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    20世紀のポピュラー音楽に影響を与え続けた名優マーロン・ブランド

    配信日: | 配信テーマ:洋楽

    2016年12月、俳優のマーロン・ブランドが映画『ラストタンゴ・イン・パリ』で女優マリア・シュナイダーの合意を得ずに性暴力シーンを撮影したことが、インターネット上で論議を呼んでいる。

    1972年の映画撮影時について監督のベルナルド・ベルトルッチが2013年に語ったビデオ映像が今になって“炎上”したものだが、既にマーロンもマリアもこの世にいない。それでも今日、これだけのセンセーションを呼ぶのは、2人の迫真の演技(映画中で“本番”はなかった)によるものだろう。

    マーロンは『欲望という名の電車』(1951)、『ゴッドファーザー』(1972)、『地獄の黙示録』(1979)などで映画史に冠たる名優と呼ばれるが、その存在は20世紀のポピュラー音楽においても重要な位置を占めている。

    『乱暴者(あばれもの)』(1953)でマーロンはバイクに跨がる革ジャン姿の反逆者という役柄を演じたが、翌1954年にデビューするエルヴィス・プレスリーはそのイメージを踏襲。“ロックンロール=反逆の音楽”という図式を確立させた。ちなみにこの映画に登場する暴走族ブラック・レベル・モーターサイクル・クラブと同名のバンドもいる。

    初期ビートルズのレザー・コスチュームは『乱暴者』のマーロンおよびエルヴィスからの影響が少なからず窺えるし(ただし西洋のレザー・カルチャーはファッションよりも“冬は寒いから”という理由もある)、より誇張された形で、ヘヴィ・メタルやパンクなどに受け継がれている。

    『乱暴者』の影響もあり、アメリカ全土で多くのバイカー・チームが結成された(ただし悪名高いヘルズ・エンジェルズはそれ以前、1948年に結成している)。“男臭さ”を追求するバイカー・カルチャーはゲイにも愛好され、画家トム・オブ・フィンランドはしばしばバイカーを題材としたエロチック・アート作品を描いている。ゲイ・カルチャーを世界に広めたヴィレッジ・ピープルにもバイカー・キャラ、グレン・ヒューズがいた(念のため、第3期ディープ・パープルのメンバーとは同名異人である)。

    エルトン・ジョンは1988年に「グッバイ・マーロン・ブランド」という曲を発表しているが、マーロンはビーチ・ボーイズやグラスノスチ、ドリー・パートンの胸など、陳腐で誇張されたカルチャーの一部として挙げられており、エルトンがゲイであることは関係ないようだ。

    マーロンは公民権運動や人種差別問題、特にアメリカ先住民の人権運動に深く関わっていた。そんな背景を踏まえて描かれたのがニール・ヤングの「優しきポカホンタス」(1979)だ。ニールとマーロン、そしてポカホンタスがオーロラの空の下、たき火を囲んで語らうという幻想的な歌詞は世界中のファンのフェイヴァリットのひとつだ。R.E.M.は「ミー、マーロン・ブランド、マーロン・ブランド・アンド・アイ」(2011)を書いているが、これは「優しきポカホンタス」からインスピレーションを受けたのだという。

    元レインボー〜マイケル・シェンカー・グループ〜アルカトラスのシンガー、グラハム・ボネットは、2016年の最新アルバム『ザ・ブック』の「ライダー」でバイカー・カルチャーを歌っているが、「ブランドの衣装を着込んだ、生粋のアメリカーナ」というフレーズがある。これは『乱暴者』でのマーロンに言及したものだ。

    さらに邦楽では、ARBが『砂丘1945年』(1985)で「波止場にて(マーロン・ブランドに捧ぐ)」を書いている。

    一方、マーロンの名前が登場するロック・ソングは、どういうわけか難解なものが多い。その神秘的な個性によるものだろうか、歌詞との関連がよく判らないことが少なくないのだ。

    デヴィッド・ボウイとイギー・ポップが共作した「チャイナ・ガール」は1977年、イギーのアルバム『イディオット』に収録されたが、「マーロン・ブランドみたいに物悲しい」という一節がある。これが具体的にどの作品での彼を指すのかは不明だ。

    スコット・ウォーカーはSUNN O)))とのコラボレーション・アルバム『サウスド』(2014)で「ブランド」という曲を書いている。ミズーリに言及があるのは出演作『ミズーリ・ブレイク』(1976)から取ったのかも知れないし、『乱暴者』の原題the wild oneも登場するが、シュールな歌詞を頭で“理解する”よりも感覚で捉えることが大事だろう。

    イタリアのプログレッシヴ・ロック・グループ、PFMは『PFM? PFM!』(1984)で「マーロン・ブランド」という曲をプレイしているが、歌詞はなく、「ヘーイ!フゥー!イェー!」などのスキャット?のみなので、どうマーロンと関係しているのかは見当も付かない。

    さらにアーティスト自身ですらマーロンが歌詞に登場する理由が判らないこともある。スリップノットの「アイレス」(1999)のコーラスは「マーロン・ブランドの眼がなければカリフォルニアは見えない」というものだが、これはシンガーのコリー・テイラーが路上でホームレスに突然何度も絶叫されたセリフだという。この歌詞は熱心なファンによってさまざまな解釈がされているが、コリー自身によると「自分でもよく判らない」そうだ。

    マーロン自身もポピュラー音楽と無縁ではなかった。1975年3月23日、サンフランシスコのケザー・スタジアムで行われたチャリティ・コンサート『SNACKベネフィット』は学校の課外スポーツ活動を支援するイベントで、ボブ・ディランやニール・ヤング、サンタナ、ドゥービー・ブラザーズ、グレイトフル・デッド、ジェファーソン・スターシップ、ジョーン・バエズ、グラハム・セントラル・ステーションなどが出演したが、マーロンも6万人の観衆を前にして演説を行い、人種の壁を超えてスポーツが行われることの意義を語っている。

    晩年のマーロンとマイケル・ジャクソンの交友関係は、アメリカのタブロイド誌をしばしば騒がせた。マーロンの息子マイコ・ブランドがマイケルの邸宅『ネヴァーランド』で警備員をしていたことから交流が深まり、「ユー・ロック・マイ・ワールド」(2001)のビデオに暗黒街のボス役で友情出演している。マイケルのこのシングルが発売された3週間後の9月11日にはアメリカ同時多発テロ事件が起こっているが、空港が封鎖されており、新たなテロ攻撃を恐れたマーロンとマイケル、そしてエリザベス・テイラーの3人は自動車でニューヨークを脱出、カリフォルニアを目指したという。

    なおマイケルはあまりに尊敬するあまり、マーロンに精子提供を求めたともいわれている。マイケルの息子プリンス・ジャクソンの血のつながった父親はマーロンではないかという説もあるが、真相は明らかになっていない。

    映画業界の慣習やシステムに従うことなく、セリフを覚えてこなかったり、役柄と合わない体重オーバーで現場に現れたり、クリプトン星人という設定なのにローレックスの腕時計をしたまま撮影に臨むなど、マーロンは常にハリウッドの乱暴者(あばれもの)であり続けた。彼は歌わぬロッカーだったのである。

    2016年12月15日音楽ジャーナリスト&ライターの眼(1版)掲載 執筆記者:山崎智之

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