音楽ジャーナリスト&ライターの眼 ~今週の音楽記事から~

新聞社の音楽記事、音楽ライターによる書き下ろし記事を集めたウェブサイトです。(毎週、月・木更新)

音楽ライター記事

つぶやく・ブックマークする

    偉大なるオペラ歌手プラシド・ドミンゴ、2017年3月、一夜だけのコンサートのために来日!

    配信日: | 配信テーマ:クラシック

    「テノールというのは、のどを大切にしないとうたえないのです。若いころは軽く叙情的な役をうたっているのですが、だんだん重く劇的な役をうたうように声が変化していくのがふつうです。ですから、いまではかなりドラマティックな重い声を必要とする役をうたっているんですよ」

     ルチアーノ・パヴァロッティ、ホセ・カレーラスとともに「3大テノール」の公演で世界中に広く知られるようになったプラシド・ドミンゴは、1995年8月31日、1996年の「3大テノール」東京公演に先駆け、サッカー観戦に訪れた合間を縫って、インタビューに応じた。

     このときは短時間ながら、「3大テノール」について、自身の声の状態やレパートリーに関してなど、幅広い質問にていねいな答えを戻してくれた。

    「オペラの舞台では、完全にその役になってうたうからいいのですが、3人で一緒にうたう場合は瞬時に役になりきるのがとても難しい。でも、それがオペラ歌手としての醍醐味でもあるわけですから、その部分に一番気を遣います。これは多分、日々の鍛錬と慣れが影響するのかもしれないですね」

     ドミンゴは悲劇のヒーローから威厳のある王、嫉妬に狂う男までなんでもござれのオールラウンダー。そして昔からクラシックばかりではなく、ジャンルを超えてさまざまな曲にトライし、持ち前の器用さを発揮している。
    このときのインタビューでは、好きな役や演じやすい役について語っている。

    「一番好きなのは苦悩する役。どうにもならないほど悩む役がいいですね。私生活ではそうならないように願ってね」

     ドミンゴは、まるで俳優のような存在感と演技力、迫力ある歌声、深い表現力で聴き手の心をとらえる。「3大テノール」やオーケストラをバックにうたうコンサートなどの場合は、オーケストラの前奏のほんの数分間で、ストンとその役になりきり名人である。

    「オペラ歌手は歌声だけよければいい、という時代は終わりました。現在は、演出家がこまかい演技を要求し、歌手は歌とともに演技も磨かなくてはならない。ですから、本番前の長期間のリハーサルでは、そうした念入りな準備が必要になります」

     ドミンゴにはロサンゼルス、パリ、東京の「3大テノール」のコンサート後などさまざまな場所でインタビューを行ってきたが、常にひとつずつの質問に対して真摯な態度で明快な答えを返してくれる。

     そして2011年の震災後には、多くのアーティストが来日公演をキャンセルするなか予定通り東京でコンサートを行い、日本の人々に感動と勇気を与えた。このときにアンコールでうたった「故郷」は、以後、多くの来日アーティストがステージで取り上げるようになり、日本の人々を癒し、活力を与える曲として定着した。

    「私はメキシコに住んでいますから、日本の地震は他人ごとではありませんでした。あのときは、日本にいってうたうことが自分の運命だと感じたのです。会場のみなさんと一体となったあのホールの空気は、忘れえぬものとしていまだ私の心に焼き付いています」

     そんな彼が2017年3月13日、ソプラノのルネ・フレミングとともに来日し、たった一夜だけの特別なコンサートを開くことになった。

    ドミンゴは6年前にバリトンに転向し、現在はヴェルディ・バリトンを中心にレパートリーを増やし、さらにロサンゼルス・オペラの芸術監督も務めている。一方、「メトロポリタン歌劇場の華」と称されるルネ・フレミングも、オペラで主役をうたうかたわら、シカゴ・リリック・オペラのクリエイティヴ・コンサルタントを務めている。

     こうした要職に就くふたりの超過密なスケジュールを調整して、ようやく一夜だけのコンサートが実現する運びとなったのである。

     この唯一無二のコンサートについて話を聞くべく、ドミンゴにインタビューをすることになった。日時は9月18日、場所はロサンゼルス・オペラ。実は前日の17日、同オペラハウスではヴェルディの「マクベス」が開幕し、ドミンゴはその主役をうたった。この日は初日だったため、セレブや要人が多数オペラハウスに詰めかけ、終演後2時までパーティが行われた。ドミンゴは最後まで全員にあいさつし、ホストを務め、場を盛り上げたのである。

