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    巨匠たちも放っておけない、唯一無二のピアノを堪能

    配信日: | 配信テーマ:ジャズ

    (取材・文/手塚美和)


     ジャズピアニストの大西順子が、井上陽介(B)、山田玲(Ds)とのトリオを結成して約1年。今年は3月に入ってから東北ツアー7公演をおこなって、まさに脂の乗った演奏を、今度は銀座のど真ん中、ヤマハホールに運んでくれた。

     2000年から約7年間の活動休止、2012年の引退表明。2015年、日野皓正に‟引っ張り出されて”東京JAZZで復帰。(引退の翌年にも一度、小澤征爾に誘われ、サイトウ・キネン・オーケストラと「ラプソディ・イン・ブルー」を演奏している。巨匠たちは、唯一無二の彼女のピアノを放ってはおけないのだ)。

     そんな激動の時期を経たあとも、大西順子のピアノはまったく色褪せなかった。身体から溢れ出すスウィング感、聴衆もぐいぐいと運ばれていってしまうようなドライブ感。色褪せるどころか、彼女の中のアーティスト魂は、以前よりアグレッシブに、表現に貪欲になっているように感じる。

     2016年6月にリリースされたアルバム『Tea Times』は、菊地成孔全面プロデュースのもと、新進気鋭の作曲家であり指揮者でもある挟間美帆作が1曲、そして、大西が菊地に興味を持ち、アプローチするきっかけにもなったジョージ・ラッセルの曲が1曲(菊地がTVでラッセルのリフを使っているのを聴いて、これは! と思ったのだとか)、他はすべて菊地作という、それまでの大西作品にはない、チャレンジングな1枚だ。

     今回のライブでは、アルバムからは菊地作品が3曲。冒頭に「GM/JL」、6曲目に「Tea Time 2」、ラストに「Tea Time 1」。アルバムではホーンセクションの響きが妖しく奥行きを作り出している「GM/JL」が、トリオ編成での演奏はキリッとタイトでかっこいい。そして、この1曲目と6曲目の「Tea Time 2」の間にチャールス・ミンガスの「Meditations for a Pair of Wire Cutters」、そして「April In Paris」、ディジー・ガレスピーの「Manteca」「Con Alma」が入るという、大西ならではの選曲のセンス。新しいジャズの音を模索する昨今の彼女のベクトルと、ビバップ、モダンに対して真摯に向き合い追求してきた彼女ならではのピアニズムのバランスは絶妙で、ジャズという音楽が持つレンジの広さ、ポテンシャルの高さを2時間で存分に堪能させてくれる。

    「Meditations……」の冒頭のアコースティックベース、井上の弓から生まれる深淵な音に痺れる。豊かな表現力はさすがだ。大西も大好きだというガレスピーの「Manteca」はアフロキューバンジャズの名曲。若干24歳のドラマー山田は、ラテンを叩いてもすごく良い。ついていくだけでも必死になりそうな超ベテランの二人を相手に、彼はどこまでも自由に、身体中でラテンを楽しんでいた。山田、そして石若駿など、ここ最近、若いジャズドラマーがシーンを賑やかしている。親子ほども歳が離れている(失礼!)ことなどまったく感じさせないほど、彼らと演奏しているときの大西は、生き生きと楽しそうだ。世代を超えた、ジャズという共通語を通して、彼らに音楽のコアのようなものを伝え渡すことが、今の大西の、音楽家としての大きなモチベーションになっているのかもしれない。

    「Con Alma」の冒頭のピアノソロでは、美しく粒が揃った音色の美しさが際立った。一音一音が、大切にコーティングされたようなエレガントな響きは、元々クラシックをやっていた大西のピアノの大きな魅力の一つだと思う。

     井上のニューアルバム『GOOD TIME AGAIN』に1曲だけ大西がピアノで参加した「Never Let Me Go」。レコーディングではワンテイクのみで録音したという二人のライブ演奏は、生々しく、静かに熱い。生々しさが官能性とは違うベクトルに向かうのが、大西のライブのかっこよさ。こんなに美しい女性なのに、彼女のステージングは、ほれぼれするほど男前なのだ。

    「Tea Time 1」。5拍子というリズム。井上・山田コンビはこの難解なリズムを余裕で遊びつくす。その上を喜々として疾走する大西のピアノ。聴けば聴くほど、リズムが生み出す新たな表情が見えてくる、エキサイティングなこの曲で幕を閉じる。

     アンコールの『Us Three』では、一人一人の紹介と宣伝コーナーも。自身のニューアルバムの紹介をする井上に次いで、何もありません、とにこやかに話す24歳男子的な顔を見せる山田。そんな山田に、近いうちに彼のリーダー作が聴けるのでは、と大きな期待とエールを送る大西。そして、このトリオでも、年内に何か形を残したいという言葉も。このトリオで、いったいどんなアルバムを作るのか。考えるだけでワクワクしてくるではないか!



    「大西順子トリオ」
    日時:2017年3月22日(水)
    会場:東京・ヤマハホール

    2017年4月17日音楽ジャーナリスト&ライターの眼(1版)掲載 

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