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    【ライヴ・レポート】リマール/2016年4月21日・ビルボードライブ東京(2ndショー)

    配信日: | 配信テーマ:洋楽

    2016年4月、リマールが東京・大阪の『ビルボードライブ』で来日公演を行った。

    “~BACK TO 80s~”というサブタイトルが冠されていることからも窺えるとおり、このライヴは限りなく過去にベクトルを向けたものだ。リマールはかつて少年少女だった我々を1980年代にいざない、スマイルと驚きでいっぱいのショーで楽しませてくれた。

    筆者(山崎)が見に行ったのは東京初日(21日)のセカンド・ショー。この日はボブ・ディラン、アイアン・メイデン、ドラゴンフォース、ザ・ワイナリー・ドッグス、ジ・エニッドなどの公演が行われる来日ラッシュぶりだったが、観客層が必ずしも重なっていなかったのか、会場はかなりの盛況だった。

    バンドがぞろぞろとステージに上がると、カジャグーグーの1983年のヒット・アルバム『君はTOO SHY』に収録されていたインストゥルメンタル「カジャグーグー」を演奏し始める。それに乗ってこの晩の主人公であるリマールが登場するが、なんとこの曲に歌詞を乗せて歌い始める。33年の月日を経て生まれ変わった新ヴァージョンには、長年のファン達もビックリさせられた。

    さらにビックリだったのが、続いてジョー・ジャクソンの「夜の街へ/Steppin’ Out」が演奏されたことだ。1982年に発表されたこの曲は同時代のヒット曲という以外、リマールとは縁もユカリもないが、まあ固いことは言いっこなし。めったに生で聴けないポップの名曲をリマール・ヴァージョンで聴くことが出来て、観客は最初は戸惑いながらも、後半では理屈抜きで盛り上がっていた。

    その次はお待ちかね、カジャグーグーのヒット・ナンバー「ウー・トゥ・ビ・アー」だ。サプライズの2連発から始まったショーだが、ワッと歓声が上がり、立ち上がって踊り出すファンもいた。

    こうなってしまえば会場はもう1980年代だ。続いて再び、同時代という以外何の共通項もないトーク・トーク「イッツ・マイ・ライフ」が飛び出したが、イントロに「!?」となった観客もいたものの、楽しんでしまえば勝ち!とばかりに、声援と拍手を送っていた。

    良い意味での“こだわりの無さ”は、「ビッグ・アップル」でピークに達した。リマールがカジャグーグーを解雇され、ベーシストのニック・ベッグスがヴォーカルも兼任することになって初めてのシングルであり、トラウマとなってもおかしくない曲だが、彼は笑顔を浮かべながら「初めてニューヨークに行った思い出を僕たちで書いたんだ」と紹介する。“僕たち=we”で書いたということは、リマール解雇前にこの曲が書かれていたことになる。ちなみに2005年以降のカジャグーグー再結成ライヴでは1番をニック、2番をリマールが歌っていた。

    次の曲は、おそらく何百回も繰り返されたであろうステージMCから始まった。「デビュー前、僕はクラブでウェイターのバイトをしていたんだ。そのときデュラン・デュランのニック・ローズが来て、『僕もバンドをやっているんです』と自己紹介したら、デモテープを聴きたいと言ってきた。彼がレコード会社の担当に聴かせて、それが契約に結びついたんだ」と話し、“ニックへの感謝の念”を表すためにデュラン・デュランの「セイヴ・ア・プレイヤー」が披露される。

    もちろんリマールのステージMCはすべて英語だが、世界中をツアーで回っているだけあり、平易な表現とはっきりした発音で判りやすく話してくれる。「バンドがsplit upしてから僕が初めて出したレコードだ」というMCで、split upといえば“解散”を指すことが多く、バンドが解散したのではなくあなた一人がクビになったんでしょ?……とツッコミが入りそうだが、単に“別れた”という意味なのかも知れない。そんな前向上から始まったのが、1984年のソロ・シングル曲「オンリー・フォー・ラヴ」だった。リマールが「オンリー・フォー・ラヴ♪」と歌い、観客が「フーフーフーフー♪」と返すコール&レスポンスもあり、場内がひとつになった。

    今更言うことでもないが、リマールはカジャグーグーでアルバム『君はTOO SHY』とシングル3枚しか出していない。そのいずれもがヒットを記録、打率十割というのは凄いことだが、そのひとつである「ハング・オン・ナウ」はやはり観客を沸かせまくった。

    その歌唱力で評価されることは決して多くないリマールだが、30年以上歌い続けて場数を踏んできたことで、じっくり聴かせるヴォーカルの実力を持っている。1930年のミュージカル『ザ・ニューヨーカーズ』からのスタンダード「ラヴ・フォー・セール」は、しっとりとしたヴォイスで“歌手リマール”ぶりを聴かせた。

    ここでリマールはちょっと休憩。バンドのギタリスト、マイク・カスウェルが自らのアルバム『Complaints About The Noise』(2014)からインストゥルメンタル「Unearthed」をプレイする。それまでは目立ったプレイを見せなかった彼だが、1970年代のジェフ・ベックを思わせたりもするロック/フュージョン・プレイはかなりのもの。セッション・ギタリストとして活躍する彼は、実はコージー・パウエルの遺作『エスペシャリー・フォー・ユー』(1998)でソングライターとプロデューサーも務めた実力者なのだ。

    リマールがステージに戻ると、再結成カジャグーグーが2009年に発表した「スペース・カデット」を聴かせる。この曲は聴いたことがない人も少なくなかったようで、反応は今ひとつだったが、80sナンバーの数々とうまく溶け込んでいた。

    そして再びステージMCで懐かしい思い出が語られる。

    「ブドーカンでやったとき、プロデューサーのジョルジオ・モロダーと会ったんだ」

    これは1984年4月、第13回東京音楽祭のことを指す。リマールは「オンリー・フォー・ラヴ」で銀賞を獲得(グランプリはローラ・ブラニガンの「ラッキー・ワン」)、モロダーは審査員だった。意気投合した彼らがコラボレートした曲……といえば、もはやこの曲しかないだろう。「ネバーエンディング・ストーリー」だ。ソロ転向後、最大のヒット曲に、会場は総立ちとなる。この曲でライヴ本編を終えて、リマールとバンドはいったん楽屋に戻っていった。

    だが、リマールがステージに上がった以上、絶対に歌わねばショーが終わらない曲がある。アンコールは当然、「君はTOO SHY」だ。観客はステージ前に駈け寄り、リマールは歌いながら自分のブロマイドを配るサービスぶりで、約1時間半のライヴを終えた。

    1曲ごとにエピソードがあり、1曲ごとに思い出がある。リマールのライヴは、自らの(そして他人の)きらびやかなグレイテスト・ヒッツで紡いだタペストリーだった。全編エンタテイナーぶりを貫くプロフェッショナルなステージを見せられると、“一発屋”だの“80年代の遺物”など、いかなる批判も単なる“野暮”となってしまう。今なお少年らしさを振りまくオーラは、57歳という年齢を感じさせない。リマールのネバーエンディング・ストーリーは、これからも続いていく。

    2016年5月 5日音楽ジャーナリスト&ライターの眼(1版)掲載 執筆記者:山崎智之

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