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    【ライヴ・レポート】ダークシュナイダー/2016年5月13日 東京・品川プリンス ステラボール

    配信日: | 配信テーマ:洋楽

    2016年5月、北欧5カ国首脳会談を前にしてアメリカのオバマ大統領がスピーチで語ったとおり、国民1人あたりのヘヴィ・メタル・バンドの数が最も多いのはフィンランドだそうだ。だが、メタル・ファンの割合が最も高い国を挙げるとしたら、やはりドイツとなるだろう。

    1990年から開催されている『ヴァッケン・オープン・エアー』は“世界最大のメタル夏フェス”として知られ、毎年8万人を超える大観衆が集結する。さらに『バング・ユア・ヘッド』『キープ・イット・トゥルー』など、夏になると毎週末のようにメタル・フェスが行われ、数万人単位の観客動員を誇っている。ドイツはまさにメタル大国なのだ。

    ただ30年ちょっと前までは、ドイツはメタルの“辺境”に過ぎなかった。スコーピオンズは世界的な成功を収めていたが、あくまで例外だったといえる。そんな状況下で、鋭角的に斬り込む純正ヘヴィ・メタルで世界に殴り込みをかけたのがアクセプトだった。彼らの3作目『ブレイカー/戦慄の掟』(1981)と『レストレス・アンド・ワイルド』(1982)はドイツのヘヴィ・メタルを確率させた名盤であり、続く『ボールズ・トゥ・ザ・ウォール』(1984)と『メタル・ハート』(1985)で全世界にメタルの鉄槌を下すことになった。

    その黄金期アクセプトのシンガーだったのが、ウド・ダークシュナイダーだった。ずんぐりした短軀から絞り出す独特のヴォーカル・スタイルで、彼はよりコアなメタル・ファン層を獲得することに成功した。現在ではウドは脱退、アクセプトはマーク・トーニロを迎えて現在も活動を続けているが、多くのファンにとっては、アクセプト・サウンドとウドのヴォーカルを切り離すことは出来ないのである。ウドは自らのバンドU.D.O.を率いて独自の路線を進んできたが、そのライヴには必ず数曲のアクセプト・クラシックスが含まれていた。

    そのウドが2016年、「アクセプト時代の曲はもう歌わない」と封印宣言。全曲をアクセプトのナンバーで固めるスペシャル・ツアーを行うと発表したことは、メタル界に激震が走った。ウドの息子スヴェンがドラマーを務める現行のU.D.O.のラインアップはこのツアーで “ダークシュナイダー”を名乗り、2016年5月に来日公演を行うことになった。

    この日、会場には年齢層がやや高めなメタル・ファンが集まったが、あまり湿っぽさは感じない。それよりもウドがアクセプトの名曲を歌うスペシャル・ライヴへの期待と興奮が場内に漲っていた。

    そしてウドは、ファンの期待に100%以上のライヴ・パフォーマンスで応えてくれた。「スターライト」で始まったショーは「リヴィング・フォー・トゥナイト」「フラッシュ・ロッキング・マン」など、全曲が黄金時代アクセプトの名曲揃いだ。「レストレス・アンド・ワイルド」や「プリンセス・オブ・ザ・ドーン」など代表曲の数々はもちろんのこと、「ウィンター・ドリームス」「ミッドナイト・ハイウェイ」など、懐かしのファン・フェイヴァリットが蘇る。

    1952年生まれのウドゆえ、還暦を過ぎているが、圧倒的な個性で攻めるヴォーカルは揺らぐことがない。バンドのメンバーはU.D.O.がそのままダークシュナイダーとしてプレイしているだけに、お互いの呼吸もバッチリで、鋭利でタイトなプレイで魅了する。余計なアレンジを加えることもなく、アクセプトのオリジナルに忠実に演奏されている。これが最後だと感傷に浸る暇も与えられず、観衆は首を振り、拳を突き上げ続けた。

    アンコールは「メタル・ハート」「アイム・ア・レベル」「ファスト・アズ・ア・シャーク」「ボールズ・トゥ・ザ・ウォール」の連打。イントロ・テープを“本家”アクセプト側が所有しているせいか、「ファスト・アズ・ア・シャーク」の「ハイディ、ハイド、ハイダ♪」というイントロは観衆が歌うことになったが、それに異存があろうわけがない。そしてフィナーレは、まさに大団円のロックンロール「バーニング」でトドメを刺された。

    ドイツのヘヴィ・メタルを形作った名曲の数々をウドがもう歌うことがないという事実は、未だに現実として受け入れることが出来ない。ひょっとして次回の来日時には「あれはウソだ!」と撤回してくれるのでは?…とすら思えるほどだ。だが、もしもアクセプトの楽曲に彼が永遠に別れを告げたとしても、メタル・ファン達は最後の思い出を胸に、これから進んでいくことが出来る。そして一連の曲は、新しい世代のメタル・バンドによって演奏されることになるだろう。

    なおダークシュナイダーの2016年4月、ドイツのメミンゲンでの公演は収録され、映像作品/CDとして発表される予定だ。

    ドイツのメタルの川の流れは、これからも脈々と受け継がれていく。


    =Set list=

    01. Starlight
    02. Living For Tonight
    03. Flash Rocking Man
    04. London Leatherboys
    05. Midnight Mover
    06. Breaker
    07. Head Over Heels
    08. Princess Of The Dawn
    09. Winter Dreams
    10. Restless And Wild – Son Of A Bitch
    11. Up To The Limit
    12. Wrong Is Right
    13. Midnight Highway
    14. Screaming For A Love Bite
    15. Monsterman
    16. TV War
    17. Losers And Winners

    (encore)
    18. Metal Heart
    19. I’m A Rebel
    20. Fast As A Shark
    21. Balls To The Wall
    22. Burning

    2016年6月 9日音楽ジャーナリスト&ライターの眼(1版)掲載 執筆記者:山崎智之

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