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    【ライヴ・レビュー】イエスfeaturingジョン・アンダーソン、トレヴァー・ラビン、リック・ウェイクマン/2017年4月17日 東京 Bunkamuraオーチャードホール

    配信日: | 配信テーマ:洋楽

    2017年4月、イエスfeaturingジョン・アンダーソン、トレヴァー・ラビン、リック・ウェイクマンのジャパン・ツアーが行われた。

    日本公演が発表された時点では、来日公演はアンダーソン、ラビン&ウェイクマン(ARW)という名義で行われることになっていた。だが直前の4月9日になって突如、3人の古巣であるイエスを名乗ることが発表されている。チケットには旧バンド名が印刷されているし、グッズ売り場のTシャツやタオル、プログラムなどにも“ARW”のロゴが印刷されていた。

    この突然の“改名”について、バンドは公式声明でシンガー、ジョン・アンダーソンの発言を引用している。

    「ファンが求めていて、我々も求めている。我々にはこの名前を使用する権利がある。イエスの音楽は我々のDNAに流れている!」

    本家イエスは現在も活動を続け、2013年11月には日本公演を行ったばかりだ。2つのイエスが同時に存在するという奇妙な状況は世界中のファンを困惑させているが、その背景にはバンドの『ロックンロール・ホール・オブ・フェイム』殿堂入りが関係している。

    1986年に創設された『ロックンロール・ホール・オブ・フェイム』は毎年、ロックの歴史に重要な役割を果たすアーティストを殿堂入りさせてきた。2017年、第32回にはジョーン・バエズ、エレクトリック・ライト・オーケストラ、ジャーニー、パール・ジャム、トゥパック・シャクールと共にイエスが殿堂入りを果たすことが発表され、4月7日にブルックリンのバークレイ・センターで式典が行われている。

    “ロックの殿堂入り”をすることは、特にアメリカでは重要な意味を持つ。日本のロック・ファンとしてはどうもピンと来ない部分もあるが、殿堂入りアーティストだというだけで観客動員はグンと増加し、ギャラもアップするのだ。

    8月下旬から10月中旬まで大規模な北米ツアーを行うにあたって、アンダーソン、ラビン、ウェイクマンの3人がイエスの名義を使いたいというのは、当然だといえる。

    ただ問題となるのが4月7日の殿堂入り式典だ。このイベントにはARWの3人と“現”イエスのメンバー達が出席、2曲をプレイすることが決まっていた。ジョン・アンダーソンとイエスのギタリスト、スティーヴ・ハウは近年、ネット経由でお互いを批判しており、これで「これからイエスを名乗るからヨロシク」などと言い出した日には、血の雨が降ることになる。それで改名を遅らせることになったわけだ。

    そんな配慮もあり、若干の(いや、かなりの)よそよそしさはあったものの、両陣営がひとつのステージに立って「ラウンドアバウト」「ロンリー・ハート」を演奏。亡くなったオリジナル・メンバー、クリス・スクワイアの代わりにラッシュのゲディ・リーがベースを弾くという趣向もあり、式典は感動的なフィニッシュを迎えることが出来た。だが、その2日後、ARWのイエスへの改名と北米ツアーが発表となったのだった。

    そんな渦中で行われることになった日本公演。ビジネス上の打算と言われても仕方ない改名劇の直後ゆえ、これまで白装束が多かったアンダーソンと金ぴかラメマントのウェイクマンが共に黒を基調としたコスチュームでステージに上がったのは、彼らがダークサイド(暗黒面)に堕ちたせいではないか……? とも思わせた。

    ラビンが参加したアルバム『ロンリー・ハート / 90125』(1983)からの「シネマ」でスタートしたショーは、そんな後ろめたさなど微塵も感じさせない色彩豊かなものだった。アンダーソンは72歳という年齢を感じさせない天使のハイトーン・ヴォイスで名曲の数々を熱唱。自分こそがヴォイス・オブ・イエスであることをその声で証明する。「オール・グッド・ピープル」「同志」「燃える朝焼け」など1970年代イエスの代表曲がオリジナルの歌い手によって披露されることで、このバンドがイエスなのであることを観衆に感じさせた。

    ただ、アンダーソンは押しつけがましく「こっちが本物のイエスだ!」と主張することはなく、MCに「ぞうさん、ぞうさん」「どんぐりころころ」と日本の童謡を混ぜながら、観客に笑みを浮かばせ、場内を温めていった。

    2013年の“現”イエス公演ではラビン在籍時の曲はプレイされなかったが、今回は「ホールド・オン」「リズム・オブ・ラヴ」「チェンジズ」がラビン自らのギターによって演奏される。「リズム・オブ・ラヴ」は1988年の来日公演では1曲目、12インチ・ダンス・リミックス・ヴァージョンをバックにアンダーソンがぴょんぴょん飛び跳ねながらステージに登場するという“らしくない”オープニングだったが、今回はアンダーソンがアコースティック・ギターでバックを支える、より本来のイエスらしいヴァージョンとなっていた。

    プログレッシヴ・ロックを代表するアーティストである彼らゆえ、単なるグレイテスト・ヒッツ・ショーになることはない。後半、アンダーソン・ブルーフォード・ウェイクマン・ハウの「ザ・ミーティング」、『究極』からの「悟りの境地」という流れは、ウェイクマンの荘厳なオルガン・サウンドのおかげもあり、会場がひとつとなる昂ぶりを演出してくれた。

    本編ラストで演奏されたのは、全米ナンバー1ヒット曲「ロンリー・ハート」だ。「メイク・イット・イージー」をラビンが爪弾き、少しもったいぶってからヘヴィなイントロが始まると、それまで座席に腰掛けていた観客も総立ちになる。後半ではラビンとウェイクマンが観客席の間を練り歩き、クリームの「サンシャイン・オブ・ユア・ラヴ」も挿入するなど、ービス精神をたっぷりサ発揮して、ショーはクライマックスを迎えた。

    それでは不足だとばかり、アンコールでは名曲「ラウンドアバウト」がプレイされる。スティーヴ・ハウが弾くアコースティック・イントロで知られるこの曲だが、ラビンは全編エレクトリックで演奏、エッジの効いたハード・ヴァージョンは大団円と呼ぶにふさわしいものだった。

    サポート・メンバーであるルイ・モリノIII(ドラムス)とイアン・ホーナル(ベース)はバックに徹しながら、イエス・ミュージックの夕べをより完成度の高いものに昇華させていた。

    2つのイエスが5カ月を隔ててニアミス来日公演、同じ会場でライヴを行うというのは、おそらく日本のロック史上初めてだろう。 ファンの側からすれば、どっちが“本物”かなんて関係ない。 日本のファンはそんな珍事を楽しみながら受け入れ、まるで利き酒をするように両イエスを味わっていた。

    2017年4月27日音楽ジャーナリスト&ライターの眼(1版)掲載 執筆記者:山崎智之

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