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    没後30年、フュージョン界の“幻の名ギタリスト”ビリー・ロジャースを再検証する

    配信日: | 配信テーマ:洋楽

    ビリー・ロジャースはフュージョン界の“幻の名ギタリスト”である。

    1977年にラリー・カールトンの後任としてザ・クルセイダーズに加入したビリーは日本公演にも同行、そのプレイは高く評価されるが、アルバム『イメージ』(1978)に参加したのみで脱退(ジョー・サンプルが同年発表した『虹の楽園』でもプレイしている)。そのまま二度と表舞台に浮上することなく1987年2月11日、37歳の若さでドラッグのオーヴァードーズで亡くなってしまった。

    近年ではその名前が音楽ファンの口に上ることも減ったビリーだが、久々にその名前を聞いたのがジェフ・リッチマンにインタビューしたときだった。ロサンゼルスのクラブ『ベイクド・ポテト』などでプレイ、2016年に新作アルバム『シズル』を発表したジェフは1979年にジョージ・デュークの新バンドのオーディションを受けているが、合格には至らず。バンドのギタリストの座を射止めたのはビリーだったという。ジェフは「ビリーは素晴らしいギタリストだったし、無理もないよ」と、その腕前を讃えていた。

    ただ残念なことに、ビリーのギター・プレイはほとんどテープに収められることがなかった。ザ・クルセイダーズの『イメージ』について、彼は「自由に弾かせてもらえなかった。あれが自分の本領ではない」と不満を漏らしており、それがバンド脱退の一因ともなっている。彼の在籍時にイギリスのコルチェスターでBBCラジオによって収録されたライヴ音源も聴くことが出来るが、そのプレイはやはり一歩退いて抑えたフォー・ザ・チームのものだ。

    生前のビリーは自らのリーダー・アルバムを発表することがなかった。だが没後の1993年には『The Guitar Artistry of Billy Rogers』というCDが発表されている。この作品はビリーの母親ドロシーが企画したもので、彼の遺した300本におよぶカセットテープからピックアップ、再構成したものだ。

    プロデュースにあたったのはニューヨークで活動するギタリストのデイヴ・ストライカーだ。彼はビリーのカセットテープをすべて聴き込み、その中からビリーのベスト・プレイを選んでいる。その多くは自宅でのホーム・レコーディングだっため、デイヴとジェイ・アンダーソン(ベース)、ジェフ・ハーシュフィールド(ドラムス)が新たにバッキング・トラックをレコーディングしている。

    ビバップ調の「ビリーズ・バップ」からビリーのギターは絶好調で、全10曲49分、ファンキーなカッティングから超絶速弾きまでをこなすスリリングなギターが全開だ。ハービー・ハンコックの「テル・ビー・ア・ベッドタイム・ストーリー」やマイルス・デイヴィスの「ESP」なども見事にアレンジされており、ビリー・ホリデイでおなじみの「グッド・モーニング・ハートエイク」はリンダ・カニンガム・ジアンバルヴォの女声ヴォーカルをフィーチュアしたライヴ・ヴァージョンが収録されている。その速弾きソロは、実際の音数以上にスリルとスピード感を伴うものだ。

    カセット音源をソースにして、オーヴァーダビングを重ねた作品ゆえに、音質は決してベストとはいえない。だがエフェクトをほとんど使わないドライな音でありながら熱気あふれるギターには、聴く者の胸に突き刺さるマジックがある。

    『The Guitar Artistry of Billy Rogers』の日本盤CDは発売されたことがなく、1993年に1度だけプレスされた作品だが、2016年現在でもプロデューサー/ギタリストのデイヴ・ストライカーのウェブサイト( http://www.davestryker.com )で購入することが可能だ。高度な英語力がなくても購入できるので、ぜひ聴いてみて欲しい。

    ビリーがこの世を去って、もうすぐ30年が経とうとしている。だが彼のギターは、歴史の狭間に埋没してしまうには勿体なさ過ぎる輝きを放っている。ザ・クルセイダーズの来日公演を目撃したオールド・ファンも、新しい世代の音楽リスナーも、もう一度ビリー・ロジャースのプレイの輝きに触れてみるべきだろう。

    2016年11月17日音楽ジャーナリスト&ライターの眼(1版)掲載 執筆記者:山崎智之

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