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    <Topics>クミコ・松本隆 分からないから歌う 17年ぶりのコラボアルバム発売

    配信日: | 配信テーマ:Jポップその他

     森繁久弥は、興に乗ると唱歌や歌曲を「歌う」でなく「語って」くれた。森繁にとって歌は「言葉」が優先したのであろう。歌を感じるのは「メロディー」か「言葉」か。さらに「声音(こわね)」はどうか。歌手クミコは松本隆の「言葉」に感応し、松本はクミコの「歌声」に打たれた。二人は、2000年のコラボレーションアルバムに続いて27日「デラシネ〜déraciné」(コロムビア)を発表した。

     ■  ■

     「17年前、松本さんが『死ぬまでにもう1枚作ろう』って言ってくださってて、それが実現した。ただ、同じじゃ意味がない。『新しくしてくださいね』って頼んだら、予想以上の冒険と挑戦にあふれていた」とクミコ。

     作詞界のスーパースター松本が冒険するほど、なぜ、クミコとコラボしたかったのだろうか。

     「私が詞を大事にする、考えるってことを感じてくださるんでしょう。『解釈は任せた』って渡されると考えなきゃしようがない」と苦笑するが「『5センチじゃなく5メートル掘ってきたね』と言われるとなんだかホッとする」らしい。

     「私はいつも松本さんの詞は悩みながら歌う。簡単に言うと『分からない』んです。共通する感覚が違うというか。すぐ共感するということがない。言葉選びが、普通の詩人や作詞家とは微妙に違うんです」と松本詞の“異形”ぶりを説明する。「だから、自分の中に問題提起しないと歌えない。自分を疑うことを言葉が強いるんです。『分からないから歌う』と言っていいかも。そのうちに歌の景色が見えてくる」

     ■  ■

     松本は1970年代初頭「はっぴいえんど」のドラマー、作詞家として“日本語ロック論争”の最前線に立っていた。大衆ポップスは太田裕美の「木綿のハンカチーフ」で位置を決め、80年代に入ると作曲家、筒美京平とのコンビで大ばく進。松田聖子の連続ヒットでナンバーワン作家の地位を揺るぎないものとした。

     一方のクミコは、大学卒業後、ヤマハのポピュラーソングコンテストで優秀曲賞を獲得し「世界歌謡祭」代表になるほど才能を見せたが、メジャーデビューできず、ピアノ弾き語りやシャンソン歌手として90年代半ばまで過ごす。故・永六輔が“応援団長”のような存在だった。朗々と歌うことなどない。切々と声を絞り出し、言葉をかみしめる歌唱である。悪声と言ってもいい、にじんだ声が、聴く人に耳をそばだてさせ、歌に集中させる。

     ■  ■

     「私『皆一緒に元気になろう』って歌えない。『一人で泣きながら帰る』って人に歌いたいの」とクミコは時代に逆らう。「今度の松本さんは、サウンドや曲は新しい。それ以上にこれまで書かなかった『年を取る』『もう最後』っていう“新しい”事柄が書いてある。35周年の私にそんな言葉が回ってきたのね」。松本のメッセージは分かる人に分かる。

     10月9日、東京・恵比寿ザ・ガーデンホールでコンサート。【川崎浩】

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