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    ライヴらり:マルチな音楽性を炸裂させた人生初の二大祝典(平石カツミW記念スペシャルライヴ)

    配信日: | 配信テーマ:ジャズ



    1968年生まれ、50歳を間近に控えた平石カツミは、日本のコンテンポラリー・ジャズ界やポピュラー音楽界で“ファースト・コール”と呼ばれるベーシストである。“ファースト・コール”とは、最初にスケジュールを押さえておかなければならない“売れっ子”という意味だ。すなわち、自分のスケジュール帳は第三者が勝手にどんどん埋めていく。

    そんな彼が開催したライヴには、“W記念”という意味深な惹句が付けられていた。Wの意味は、自身のアルバム発売記念にして生誕記念。どちらもこれまでに開催したことがない、というものだ。

    ほかのパートに比べると自己名義のリーダー作を制作する機会が多くないのが、ベースという楽器の現実かもしれない。特に彼のような“サポート”というポジションに君臨している場合、それが音楽家としての活動を大きく左右し、自らの表現に固執できる時間が削られてしまうという状況を招くことは想像に難くない。

    そんな彼に、「アルバムを作りたい」という想いが募ってきたのは数年前のことだったという。手許には、キャリアを重ねる傍ら“歌詞のない世界”として自分のなかに湧いたイメージを書きとめた曲が溜まっていた。20年来という旧知のドラマーでプロデュースも手がける平井景と新宿の思い出横町で飲んでいるときにそんな話を持ちかけると、その“想い”はほどなく具体的なスケジュールとともに形を顕わにしていくことになった。

    ――こんなふうに、ライヴの合間のMCを参考にしながら想像をたくましくしてアルバム『Pleasure』の制作背景を書こうとしたのには理由がある。そのライヴ当夜に平石カツミが発していたサウンドが、「ベーシストとしての俺の集大成を見てくれ!」というものではなく、自身が積み重ねてきたベーシストとしての華々しいサポート実績を顕示するような参加曲のカヴァーやゲスト・ミュージシャンの豪華さとは距離を置くものであったことに触発されたから。いや、飛び入りも含めて総勢10余人ものJフュージョン最前線で活躍するゲストが入り乱れてのプログラムや、セカンド・ステージ冒頭に会場のモニターに映し出された辛島美登里からの祝辞VTRなど、十分に彼の業績と交友の広さに加えて人柄を語るにふさわしい演出があったからこそ、“あえて”そのことを指摘しておきたいと思ったのだ。

    “ベーシストとの距離を置く”ということでは、アルバムで演奏していたトランペットをこのステージでもかなりの比重で披露していたことにも、同様の彼の“意志”を感じた。

    マルチな楽器演奏能力を発揮するミュージシャンは、多いとは言えないものの少なくはない。しかし、それを第三者の前で披露するかどうかは別の問題だ。ベースの腕前は疑いもなく“ファースト・コール”であることによって証明されている平石カツミの、ではトランペットはどうなのかと問われれば、腕前よりも味だろうとの評価が妥当ではないだろうか。しかし本題は、彼がその腕前を披露するためにトランペットをわざわざステージに持ち込んだのではないところにあると見た。

    これらの“意志”は、平石カツミが書きとめてきた彼の個人的かつ音楽的な発露が、彼が“生業”として選んだベースを軸に生まれたものではないことを主張するためのものだったに違いない。だからこそ、その音楽が与える印象は“圧倒”ではなく、心をホンノリと温かくしてくれるものになっていたのだろう。

    表面的な解釈からでは、“ベースならではの音の裏を見続けてきたからこその世界観”などと評してしまいたくなりそうだったけれど、たぶんそれは間違っている。「平石カツミという“人間性”が音として現われたものが、このステージだった」ということをボクらは、彼の照れ隠しに惑わされずに見極めなければいけないのだから――。



    【concept】
    コラム担当の富澤えいちが観に行ったライヴをピックアップ。出演者やジャンルの特徴をつかむポイントを織り交ぜながら、ライヴ会場の雰囲気や、楽しく過ごすためのコツなどにも触れていきますので、ジャズ・ライヴを攻略するヒントにしてください。

    2016年4月14日音楽ジャーナリスト&ライターの眼(1版)掲載 執筆記者:富澤えいち

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