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    ヨーヨー・マと旅するシルクロード

    配信日: | 配信テーマ:クラシック

    世界的なチェリスト、ヨーヨー・マは、常に新しいことを探し求め、自己の可能性を追求し、未知のことに挑戦するポジティブな精神をもち続けている。それは、クラシックからポップス、ジャズ、タンゴ、映画音楽、さまざまな民族音楽まで、幅広いレパートリーをもつことに現れている。

    「私はこれまで長い間、自分が何者なのか、自分はいったいどんな方法で自己を表現したらいいのか、と悩んできました。その迷いが吹っ切れたのが、マーク・オコーナーやエドガー・メイヤーとブルーグラスを演奏したとき。彼らはアメリカのよき時代の音楽を演奏し、そのなかで自分たちのアイデンティティを模索していたのです。私はその姿勢に触発され、世界各地の音楽に興味を抱くようになりました。それが《シルクロード・プロジェクト》のアイデアにつながりました。これは各地の埋もれた曲や伝統楽器をその地の音楽家と共演し、紹介するものなのです」

     ヨーヨー・マがインタビューでこう話していたのは、2001年の来日時。彼は2000年にマサチューセッツ州のタングルウッドにシルクロードの土地からさまざまな実力派音楽家50人を集め、ワークショップを開催した。そして2001年8月、ドイツのシュレスヴィッヒ・ホルシュタイン音楽祭において、「シルクロード・アンサンブル」が本格的に始動した。

     そしてこの年の12月、ヨーヨー・マは「シルクロード・アンサンブル」を率いて日本ツアーを行ったのである。

    「シュレスヴィッヒ・ホルシュタイン音楽祭では、ペルシャ、日本、モンゴル、中国、フランス、イタリア、アゼルバイジャンの音楽を演奏しました」

     この音楽祭では、間宮芳生、ラヴェルの作品も演奏された。

    「私は1981年に初めて日本を訪れたとき、奈良の正倉院で、シルクロードを通ってさまざまな国から伝わってきた楽器を見ることができました。このころからシルクロードへの思いが募っていきました。《シルクロード・アンサンブル》を立ち上げたときは、いろんな企画や内容が頭のなかに湧き上がってきて、どう具体化したらいいかわからなかったくらいです。ラヴェルはガムランの音にインスパイアされて新しい作曲法を見出した。私もいろんな楽器や演奏家に出会って大きな影響を受けました。こうした各地の演奏家とシルクロードの音楽を演奏した後にバッハやコダーイを演奏すると、これはどこからきた音楽なのか、どう表現したら一番的確なのか、それが自分にどう影響するのかと考えるようになりました。以前は、楽譜から作曲家の意図するものを必死で読み取ろうとしましたが、いまはその奥、または先にあるものまで目がいくようになったのです。作曲家はいつの時代でもルールを破った曲を書くと認めてもらえなかったのですが、どの時代も伝統的なものを理解した上での新しい表現、現代的、革新的な表現は必要とされます。私もいま、各地の伝統を知り、その上で新しい方向を目指したいと思っています」

     ヨーヨー・マが「音の文化遺産」を世界に発信する「シルクロード・プロジェクト」の活動を展開していくなか、その精神に共鳴した映画監督、モーガン・ネヴィルがその足跡を辿るドキュメンタリーを制作した。映画では、随所にヨーヨー・マの多彩なレパートリーが登場するが、「シルクロード・アンサンブル」のメンバー、イランのケイハン・カルホール(ケマンチェ)、中国のウー・マン(中国琵琶 ピパ)、シリアのキナン・アズメ(クラリネット)、スペインのクリスティーナ・パト(バグパイプ、ピアノ)の4人がクローズアップされ、彼らの音楽と人生が描き出される。

     世界各地の風景、文化的背景、音楽発祥の地、アーティストと楽器との出合い、人生観、現在の国の状況などがコラージュのように映し出され、政治、社会、伝統、歴史などを俯瞰しながらドキュメンタリーは刻々とリアルな映像を見せながら歩みを進めていく。

     ヨーヨー・マは語る。
    「いつも共演者からは多くのものを得ています。《シルクロード・アンサンブル》ではクラシックから民族音楽まで、いろんな曲を演奏していますが、私のなかではすべてがつながっている。いずれの曲も、私の表現方法のひとつの面なのですから」

     映画を見終わると、自分の表現方法は何なのか、自分はどう生きたらいいのか、何をするべきなのか、と自問自答する。ヨーヨー・マは「シルクロード・プロジェクト」を通じ、世界中の人々に自己との対峙と対話を促す。そして、世界へと目を向ける視野の広さの大切さも呼びかける。ネヴィル監督の真のねらいはこの点だったのかもしれない。


    <映画情報>
    『ヨーヨー・マと旅するシルクロード』
    3月4日(土)よりBunkamuraル・シネマ、シネスイッチ銀座ほか全国公開
    公式サイト http://yoyomasilkroad.com/

    2017年2月23日音楽ジャーナリスト&ライターの眼(1版)掲載 執筆記者:伊熊よし子

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