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    レディオヘッドが開く映画『ウィッカーマン』への扉

    配信日: | 配信テーマ:洋楽

    21世紀のロック界において最も重要なバンドのひとつといわれるレディオヘッドが本格的に動き出した。

    2016年5月にニュー・アルバム『ア・ムーン・シェイプト・プール』を発表した彼らは同時にツアーを開始。 8月には来日、『サマーソニック16』のヘッドライナーとして出演することが決まっている。8月20日(土)大阪・21日(日)幕張会場でのステージは2016年、日本のロック界における最大のイベントといって過言でない。

    もうひとつ話題を呼んでいるのが、アルバムから先行発表された「バーン・ザ・ウィッチ」のミュージック・ビデオだ。クリス・ホープウェル監督によるこのビデオは、1960年代の子供向け人形劇『キャンバーウィック・グリーン』を模した形式で映画『ウィッカーマン』を再現するというもので、イギリスのポピュラー文化を知る人ならばニヤリとする仕上がりになっている。

    『ウィッカーマン』は1973年公開のイギリス映画だ。童貞の警官が行方不明の少女を探すうち、異端宗教の儀式に取り込まれていく……というホラー映画で、『探偵スルース』や『フレンジー』(1972)で知られるアンソニー・シェイファーが脚本を手がけている。当時ドラキュラやフランケンシュタインの怪物などが当たり役だったクリストファー・リーが芸風を拡げるべく出演しているが、あまりに拡げすぎて女装までしてしまっている怪作でもある(その後リーは『007』『スター・ウォーズ』『ロード・オブ・ザ・リング』『ハウリング』『グレムリン』シリーズなど、ジャンルを超えて数々の作品に出演している)。

    何故レディオヘッドが『ウィッカーマン』を?…と思われるかも知れないが、それは不思議でも何でもない。イギリスにおいて、この映画は絶大な支持を得ているのだ。世界的には必ずしも大ヒットとはなっておらず、アメリカや日本では“カルト映画”扱いされているものの、イギリスの雑誌やウェブサイトなどで“ホラー映画ベスト100”では必ずエントリーしている作品だ。
    (余談だが、同じく“世界的にはカルト扱いだがイギリスでは名作”のホラー映画には『ウィッチファンダー・ジェネラル』[1968]や『イベント・ホライゾン』[1997]がある)

    レディオヘッドのみならず、『ウィッカーマン』は数多くのロック・アーティスト達を魅了してきた。

    アイアン・メイデンは『ブレイヴ・ニュー・ワールド』(2000)にそのものズバリの「ザ・ウィッカーマン」という曲を収録している。この曲はアルバムの1曲目でシングル・カットもされたハイライト・ナンバーで、ミュージック・ビデオには映画に出てくる巨大な生贄人形“ウィッカーマン”も登場した。

    『ウィッカーマン』劇中では多くの歌曲がフィーチュアされており、サウンドトラック盤CDも発売されている。

    そんな中で、一度映画を見たら忘れられないのが、童貞の警官が泊まる宿屋の隣の部屋で、ブリット・エクランドが全裸になって歌い踊る「ウィローズ・ソング」だろう。『007 黄金銃を持つ男』(1974)でボンド・ガールとしても知られるブリットだが、俳優ピーター・セラーズと離婚した後はロッド・スチュワート、フィリップ・ルイス(ガール→LAガンズ)、スリム・ジム・ファントム(ストレイ・キャッツ)らと浮き名を流すなど、“ロック・スター食い”で知られる女優だ。

    この「ウィローズ・ソング」は人気が高く、スニーカー・ピンプスやイソベル・キャンベル、ザ・ゴー!チーム、元LUSHのエマ・アンダーソンなどがカヴァーしている。

    なお、大地主の役でパントマイマーのリンゼイ・ケンプが出演しているが、彼がデヴィッド・ボウイのパントマイムの師匠だったこともよく知られているだろう。

    2006年にはベルギーの『ブロセラ・フォーク・フェスティバル』で『ウィッカーマン』トリビュート・ナイトが行われ、一夜限りの“ウィッカーバンド”のライヴが行われた。ペンタングルのジャッキー・マクシーとダニー・トンプソン、ベルギーのシンガー・ソングライターであるネーカ(Neeka)らが参加したこのライヴは大声援で迎えられ、映画のディレクターズ・カット版も上映された。

    なお『ウィッカーマン』は2006年にニコラス・ケイジ主演でリメイクされている。こちらは歌曲の数々、そして野原の乱交や異端の仮装祭りなど、オリジナルを名作たらしめていたあらゆる要素をカット。代わりにニコラス・ケイジが自転車でコケて蜂の巣をひっくり返して蜂に追いかけられたり、おばちゃんに顔面パンチをしたり、変な顔芸をするなど、また別の意味でカルトな作品となっていた。『ツイン・ピークス』で知られるアンジェロ・バダラメンティの音楽スコアも印象に残るものではなく、酷評されまくったリメイク版だが、オリジナルを何度も繰り返し見たすれっからしのファンには、一見の価値があるかも知れない。

    今回レディオヘッドによって『ウィッカーマン』への扉を開かれた初心者ファンは、ぜひオリジナル版映画を見て、その深遠な世界に足を踏み入れて欲しい。

    2016年6月16日音楽ジャーナリスト&ライターの眼(1版)掲載 執筆記者:山崎智之

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