音楽ジャーナリスト&ライターの眼 ~今週の音楽記事から~

新聞社の音楽記事、音楽ライターによる書き下ろし記事を集めたウェブサイトです。(毎週、月・木更新)

音楽ライター記事

つぶやく・ブックマークする

    プラチナ・シリーズ 浜田理恵~言葉は歌い、音楽は語る~

    配信日: | 配信テーマ:クラシック

     Music Program TOKYOプラチナ・シリーズの第2回「浜田理恵~言葉は歌い、音楽は語る~」が、東京文化会館小ホールで開催される(9月22日《木・祝》16:00開演)。

     これは児童文学の新しい地平を拓く作品と称される、ルイス・キャロルの「不思議の国のアリス」をもとに、作曲家でありピアニストでもある三ツ石潤司が音楽遊戯として作曲したもので、新作初演となる。

     題して「アリスの国の不思議」。このまったく新しい形態を備えた舞台誕生には、三ツ石潤司と浜田理恵の偶然の再会があった。

     三ツ石潤司とソプラノの浜田理恵は、ともにヨーロッパに活動の拠点を置く音楽家。彼らは東京藝術大学の先輩後輩で、フランスのサント・エティエンヌの劇場で仕事をした際にばったり出会い、「何か好きなことをしたい。新しいことを創造したい」という意見で一致。今回の音楽遊戯の誕生につながった。

    「《不思議の国のアリス》はふたりとも大好きな作品で、いろんな話をするなかで、この作品を生かしながら自分たちなりのことば遊びや曲のパロディ、創造の世界が生み出せないだろうかという話になったのです。三ツ石さんはオペラのコレペティトーアや実力派の声楽家のリサイタルのピアノ伴奏など幅広く手がけていますが、作曲家として自分の本当に好きな作品を書きたいという気持ちがあり、私も既製のオペラや歌曲を歌うだけではなく、新しいものを創造することに関わりたかった。そのふたりの強い思いが今回の作品を誕生させたのです」

     こう語る浜田理恵は、第1部でサティやプーランクの小品を歌う。

     「これは“前菜”ですね。ことば遊びをおもしろく伝えるための小さなお料理で、第2部でバリトンの晴雅彦さん、そしてクラリネットやチェロ、ピアノとともに初演の音楽遊戯をメイン料理として奏でていきます」

     アリスの物語に登場するさまざまな動物も現れるが、それは歌手がユニークな舞台衣裳で表現していく。舞台美術などは設置されず、音楽とこの衣裳で内容が理解できるよう、工夫が施されている。ひとりがいろんな役を歌い込んでいくという構成だ。

     「私は三ツ石さんに曲作りをお願いするときに、聴いてくれるお客さまがそのメロディを口ずさめるような、親しみやすい音楽にしてほしいと希望を伝えました。新作というと難解だとか、面白くないとか思われてしまうとよくないため、できる限り耳に残る音楽にしてほしいと思ったのです。もちろんそれを演奏する全員が、命懸けで取り組んでいます。今回は、まったく未知なる世界への船出ですから、結果はどうなるかだれにもわからない。それだけに、ナマのステージのおもしろさ、緊張感、新鮮さ。それらをホールのなかでともに体感し、楽しんでほしいのです」

     これはナレーションを変えるだけで、世界各地で演奏できる内容。今後は学校などでも演奏できるかもしれない。そんな可能性と将来性を秘めた作品である。

     音楽を全身で受け止め、より深く楽しむためには、「不思議の国のアリス」の話を事前にさっと予習しておく方がいいかもしれない。

     約50分の音楽遊戯。出演者・関係者全員がそれぞれ自分の役割に「命を懸けている」という力の入った舞台。聴き手はその上質で完成度の高い熱演を味わうことで、しばし別世界へと運ばれるに違いない。アリスが異次元の世界へと迷い込んだように、私たちもきっと不思議な世界へといざなわれ、そこで夢を見るのではないだろうか。

    2016年8月11日音楽ジャーナリスト&ライターの眼(1版)掲載 執筆記者:伊熊よし子

    音楽ライター記事一覧を見る

    クラシック のテーマを含む関連記事

    その演奏は、聴衆の想像力をかきたて、拍手も忘れるほどに心を奪った

    (取材・文/原納暢子) クラシックは「題名のない音楽」が多いが、この日は「子供の領分」「展覧会の絵」などと「題名のある音楽」のコンサート。ピアニストのクシシュトフ・ヤブウォンスキが、1曲1曲の情景が目に浮かぶような演奏を終始展開し、品のいい安定感のある表現でホールを包み...

    <Interview>ティル・フェルナー 歌曲からの再発見 シューベルト、語るピアノパート

     ウィーンのピアニスト、ティル・フェルナーがシューベルトに取り組んでいる。テノールのマーク・パドモアとシューベルトの歌曲集《水車屋の美しい娘》《冬の旅》を上演し高い評価を得た2月の日本公演に続き、今秋から2年かけてシューベルトのピアノソナタのシリーズ公演を日本をはじめ、...

    <新・コンサートを読む>プロコフィエフの《アレクサンドル・ネフスキー》=梅津時比古

     ◇死への視線を導き出す 小学校2年のとき、ウサギを飼った。真っ白な毛とピンクの瞳。オリの中でじっとしていて、庭で取ったハコベを口元に差し出すともぐもぐ食べる。名前をつける間もなく、2日たつと動かなくなっていた。母に「死んだのね」と言われた。 庭に穴を掘って埋め、割り箸...

    「ソナタ・シリーズ」完結のチェロ奏者 山崎伸子 即興性あってこそ演奏会

     日本を代表するチェロ奏者の山崎伸子が「ソナタ・シリーズ」の最終10回目の公演を5月25日、東京・四ツ谷の紀尾井ホールで開く。共演ピアニストは小菅優。「毎回、自分自身に発見も多い。即興性があってこそ演奏会」と、ひらめきを大切にして音楽の機微をうがつ。(岩城択) 山崎は2...

     

    ページの先頭へ戻る

    • RSS
    • お問い合わせ