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    シューベルトの闇、美、諦念 生誕220年 演奏盛ん 

    配信日: | 配信テーマ:クラシック

     生誕220年を迎えた作曲家シューベルト(1797〜1828年)の作品演奏が人気上昇している。背景には、短い生涯の中で死を見つめ、暗澹(あんたん)たる中に深い内省と諦念を感じさせる楽曲が、先行き不安の世情とマッチしていることもありそうだ。(文化部 岩城択)
     シューベルト作品の存在感は、4月16日まで東京・上野で開かれたクラシック音楽の祭典「東京・春・音楽祭」で際立った。東京文化会館の主要22公演のうち9公演で作品が取り上げられ、最後のミサ曲「第6番」や室内楽など三つの特集も組まれた。「演奏家のプログラム人気に驚いた」と同音楽祭事務局も話す。
     古典派とロマン派の懸け橋となったシューベルトは、様々な病苦にさいなまれながらも、約600の歌曲を始め珠玉作品を残した。昨今の最たる人気は、ピアノ・ソナタだ。

     ◆「彼が愛を感じる時 それは痛み」 エリーザベト・レオンスカヤさん
     世界的名手エリーザベト・レオンスカヤさんは全21曲の新録音を進行中で、来年の同音楽祭では中・後期ソナタを中心に全6回もの演奏会に挑む。「シューベルトは『楽しい音楽は知らない』と話したという。彼が愛を感じる時、それは痛みであり、音楽が生まれる。私も作品にもっと深く入り込みたい」と語る。レオンスカヤさんはシェーンベルクなど20世紀の曲と組み合わせて演奏することで、現代とのつながりを浮かばせる企画も行っている。

     ◆ダン・タイ・ソンさん 「内向的に籠もって見つめる死」
     アジア人初のショパン国際ピアノコンクール優勝(1980年)のダン・タイ・ソンさん(ベトナム出身)は来年の60歳を前に、初のシューベルト・アルバム(ビクター)を日本で録音し、6月に東京・四ツ谷の紀尾井ホール(22日)などで日本ツアーを行う。
     演目の軸は、遺作「第21番」だ。「死というテーマが年齢的にも現実味を帯びてきた今、真価が認められてきた名曲に向き合う好機だと思った」と述べ、作品についてこう語る。「大切な何かを失った後、涙が乾き切って深い痛みだけが残るのに、心に平安を感じさせる。人生の痛みを訴える内向的な音楽だが、ベートーベンが人類愛を掲げて痛みと戦うのに対し、シューベルトに怒りはなく、自分の世界に籠もって死を見つめる」

     歌曲の世界でも意欲的な試みが広がる。人気テノール歌手の望月哲也さんは今年2月から3年かけ、東京・代々木公園のハクジュホールで「冬の旅」など三大歌曲集を、ギターの伴奏で歌う異色シリーズを始めた。世界的テノール歌手ユリアン・プレガルディエンさんは、「冬の旅」などの演奏形式の変遷などのデータベース化に乗り出した。「楽譜や時代背景の情報を含め、世界中の愛好家に活用してもらいたい」と意気込む。
     地方の取り組みも旺盛だ。広島交響楽団は、音楽総監督に就いた下野竜也さんが6月から、交響曲全8曲を第1番から順に取り上げる。初期の交響曲は国内で極めて演奏機会が少ない。下野さんは「天真爛漫(らんまん)に聴こえる瞬間もあるが、深い闇のような響きと恐怖を感じるほどの美しさが特徴。何かと不安を覚えるこの時世に、シューベルトの醸し出す空気を聴くのも良い試みだと思った」と説明する。
     音楽評論家の寺西基之さんは、バロック中心だった古楽器演奏がシューベルト作品にも及び、「多彩な解釈で斬新な楽曲の見え方が示され始めた」ことも潮流だと指摘。アンドレアス・シュタイアー(フォルテピアノ)らによる「ピアノ三重奏曲」などの好演も生まれた。オペラも再評価されており、2014年には最後の「フィエラブラス」が、オーストリアのザルツブルク音楽祭で上演された。
     寺西さんは、「社会の中の孤独感などが現代人をひきつけ、シューベルト作品に熱い視線が送られている」と読み解いている。

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