     そして翌日のインタビューには、元気な姿でさっそうと会場に現れた。なんとタフなのだろう。彼がロサンゼルス・オペラのインタビュー場所に現れるやいなや、まわりの空気が輝き、一気にオペラティックな華やいだ雰囲気がただよった。

     今回の日本公演はドミンゴのリサイタルに本デビュー30周年にあたるわけだが、この30年間ドミンゴの日本を含むアジア地区のプロモーターを務めてきたのが、寺島忠男&悦子夫妻。彼らとの信頼と絆がドミンゴのコンサートを実現させ、フレミングの参加も可能になったわけである。

     もちろん、2011年の震災後のコンサートも、寺島夫妻への信頼感があるからこそ、実現したものである。

    「私にとって、日本公演は特別な意味合いをもっています。いつも日本の聴衆は集中力と静けさをもって演奏を聴いてくれますし、音楽への理解が深い。震災後のあの特別な空気が流れ、魔法の時間が生まれたように、今回のルネとのコンサートでも、同じような瞬間が生まれることを願っています」

     現在ドミンゴはオペラではバリトンの役に徹しているが、コンサートではテノールの役もうたうと語っている。プログラムはまだ決定していないが、ドミンゴとフレミングの得意とするオペラ・アリア、ふたりのデュオ、そしてドミンゴのサルスエラ(スペインの民族的なオペラ)も聴くことができるかもしれない。

     最後にドミンゴがいった。

    「私は聴衆とコミュニケーションを取ることをもっとも大切にしています。自分の声でそれができる職業に就くことができ、こんな幸せなことはありません。ぜひ、私と一緒にうたってください。みんなで特別な空気を生み出しましょう!」



    <公演情報>
    「プラシド・ドミンゴ&ルネ・フレミング スペシャル・コンサート イン ジャパン2017」
    日時:2017年3月13日(月)19:30開演
    会場:東京国際フォーラム ホールA
    ユージン・コーン指揮 東京フィルハーモニー交響楽団
    予約・問い合わせ:チケットスペース 03-3234-9999 
    発売日:12月10日(土)午前10時~
    入場料金:SS席43,000円~D席7,000円 

    2016年12月 1日音楽ジャーナリスト&ライターの眼(1版)掲載 執筆記者:伊熊よし子

    音楽ライター記事一覧を見る

    クラシック のテーマを含む関連記事

    <Topics>キリル・ペトレンコ 徹底リハーサル信条 バイエルン国立歌劇場、来日公演

     6年ぶり7度目の来日公演を行っている独バイエルン国立歌劇場が記者会見を行い、音楽総監督の指揮者、キリル・ぺトレンコや公演演目のワーグナー《タンホイザー》の主役、フォークト、ダッシュ、ゲルネなどが登壇した。 ぺトレンコは2013年のバイロイト音楽祭での《ニーベルングの指...

    <Topics>藤木大地、西村悟 高評価のテノール 音コン優勝し、順風満帆な活動

     テノール歌手は声の魅力が最大の要素だろう。 日本音楽コンクール(音コン)で優勝したテノール二人が、順風満帆な活動を繰り広げている。一人はカウンターテナーの藤木大地。初めてのCD「死んだ男の残したものは」(キング)の評価が高い。 藤木のキャリアには「初」が目立つ。カウン...

    <新・コンサートを読む>草津の音楽祭で遠山慶子のピアノを聴く=梅津時比古

     ◇生産性を離れて見える美 寝る間も惜しんで、という言葉がある。それだけ働かざるを得ない、あるいは活動的でありたい、等々の気持ちの表れだろう。寝ることが非生産の極みに置かれている。確かに、寝ている間は普通、意識もなく、人格も感じられない。寝ほうけていれば、蚊に刺されても...

    世界中でもっともライヴを聴きたいと切望されているピアニスト、グリゴリー・ソコロフのCD&DVDが登場

     長年、「幻のピアニスト」と呼ばれ、現在はヨーロッパで活発な演奏活動を行い、そのつど大きな話題を呼んでいるロシアのグリゴリー・ソコロフは、いま世界中でもっともライヴを聴きたいと切望されているピアニストではないだろうか。 もちろん、1990年以降は来日公演がないため、日本...

    シューマン、ベートーヴェン、シューベルトからの“特別”な3作品。 その豊かな響きから、作曲当時の彼らの心模様が鮮やかによみがえる

    (取材・文/原納暢子)●天才たちのロマンチシズムに酔いしれる 若草色のロングドレスで伊藤恵が登場するや、開演前の緊張した空気が和らいで、ステージが春めいて見えた。誘われるように深呼吸して、演奏を待つ束の間もうれしい気分になる。 興味深いプログラム、何か意図があるのだろ...

     

    ページの先頭へ戻る

    • RSS
    • お問い合わせ