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    [レジェンド]作曲家・歌手 森田公一 「青春時代」人生の重み

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     ◇Legend
     桜田淳子やキャンディーズら、アイドル勢が顔をそろえた1977年の「NHK紅白歌合戦」。華やかな雰囲気の中、彼女たちに曲を提供してきた森田公一も自身のバンド、トップギャランで出場した。森田はピアノに向かい、朗々と「青春時代」を歌った。「卒業までの半年で 答えを出すと言うけれど」「青春時代が夢なんて あとからほのぼの思うもの」——。情感あふれる旋律が耳に残る。青春のただ中にいる世代も、若き日を振り返る世代も共感できる作品で、ミリオンセラーを記録した。紅白では、森田もバンドのメンバーも晴れやかな表情だった。売れっ子作曲家がバンドマンとして、歌手として、輝いた瞬間だった。
     ■アイドル向け
     森田は学生時代から音楽の仕事を始め、CMソングなどの世界で活躍。アイドルソングの作曲家として成功を収めた。72年の天地真理のヒット曲「虹をわたって」やアグネス・チャンの日本デビュー曲「ひなげしの花」でコンビを組んだ、作詞家の山上路夫(81)は振り返る。「森田の公ちゃんは詞を渡すと、壊さないでそのまま曲をつけて、言葉を大事にしてくれた」
     アイドル歌手の楽曲はイメージが重要。天地の場合、「白雪姫」のイメージを守るため、言葉を選ぶよう求められたと山上は苦笑する。「虹をわたって」でも、主人公は「あなたの町の あのあたり」に思いを巡らせる。登場する男性との間には距離を設けた。森田の書いた曲もさわやかで優しく、夢見る少女を思わせる。CMソングを数多く手がけた森田は、注文に応じて巧みに曲を作ったのだ。
     一方、「トップギャランは全然別。アイドルをやっているときの公ちゃんとは違う。歌もうまくてね。“森田節”を持っているんですよ」と山上は語る。
     ■阿久悠と共作
     今回、77歳になった森田と電話で話すことができた。森田は作曲家として売れる以前からバンドで活動した。「自分で書いたものが、すぐ音になるんです。ステージの上でね。お客さまの反応が分かるわけです。ハーモニー変えてみたり、イントロ変えてみたり。だから、最初はバンドを実験場みたいに考えていたんです」
     69年にスタートしたトップギャランは次第に注目を集めていった。「一度は紅白に出てみたいな、という気持ちはメンバーにもあったんですよね。だから、このバンドを売らなきゃしょうがないなと思って、抜けられなくなっちゃった」
     そして大きかったのが、2007年に死去した作詞家・阿久悠の存在だ。「青春時代」をはじめ、多くのトップギャランの歌詞を阿久が書いている。「波長が合うというか、なんとなくお互いが理解できるというんでしょうかね。僕の書くメロディーを信じましょう、という気持ちで詞を作ってくださったんじゃないかと思うんです」
     森田が北海道の留萌、阿久が兵庫県の淡路島と、ともに地方出身で年齢も近く、CMの仕事も経験した。2人には共通点が多かった。「だから自分の私小説的なものを、森田に書かせてみたらどうかな、とトライしてくれたんだと思います。阿久さんがピンク・レディーに書いていた、おもちゃ箱をひっくり返したような詞とは、違うんですから」
     ■高音ギリギリ
     阿久・森田コンビの作品は、和田アキ子の「あの鐘を鳴らすのはあなた」や河島英五の「時代おくれ」など、流行を追ったヒット曲とは一線を画した“人生”を感じさせる歌詞も目立つ。「青春時代」もそうだ。歌詞は制作中に書き直されている。レコード会社のディレクターだった中曽根皓二(75)が明かす。「最初はバンカラな寮歌風だったのですが、すったもんだの末、最後に『男女共学の学園風なニュアンスを入れてほしい』という感じのお願いをしました」
     その結果、老若男女を問わず、広く愛される名曲が生まれた。「森田さんには高音をあえてギリギリまで出してもらい、余裕を見せず、必死さを出そうとお願いしたこともありました。『青春時代』の説得力も、そんな中から生まれたのかもしれませんね」と中曽根は振り返る。
     思わず口ずさみたくなるノリのいい楽曲だが、この歌からは、人生の重みや苦みのようなものが、生々しく伝わってくる。作詞や作曲のテクニックの先にある、阿久と森田の精神性のようなものが、強く感じられるのだ。だからこそ流行を超え、長きにわたって人々の心の中に生き続けているのだろう。(桜井学、鶴田裕介)
     
     ◆森田公一作曲の主なヒット曲 
     1972 あの鐘を鳴らすのはあなた         和田アキ子
          ひとりじゃないの              天地真理
          虹をわたって                天地真理
          ひなげしの花            アグネス・チャン
       73 恋する夏の日                天地真理
          あなたに夢中             キャンディーズ
       74 はじめての出来事              桜田淳子
       75 十七の夏                  桜田淳子
          ハートのエースが出てこない      キャンディーズ
       76 青春の坂道                 岡田奈々
          青春時代          森田公一とトップギャラン
       77 前略おふくろ                萩原健一
       80 春ラ!ラ!ラ!               石野真子
       86 時代おくれ                 河島英五
     
     ◆淋しい雫が潜む旋律 
     ◇歌手、タレント・タブレット純(43)
     森田公一さんは自分が生まれて初めて好きになったアーティストです。「作曲家」と「歌手」の二つの側面から歌謡曲の素晴らしさを教えてくださいました。小学5年生の時、親類からもらった「森田公一とトップギャラン」のカセットテープに夢中になりました。大人になることへの憧れと不安が、光と影になってあふれました。阿久悠さんをはじめとした「言葉の魔法使い」たちのお力もさることながら、その世界は森田さんの「いのちの声」が本質だと思いました。雄大な中にも、ぽつんとこぼれたような淋(さび)しい雫(しずく)がどこかにひそんだ森田メロディー。それは、北海道の留萌という大地で育まれた、森田さんの優しく朴訥(ぼくとつ)な眼差(まなざ)しそのものなのではないでしょうか。
     

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