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    年を重ね目覚めた冒険心 バイオリン イザベル・ファウスト

    配信日: | 配信テーマ:クラシック

    ◎Classic
     ◆来年1月 読響と共演 
     ドイツのバイオリン奏者、イザベル・ファウストは、息詰まるほどの理知的な演奏を印象付けてきた。だが、名手は告白する。ようやく自由な「冒険心」に目覚め、楽曲の愉悦に歩み寄れるようになったと。来年1月、ブラームス「バイオリン協奏曲」で読売日本交響楽団と共演する。(岩城択)
     「複雑な音楽性を鮮明に出来るテンポに挑戦する」と力を込める。
     濃密なこの名曲は、ブラームス音楽の醍醐(だいご)味にあふれる。だが、華美でない故に難渋さも感じさせ、チャイコフスキーは「回りくどい」と酷評した。ファウストは「壮大な構成で交響曲的な要素が多く難解。オーケストラとのバランスが難しい一方、技巧的なソロも十分表現しないとならない」と、その奥深さを解説する。
     打開策は「速めのテンポ」だ。曲の根幹をなす長大な第1楽章は、「聴衆に楽曲構造を理解してもらえるかはテンポ次第」と語り、ジョコーソ(快活に)の発想標語がある最終楽章も「軽快で楽しげな雰囲気を出さなければ、重々しい軍隊マーチに陥ってしまう」と話す。
     演奏法に悩んだ時、参考にするのが、ブラームスが作曲で助言を仰いだ名バイオリニストのヨアヒムの資料。現代の通常演奏より速いテンポが示されており「その解釈を考え続けている。ピアノの腕は良かったブラームスだが、熟知しないバイオリンは、ヨアヒムを信じていたはずだから」。
     一方、カデンツァ(技巧的独奏)は、ヨアヒム、クライスラー……など数多い版の中から珍しいブゾーニを選んだ。ティンパニが鳴り響くなどオケ伴奏付きの独特なものだ。ブラームス「ピアノ協奏曲第1番」からの引用も見られ、「驚きとブラームスへの尊敬にあふれるのが魅力」と語る。
     シューマンに注力したトリオ、古楽器演奏のバッハなど活躍は広がる。その中で、2016年のモーツァルト「バイオリン協奏曲(全曲)」のCDは、リズム変化や装飾音に富み、自由奔放さが聴き手に驚きを与えた。
     こうした好反応に目を輝かす。「自分のアイデアを捻出するのは、かなりの挑戦だった。モーツァルトの時代は、即興性を出せる機会があれば奏者は迷わず飛び込んだ。私たち現代の奏者は、ちょっとシャイなのかもしれない」と話す。「年を重ねた今、楽曲への自由な向き合い方を確かに感じていただけているのかも。勇気を振り絞れるようになり、冒険心があふれ出してきたのです」
     公演の指揮は、シルバン・カンブルラン。1月19日午後7時・サントリーホール(赤坂)、20日同3時・パルテノン多摩大ホール、21日同2時・横浜みなとみらいホール。(電)0570・00・4390。

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