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    キング・オブ・テノール、プラシド・ドミンゴの輝かしいオペラ・アリア

    配信日: | 配信テーマ:クラシック

    「キング・オブ・テノール」と称され、50年間に渡りオペラ界のトップ歌手として147ロール(役)をうたい、いまなお主役をうたい続けているプラシド・ドミンゴ。

     彼が3月13日にソプラノのルネ・フレミングと来日し、たった一夜のデュオ・コンサート(東京国際フォーラムA 19:30開演)を開くことは以前の記事で触れたが、これに先駆け、ドミンゴのうたうイタリア・オペラ、フランス・オペラ、ドイツ・オペラの3枚組の録音がリリースされた。

     題して「偉大なるテノール」。ここにはドミンゴがこれまでうたい、演じてきた得意とするオペラ・アリアの数々が収録され、各役になりきったドミンゴの歌唱力、演技力、表現力が存分に堪能できる。

     ドミンゴは、オペラでは多種多様な役柄をレパートリーとし、歌曲から民謡、ポップスまでジャンルを超えてうたうオールラウンダーである。ただし、彼はひとつひとつの歌に全身全霊を込めて対峙し、その曲を徹底的にうたい込み、完全に自分の曲となるまでステージにはかけない。もちろん録音も行わない。完璧主義者ともいうべきこの歌に賭ける徹底した精神は、昔から変わらぬ姿勢である。

    「若いころは、代役の話が飛び込んでくると長いオペラを3日間ですべて覚え、暗記し、ステージに臨むこともありました。いまはもうそんなことはできませんが、私は現在でも新たな役に挑戦し、学びの心を失わないようにしています」

     こう語るドミンゴは、器用なためいずれの曲も見事にうたいきってしまうが、その奥にはたゆまぬ努力と研鑽の日々が隠れている。それを本番では微塵も感じさせることなく、あくまでも役になりきり、歌詞の内容に寄り添い、その人物に新たな光を当てる。

    「私は陽気な性格だと思われていますが、オペラに関しては、どうにもならないほど悩む役が好きですね。悲劇性が強く、強烈な個性を備えた役に惹かれます。私生活ではそうしたことがないように祈りながら、オペラの舞台では完璧に役にのめり込みます」

     彼は、ひとつのオペラの役柄を徹底的に掘り下げ、楽譜の裏側まで読み込み、作曲家が表現したかったこと、台本が描きたいことに肉薄していく。そして舞台ではオーラを放ち、俳優のような演技力で聴衆を魅了する。コンサートでも、ステージに現れただけで存在感を放ち、根っからの陽気さと親密さで聴き手を引き付ける。

    「6年前からバリトンに転向しました。いまはオペラではバリトンの役に集中し、とりわけヴェルディの作品に登場する父親像に魅了されています。バリトンは、王子や英雄や華やかな役柄のテノールとは異なり、地味で脇役や悪役なども多いのですが、それだけに深い声と成熟した演技が要求されます。ようやく、私はその域に達したと考えているのです。もちろん、コンサート形式のステージでは、テノールのアリアもうたいますが、オペラではもうバリトンだけです」

     このCDには、もう聴くことができないテノールの役柄が凝縮している。ヴェルディ「仮面舞踏会」「ドン・カルロ」「オテロ」、ジョルダーノ「アンドレア・シェニエ」、プッチーニ「トスカ」「トゥーランドット」、ビゼー「カルメン」、サン=サーンス「サムソンとデリラ」、ワーグナー「トリスタンとイゾルデ」から、いつもアンコールでうたわれるララの「グラナダ」まで、多種多様な曲が収録され、ドミンゴのテノールとしての軌跡を辿ることができる。

    「これまで多くのオペラに出演してきましたが、それぞれの作品には多くの思い出があります。なんといっても50年ですからね。共演者との思い出は語り尽くせないほどです。私は自分の声の状況、調子を考慮し、そのつど役を慎重に選んでうたってきました。この3枚組は、私の声の変遷が詰まったもの。自分でもなつかしい思いに駆られます」

    「キング・オブ・テノール」の偉大なる軌跡をたっぷりと堪能したい。


    2017年2月16日音楽ジャーナリスト&ライターの眼(1版)掲載 執筆記者:伊熊よし子

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