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    一生に一度は行ってみたい、ビバ!ラスヴェガス

    配信日: | 配信テーマ:洋楽

    2016年8月、ラスヴェガスのハード・ロック・ホテル&カジノに滞在する機会があった。

    同月26〜28日に開催された「サイコ・ラスヴェガス」フェス(アリス・クーパー、スリープ、エレクトリック・ウィザードらが出演)を見に行ったのだが、あらゆる面で圧倒される経験だった。

    とにかく何でもデカい方が勝ち!……というアメリカにおいても、あらゆる面でケタ違いなのがラスヴェガスだ。ひとつのホテルから隣のホテルに行くのにタクシーで10ドルかかるのが珍しくなく、空港に到着するとまだ外に出てもいないのにズラリと並ぶスロットマシーンに迎えられる。

    ハード・ロック・ホテル&カジノはマッカラン空港から一番近いところにあるホテルで、部屋の窓から滑走路を見ることが出来る。その向こうには砂漠が拡がっているという、アメリカのデカさを実感させられるロケーションだ。

    MGMグランドやシーザース・パレス、ルクソール、ミラージュなど超大型ホテルが建ち並ぶメインストリートのラスヴェガス・ストリップではなく、ちょっと横道に入ったところにあるハード・ロック・ホテル。もちろんここはラスヴェガスなので、“ちょっと横道”というのはタクシーで10ドルぐらいの距離である。

    映画『コン・エアー』(1997)で飛行機に吹っ飛ばされたフェンダー・ストラトキャスターの巨大オブジェの下の玄関にはスティーヴィ・レイ・ヴォーン「ザ・ハウス・イズ・ロッキン」の歌詞“when this house is rocking don't bother knocking come on in”が書かれている。そして中に入るとレセプションが...と思いきや、おびただしい数のスロットマシーンが待ち構えている。チェックインする前にすっからかんになってしまう人もいるかも知れない。

    このホテルの原点であるハード・ロック・カフェといえば、世界各地で店舗展開を行っており、さまざまなミュージシャンのコスチュームやサイン、ギターなどが展示されていることで有名だ。このホテルでも、どこを向いてもさまざまなメモラビリアが展示されている。エルトン・ジョンのサングラス&野球ユニフォーム、グレイトフル・デッドのジェリー・ガルシアが断髪したポニーテイル、ジョニー・キャッシュのサイン入りギターからドアーズ全員のサイン、マイケル・ジャクソンのコスチューム、そしてレディー・ガガやニッキー・ミナージュら最近のアーティストに至るまで、所狭しと並ぶグッズやメモラビリアは、1日中見ていても見きれないほどだ。

    「サイコ・ラスヴェガス」フェスが開催中ということもあってか、ヘヴィ・ロック関連の展示物も多く、アリス・クーパーやフィル・アンセルモ、スリープ、ペンタグラム、トゥルース&ジェイニーなどの出演アーティストからブラック・サバス、マリリン・マンソン、マストドンなどのメモラビリアもあった。
    (ただ、フェスに合わせて一時的に展示されているものもあり、常連らしき老人が「普段ここにはエルヴィスのコスチュームがあるんだがなぁ……」とつぶやいていた。

    さらに部屋に向かうエレベーターに乗るとエアロスミス「エレベーター・ラヴ」やプリンス「レッツ・ゴー・クレイジー」、そしてレッド・ツェッペリン「天国への階段」など、エレベーター関連(?)の歌詞が手すりに印字されている。

    ホテル内には1日24時間、クラシック・ロックが流れており、音楽に身を委ねながらスロットマシーンやルーレット、ブラックジャックやバカラなどのギャンブルに興じることが出来る。ノリの良い音楽に乗って、つい大金を投じてしまうお客さんも多そうだ。

    ラスヴェガスといえば連日コンサートが行われており、古くはエルヴィス・プレスリーがレジデンシー公演を行い、近年でもマライア・キャリーやセリーヌ・ディオン、ブリトニー・スピアーズらが“常駐ライヴ”を行ってきた。ハード・ロック・ホテルにも専用コンサート・ホールが設けられ、連日ライヴが行われている。「サイコ・ラスヴェガス」のメイン会場となった「ザ・ジョイント」はKISSの『キッス・ロックス・ヴェガス』やデフ・レパードの『ビバ!ヒステリア』などのライヴ映像作品が収録された会場でもある。スタンディングのフロアとイス付きのバルコニーがあり、収容人数は4千人。いわゆるクラブ規模といえどもアメリカンサイズで、日本のホールよりもはるかにデカい。

    もうひとつの常打ち会場「ヴァイナル」は数百人収容の小規模なクラブで、ゴージャスなホテルの中に突然汗臭いライブハウスが出現した感じだ。

    さらにプールサイドの特設ステージでは泳ぎながらライヴを見ることが出来るし、ナイトクラブ『ヴァニティ』では毎晩DJパフォーマンスが行われている。

    とにかく音楽とギャンブル、グルメとパーティーに興ずることが出来るのがハード・ロック・ホテルなのだ。バカンス・シーズンの週末は宿泊料金がかなり高額になるものの、オフシーズンの平日はえっ? と驚くほど、日本のビジネスホテル並の値段になることもあり、一生に一度はラスヴェガス! と心に決めているロック・ファンにとっては手の届く距離にあるファンタジーだ。

    ただ興味深いのは、これだけ音楽漬けなのにもかかわらず、ホテル内でレコードやCDといったメディアを見かけることがほとんどないということ。展示物の中にはサイン入りレコードなどもあるが、CDやレコードを販売するショップはひとつもない。さらにいえば書店もない。

    ホテルからかなり距離のある中古盤ショップにも足を運んだが、品揃えはちょっと微妙。音楽に浸るにはパーフェクトな環境だが、レコード・マニアやコレクターの方々には向かないかも知れない。

    とはいえ、ロック・ファンたるもの、一生に一度は行ってみたいのがラスヴェガスだ。かつてエルヴィスが歌ったとおり、「ビバ!ラスヴェガス!=ラスヴェガス万才!」なのである。

    2016年9月 8日音楽ジャーナリスト&ライターの眼(1版)掲載 執筆記者:山崎智之

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