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    佐野史郎の朗読と山本恭司の音楽が伝える、 小泉八雲の多彩な世界

    配信日: | 配信テーマ:その他

    (取材・文/飯島健一)

     俳優・佐野史郎の語りとロックギタリスト・山本恭司の音楽で繰り広げる朗読ライヴ『小泉八雲の世界』が、10回目を迎えた。ヤマハ銀座スタジオでおこなわれた今回の公演のテーマは「転生」。多彩に変化する佐野の朗読と、情景や感情を脳裏に浮かばせる山本のギターワークが、小泉八雲の描いた時空を超える生まれ変わりの旅へと誘(いざな)った。

     熱烈な拍手に迎えられ登場した佐野と山本が静かに椅子に座ると、やがて黒く沈殿するようなシンセサイザーの音が会場を包んだ。その中から昇天するようなきらびやかなギターの音色を山本が奏でる。これから始まる輪廻転生の物語の導入にふさわしい響きだ。

     最初の演目「幽霊」は、ギリシャ人の八雲(本名はラフカディオ・ハーン)が、滞在した島根県の松江で感じた旅情や恐怖、寂しさを記した紀行文。最初は淡々としていた佐野の口調は、次第に感情を高ぶらせていく。山本のギターも、牧歌的な印象から鬱々としたものへと姿を変え、移り変わる八雲の心情を表現。ふたりは共に松江市出身で、高校の同級生でもある。そんなふたりが、遠い昔に自分たちの故郷に滞在していた八雲の想いを現代に蘇らせていることがまた興味深い。

     続く「力ばか」は、知恵が足りないゆえに大人になっても無邪気な力(りき)の物語。「アハハハハ~!」と天真爛漫な笑い声をあげながら語る佐野に、山本も力そのままの陽気な音色のギターを重ね、ユーモラスな雰囲気を生んでいく。それが一転、鷹匠に相方を射殺された雌鳥が、美しい女に姿を変え鷹匠の非道をなじる「おしどり」では、佐野は絞り出すような声で無念を、山本もせつなく荒れ狂うギターで、おしどりの悲痛を訴えてくる。

     ステージにいるのは、佐野と山本のふたりだけ。物語の世界をイメージさせるセットもなければ、登場人物の人となりがわかる衣装を着ているわけでもない。語りとギターのみで、物語の情景や喜怒哀楽を表現しているのだ。あまりに鮮明に物語が頭の中で再現されるので、この不思議な空間にどこか怖ろしさすら感じてしまう。

     前世の記憶を持つ少年の物語「勝五郎転生記」や、若い娘の無念が宿った着物が大火事を引き起こしてしまう「振袖火事」といった演目も披露され、ライヴはクライマックスへ。

    「お貞のはなし」は死に別れた許嫁が愛する人のもとへ時空を超え戻って来るロマンチックな物語だが、主人公が生まれ変わりの娘に名前を聞いた瞬間、佐野は溜まりに溜まった執念を吐き出すような声色で「私の名はお貞と申します! 私は帰ってきたのでございます!」と叫んだのだ。山本が「お貞さんがパッと戻ってきたとき、優しい声で言ってくれるかなと思ったら、“私の名は!”って叫ぶから、ビックリするよね」と、佐野の“怖色”を評すると、佐野は「小泉八雲の『怪談』を情緒豊かと受け止めてる方もいらっしゃるでしょうけど、僕がやる場合はこんなホラーにしたいですよね」と、独自の切り口でこの朗読ライヴに挑んでいることを語った。

    ライヴの最後は、八雲の作品の中でも有名な『雪女』。佐野も出演している映画『雪女』(2017年3月公開)で監督と主演を務める杉野希妃がこの日、会場に足を運んでいたことから、佐野はこの演目を披露することを当日の朝に思いついたそう。音楽を用意していなかった山本は「ギターのみで音を作るという実験的なことをやってみようと思います」と宣言。その言葉通り、アームを駆使したロングトーンで透き通った音を響かせながら、凍てつく世界を創出。佐野も血の気のない声の中にほのかな温かみを加えて、恐ろしさと人情が共存する『雪女』を演じあげた。

     言葉と音楽、シンプルな表現だからこそ、 “怪談”というキーワードだけでは想像できない小泉八雲の多彩な世界を、観客が自由にイメージすることができた一夜だった。



    「小泉八雲の世界Vol.10
    転生 TENSHOW 〜絶望の淵から蘇る輪廻のしらべ〜」

    日時:1月21日(土)
    会場:東京・ヤマハ銀座スタジオ

    2017年2月16日音楽ジャーナリスト&ライターの眼(1版)掲載 

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