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    ジューダス・プリースト『ターボ』30周年にみるヘヴィ・メタルのギター・シンセ

    配信日: | 配信テーマ:洋楽

    ジューダス・プリーストの1986年のアルバム『ターボ』が2017年2月、発売30周年を記念する“30thアニバーサリー・エディション”としてリリースされることになった。

    『復讐の叫び』(1982)『背徳の掟』(1984)のモンスター・ヒットで世界制覇を成し遂げ、ヘヴィ・メタル界の頂点に君臨する“メタル・ゴッズ”となった彼らの『ターボ』は全米チャートのトップ20入り、100万枚以上のセールスを達成。今回の“30thアニバーサリー・エディション”は1986年5月、カンザス・シティでのライヴを2CDに完全収録した3枚組仕様となる。

    当時ヒットを記録した『ターボ』だが、リリース当時賛否を呼んだ問題作でもあった。鋭角的なギター・リフと重量感あふれるサウンドでヘヴィ・メタルの“正統派”を形作った彼らが大胆にギター・シンセサイザーを取り入れた「ターボ・ラヴァー」「アウト・イン・ザ・コールド」は論議を巻き起こすことになったのである。ちなみにギタリストのグレン・ティプトンはヘイマーA7ファントム・ギター・シンセ・コントローラーをローランドGR700ギター・シンセに繋いでプレイしていた。

    1980年代中盤のハード・ロック/ヘヴィ・メタル界には、一種のテクノロジー・ブームが到来していた。その火付け役となったのがZZトップの『イリミネイター』とビリー・アイドルの『反逆のアイドル』(共に1983年)だった。ハードなロックとシンセやシーケンサーなどのテクノロジーの合体は当時刺激的なものだったのだ。元々ギター主体の音楽だったハード・ロック/ヘヴィ・メタルではギター・シンセが注目されるようになった。

    元レッド・ツェッペリンのジミー・ペイジは、それ以前からギター・シンセの可能性を模索してきたギタリストだった。彼はローランドが1977年に発表した初のギター・シンセであるGR-500を入手し、その後続機種であるGR-300と共に映画『ロサンゼルス』サウンドトラック(1982)で使用している。
    (GR-500は単音しか出せないモノフォニック・シンセだったのに加えて、ピッキングしてから音が出るまでのタイムラグやトラッキングの問題があり、あまり実用的ではなかったという)

    そのジミー・ペイジがイメージ・キャラクターとして起用されたのが、1984年に発売されたGR-700だった。本体の性能が大幅にアップしたこのモデルだが、大きな話題を呼んだのはコントローラーG-707の斬新なヴィジュアルだった。鋭角的なボディと、ネックの振動を抑えるスタビライザーは、明確に“ギターの未来”を感じさせたのである。

    レイヴンも『ザ・パック・イズ・バック』(1986)でGR-700を使用。ニュー・ウェイヴ・オブ・ブリティッシュ・ヘヴィ・メタル(NWOBHM)から登場、激しい“アスレチック・ロック”を標榜していた彼らがテクノロジー路線に進んだことは当時衝撃を呼んでいる。「ヤング・ブラッド」の曲調は攻撃的なメタルだが、ソロに入るとギター・シンセがフィーチュアされ、ジャズ・スタイルのベースを相まって、独特なフィーリングをかもし出していた。

    ディープ・パープルの『ハウス・オブ・ブルー・ライト』(1987)ではリッチー・ブラックモアが一部GR-700を使っている。「ストレンジウェイズ」後半のソロなどでギター・シンセらしいフレーズを聴くことが出来るが、1990年代に入ってからもフェンダー・ストラトキャスターのボディにMIDIピックアップを搭載してステージでプレイしていた。

    1985年に“究極のギター・シンセ”として発表されたのがシンセアックスSynthaxeだった(日本語表記はシンサックス、シンタックスなどあるが、シンセ+アックスの造語のため、本稿ではシンセアックス表記とする)。このコントローラーはボディとネックの弦に独立した弦を張り、角度が異なるという革命的なスタイル。ボディに付けられたトリガー・キー、ブレス・コントローラーで吹奏楽器としても使えるなど、ギターの歴史を変えるポテンシャルを持っていた。

    実際には当時の約200万円という価格がネックとなったこと、そしてギターのブリッジに付けられるMIDIピックアップが開発されたこともあり、シンセアックスは1980年代後半には廃れてしまう。そのため市場に出回ったのは100本未満といわれるが、ハード・ロック界で手にしたのがゲイリー・ムーアだった。「アウト・イン・ザ・フィールズ」ミュージック・ビデオと映像作品『エメラルド・アイルズ/ライヴ・イン・アイルランド』(1985)では彼がシンセアックスを弾いているのを見ることが出来るが、やはり持て余したようで、レコーディングに使ったのはビーチ・ボーイズの『ザ・ビーチ・ボーイズ』(1986)にゲスト参加した際にバッキングで使ったのみの筈である。

    シンセアックスを弾きこなしたのはハード・ロックよりむしろジャズ/フュージョン・ギタリスト達だった。

    アラン・ホールズワースは初めてシンセアックスを手にしたとき、「これこそが自分の楽器だ」と確信したと語っている。「もうギターは止めてシンセアックスだけを弾くつもりだった」という彼は一時は3本を所有、『アタヴァクロン』(1986)のジャケットでもシンセアックスを抱えているが、製造中止に伴い「故障したらもう修理できないし、ただの粗大ゴミだ!」と関連機材と共に売り払ってしまった。ただ半年後に名残惜しくて1本を買い戻し、現在でも所有しているという。

    リー・リトナーもシンセアックスを愛用したギタリストだった。彼は『キャプテン・フィンガーズ』(1977)で、6本の弦をそれぞれ別個のシンセと接続した“ポリフォニック・ギター”を弾いている。ロサンゼルスの『360システムズ』のボブ・イーストンが開発したこのギターはシンフォニック・スラムの『シンフォニック・スラム』(1976)でも使われているが(レインボー加入前のデヴィッド・ストーンが在籍)、リトナーは『アース・ラン』(1986)でシンセアックスを持ってジャケット・アートに収まり、「ソアリング」などでフル活用している。

    パット・メセニーやアル・ディ・メオラらも弾いていたシンセアックスだが、やや意外かも知れないのがクリストファー・クロスだった。多くのギタリストがモニターとしてシンセアックスを借りていたのに対し、彼は2万ドルを投じて1本を購入。「ラリー・カールトンに見せたとき、“何だそれは?”って怪訝な顔をしていた」と笑うが、『ターン・オブ・ザ・ワールド』(1988)で弾いた後に売却してしまったそうだ。

    21世紀においてもあらゆる音楽でギター・シンセは使われているが、1980年代にギターとシンセサイザーという2つも異なる楽器がいびつな形で組み合わさり、新しい表現を生み出そうと苦闘していた時代の音楽には、ゴツゴツとした独特の魅力がある。ジューダス・プリーストの『ターボ』は、そんな時代が産み落とした異色のヘヴィ・メタル・アルバムだったのだ。

    2016年12月29日音楽ジャーナリスト&ライターの眼(1版)掲載 執筆記者:山崎智之

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