会場が暗くなり、ステージがぼんやり照明に照らされる。シンセサイザーの音楽がフェイドインし、小鳥のさえずりが聞こえてきた。山本さんの『YAMAHA HR-Custom』が奏でるギターの音色とテーマ音楽は、どこか懐かしく牧歌的だ。その調べに載せて、佐野さんが言葉を紡ぎはじめた。
「春のひんやりした、雪を頂く富士の高嶺から風の波が運んでくる…」
小泉八雲のエッセイ『知られぬ日本の面影』に収録された『東洋の第一日目』冒頭。出雲国・松江に向かう情景からライブは始まった。『幽霊滝の伝説』、『ちんちん子袴』『因果ばなし』『雪女』の4篇からなる構成だ。
目を閉じると情景が浮かんでくるような、佐野さんの語りが心地よい。臨場感にあふれる語り口は、登場人物ひとりひとりの個性を物語るかのようだ。特に、化け物や化身に豹変した女性の声色と演技には面目躍如たるものがある。『幽霊滝の伝説』で化け物が主人公のお勝を呼ぶ声、『因果ばなし』での、化身となり側室に取り憑く正妻の断末魔などは、身体が凍り付きそうなこわばりを覚えた。そうかと思えば、武士姿の小人たちが姫の枕元に夜な夜な現れ踊り狂う『ちんちん子袴』では、小気味よい調子の歌を口ずさむ。「♪ちんちん子袴 夜も更け候~」の囃子は、佐野さんのオリジナルだ。

さまざまな色を持つ佐野さんの語りに、山本さんのギターが絡みつく。情景を表すサウンドのほか、雷鳴や太鼓、汽笛などの効果音もギターから生み出されていた。あらかじめ用意した曲や、滝の音などの音源を手元のフェーダーで操りつつ、場面や心情の変化を表すギターフレーズを語りに合わせて繰り出す。場面ごとに変化する照明と相まって、幻想的な小泉八雲の世界が立体的になって私たちに届けられた。
セッションの終わりは、前述の『知られぬ日本の面影』より、小泉八雲が赴任した中学の生徒に見送られながら、蒸気船で松江を離れる場面の描写で締めくくられた。







