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    玉三郎、越路吹雪を歌う 10代から敬愛 「語り部調」でシャンソン

    配信日: | 配信テーマ:その他

     ◆CDアルバム 全国ツアーも 
     歌舞伎女形の人間国宝、坂東玉三郎さんが22年ぶりとなるCDアルバム「邂逅(かいこう) 〜越路吹雪を歌う」(ユニバーサル)を発売した。10代の頃から敬愛する越路のシャンソンなど14曲を、柔らかで気品ある高音、重厚な低音と巧みに歌い分ける。芸能生活60年。コンサートやテレビ出演を次々にこなすなど、歌手・玉三郎は歌舞伎に劣らず意欲的だ。(文化部 清川仁)
     8、9日に東京・銀座のヤマハホールで行われたCD発売記念コンサート。玉三郎さんは終始、ほほ笑みを浮かべながらマイクを握っていた。「役者人生は60年なんですが、歌は新人でございまして」「今日も緊張しております」。少し照れながら語る様は、完璧な美を現出する歌舞伎や舞踊では見られない。優雅なたたずまいのまま距離を縮めてくれるスターを目の当たりにし、観客はなおさら心をつかまれたようだった。
     「18歳の彼」など女性目線の曲を歌うのは恥ずかしいという。女性を演じるのではなく、素顔の自分で臨んでいるからだろう。シャンソンは「歌で演じるもの」と捉えられがちだが、玉三郎さんは「語り部として歌う」と語る。「だから、ベタベタしているようでいて、どこか乾いている部分がないといけない」。越路も「離婚」などの濃密な歌詞を、そよ風のごとく爽やかに歌う美点があったという。
          ◎
     昨年、越路の三十七回忌を迎え、今年3月に日生劇場(東京・有楽町)で行われた追悼特別公演「越路吹雪に捧(ささ)ぐ」が行われた。ここでの玉三郎さんの独唱「妻へ」、宝塚歌劇団OGたちと歌った「すみれの花咲く頃」が大きな感動を呼び、アルバム制作の契機となった。
     アルバムは「いい曲なのに、あまり知られていない曲がまだある」との思いから、「離婚」「ひとりぼっちの愛の泉」「最後のワルツ」など越路が歌った隠れた名曲を軸にし、「枯葉」「ジュテムレ」など著名な曲も収録した。鼻にかかるたおやかな美声、太く男性的な低音、はかなげな語りを使い分け、つややかな弦楽の伴奏に自在に乗る。
          ◎
     越路は宝塚歌劇団、劇団四季のミュージカルなどの王道を歩み、ソロ歌手としても日生劇場で1か月に及ぶロングリサイタルを続け、昭和のショービジネスにさん然とした輝きを放ってきた。
     玉三郎さんは10代後半で越路に魅了されてから、越路が出演する舞台やリサイタルはすべて、会期中に必ず1度は足を運んだという。「最初は、一人で1か月公演を完売にするとはどんな歌い手なのかという興味から」。そして、歌の素晴らしさに感動し、こだわり尽くした衣装や演出は常に想像を超えたという。「家でも毎日聴いた。歌舞伎の疲れを癒やし、旅する気分にさせてくれたのは『世界の恋人たち』というカセットテープ。朝食のたびに『群衆』や『アコーディオン弾き』を繰り返し聴いていた時期もあった」
     1980年に越路が世を去った時、玉三郎さんは30歳だった。「若い頃に受け取っただけに、影響は大きいかもしれないね」。今作の収録曲のほとんどは聴き直すことなく歌うことができたという。しかも、コンサートで聴いただけの歌の詞も正確に覚えており、印象的だったコンサートの曲順をそのままアルバムに反映させた部分もある。
          ◎
     越路が56歳の若さで亡くなったことについては、「それで良かったのかもしれないです。『売り切れになるのは怖いことなのよ。いつ売り切れにならなくなるかもしれないから』と語っていた。重荷も感じていたんじゃないでしょうか」と振り返る。
     「越路さんは、訳詞、作詞の岩谷時子さんとともに和魂洋才の精神で、日本人に日本語で歌を届けてくれた」。越路の残した魂を受け継ぐためにアルバムを携え、来年は全国ツアーを行っていく。

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