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    デヴィン・タウンゼンド自伝『Only Half There』は“異才/奇才”の書

    配信日: | 配信テーマ:洋楽

    デヴィン・タウンゼンドが自伝『Only Half There』を2016年11月に刊行した。

    ハード・ロック/ヘヴィ・メタル界において“異才/奇才”の名を欲しいままにしてきたデヴィン。1993年にスティーヴ・ヴァイのバンド「ヴァイ」のアルバム『セックス・アンド・レリジョン』でヴォーカリストとしてデビューを果たした彼は20年以上、止まることを知らないジェットコースターのような創作活動を行ってきた。数々のプロジェクトとソロ・キャリアを使い分けながら、凄まじいヘヴィネスと高度なテクニック、どこまでも深いスピリチュアル性、時に子供じみたユーモアとギャグでファンを(良い意味で)振り回してきた彼は2016年にはアルバム『トランセンデンス』を発表、タイトル通り“超越した”サウンドで魅了してくれる。

    デヴィン自らが「過去7年のあいだに26枚アルバムに関わってきた」と語るリリース活動に加えて、アルバムに伴うツアーも行われ、久々の日本公演も待たれるが、そんなハードなスケジュールの中一体どうやって時間を作ったのか、なんと1冊の本まで書いてしまったのだ。

    『Only Half There』は1年以上をかけて完成させたとデヴィンは序文で記しているが、約300ページにわたって彼の音楽とまったく変わらないテンションの高さでその人生と音楽、その精神性などが綴られている。彼は自らの作品にセルフ・ライナーノーツを掲載したり、音楽雑誌でコラムを書いたりするなど、文章の書き手としても魅力を放っているが、本作でもスピード感とユーモア溢れる描写とディープな思想が交錯、起伏に富んだ展開はスリルに満ちている。

    おおよそ時系列順に配されているものの、各章をワントピックで区切っているため、気になる話題から読み始めることも可能だ。

    本書のハイライトのひとつは、デヴィンとさまざまなミュージシャンとの交遊録だ。1994年にワイルドハーツのツアーに参加した際にはメンバー達の巻き起こす乱痴気騒ぎに巻き込まれ、ブラック・サバスのベーシストであるギーザー・バトラーのソロ・プロジェクト、ロブ・ハルフォードが脱退したばかりのジューダス・プリーストへの加入が打診されるなど、ハード・ロック/ヘヴィ・メタルの歴史が変わりかねなかったエピソードが次々と語られている。

    メタル系大手インディーズの「ロードランナー・レコーズ」からの契約オファーがあったデヴィンだが、結局門前払いを食らったことに腹を立て、大きな段ボール箱に不要物を詰め込み、自分の肛門の写真を添付して着払いで「ロードランナー」に送りつけたエピソードも、ユーモアたっぷりに語られている。

    さらに彼がプロデューサーとして関わったラム・オブ・ゴッドやグウォーとの知られざる逸話も紹介されており、“デヴィン史”をひもとくには不可欠な1冊である。

    現時点では英語版のみが刊行されており、いわゆる“天才肌”の人にありがちな改行の少なさもあるため、慣れないとやや難度が高いが、幼少時から現在に至るまでの写真も32ページにわたって収録されている。そのヘアスタイルの変遷もまた時代を感じさせるものだ。日本語に訳される可能性は低いと思われるため、頑張って英語で読んでいただきたい。

    本書には35分の未発表音源集CD『Iceland』も同梱。アコースティック中心の内省的なサウンドがハートに染み入っていく。

    『Only Half There』は2フォーマットで発売されており、通常版“スタンダード・エディション”は書籍+CDという仕様。さらに特装版“シグネチャー・エディション”も同時発売されたが、こちらは未発表デモを収めたカセットテープ、デヴィンが描いたイラストと共に特製ボックスに入れた豪華仕様だ。1,500部限定の“シグネチャー・エディション”はもちろんファンたるもの押さえておきたいが、なんせ値段がはるため(“スタンダード”が35英ポンド+送料なのに対し、“シグネチャー”は100英ポンド+送料)。悩むところだろう。なお筆者(山崎)は価格と部屋の収納などを考慮して、“スタンダード”を購入した。

    本書を刊行したイギリスの出版社「ロケット88ブックス」はアート系書籍を多く刊行しているが、近年ではダイナソーJrやオーペスなどの豪華仕様本も出しており、ロック・ファンからも注目されている。

    じっくり時間をかけて、味わいながら読みたい『Only Half There』。そのページからは、デヴィン・タウンゼンドが文筆家としても“異才/奇才”であることが伝わってくる。

    2016年12月 8日音楽ジャーナリスト&ライターの眼(1版)掲載 執筆記者:山崎智之

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