったため、ウェイウェイさんは中国の曲の演奏を心から楽しめた。

「道山さんとのセッションは初めてでしたが、まるで旧友に会ったような感じ。特に彼の音楽的な表現は美しく、パワーもある。自分がアーチストとしてどこを目指して行くのか、考えさせられました」

道山さんとのセッション同様、新ヤマハホールでの演奏も初めてだった。「とても柔軟性のあるホールだった」というのが、公演を終えたウェイウェイさんのホールに対する印象だ。通常、アコースティック専門のホールはパーカッションなどの反響が収まりにくい。しかしヤマハホールは、音響を入れて演奏してもそれに応じた響きが返ってきたという。「アーチストとホールとの相性ってあるんですよ。このホールではずっと弾いていたい気持ちになる。ホールに合わせて曲を作ってみたいな」。

7月23日、ウェイウェイさんはふたたびヤマハホールの舞台に立つ。6月23日にリリースされる8枚目のニューアルバム、『Back to the …』の発売記念コンサートだ。ウェイウェイさんは日本に来て今年で19年。故郷の上海と同じく、日本も大切な故郷として考えられるようになってきた。このアルバムは、2つの故郷に捧げる一枚だ。道山さんと共にレコーディングし、日本で感じた四季を取り上げた「冬」、二胡のスタンディング演奏用に改良されたホルダーを作ってくれた、亡き友へ捧げる「再会の記憶」など、オリジナル曲を中心にしている。

「タイトルの『...』が意図するところは、東京でも上海でも過去でも未来でもなく、『はっきりしていないもの』。何に対して『Back』かは、聴く人によって違うと思います。ぜひ、聴きながら考えてほしいですね」

そのときの自分を素直に曲として表し、自分にしか出せない音で演奏し続けるウェイウェイさん。その心地よさに身をゆだね、それぞれの「…」を思い浮かべながら聴き入るのもいいかもしれない。

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