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    ルシファーズ・フレンド初来日公演は初期ジャーマン・ハード再評価の胎動となるか

    配信日: | 配信テーマ:洋楽

    2016年1月、ルシファーズ・フレンドが日本上陸を果たした。

    ユーライア・ヒープの来日公演へのスペシャル・ゲストとして実現したこのライヴ。シンガーのジョン・ロートンが1976年から1979年のあいだユーライア・ヒープに在籍したという縁でブッキングされたとおぼしき顔合わせだが、ドイツ出身のオールド・ハード・ロック・バンド(以下“初期ジャーマン・ハード”とする)のステージを日本で見ることが出来る、貴重な機会でもあった。

    現在のドイツは世界有数のハード・ロック/ヘヴィ・メタル大国だ。スコーピオンズやアクセプト、ハロウィンやブライアン・ガーディアン、ラムシュタインなどのバンドは世界的に成功を収めているし、ドイツ北部で毎年行われている『ヴァッケン・オープン・エアー』は世界最大のメタル・フェスティバルといわれ、毎年10万人近くのメタル・キッズが集結している。

    だが、そんな現象は1980年代からのものであり、1970年代までドイツのハード・ロックは英米と較べて数ランク“格下”の扱いを受けてきた。サイケデリックや電子音楽は“クラウトロック”と呼ばれ、マニアも多いが、初期ジャーマン・ハードは正直あまり顧みられているとは言えない。

    とはいえ、初期ジャーマン・ハード・シーンは数々の隠れた名バンドと名盤を生んできた。スコーピオンズのファースト・アルバム『ロンサム・クロウ』(1972)は後の洗練されたサウンドとは一線を画した、怪しげですらあるサウンドを聴くことが出来る、シーンを代表する作品だ。

    スコーピオンズほどの成功を収めることはなかったが、息の長い活動で人気を博していたのがバース・コントロールだ。息の長さに比例してアルバムの数も多い彼らだが、2作目となる『オペレーション』(1971)はサウンド、ジャケットともに現在でも輝きを失わない傑作だ。ちなみに次のアルバム『フードゥー・マン』(1972)収録曲からガンマ・レイというバンド名が取られたのは有名な話である。

    なお、バース・コントロールは1970年にはソフト・ポルノ映画『獣色乱行 Ich Ein Groupie』に出演している。イングリッド・スティーガー演じるグルーピーといたしてしまうロック・バンドの役で彼らは出演、当時のベーシストだったベルント・コシュミッターは全裸で尻出しまでしている。

    この『獣色乱行』にもうひとつ出演しているバンドが、マーフィー・ブレンドだ。彼らのアルバム『First Loss』(1971)は質の高いヘヴィ・サイケだが、成功を収めることはなく、短命に終わってしまった。この映画ではギタリストのウルフガング・ルムラーがやはり全裸で尻出しまでしている。

    初期ジャーマン・ハード・シーンからはブラックウォーター・パークの『Dirt Box』(1971)やナイト・サン『モーニン』(1972)などの隠れた名盤が生まれており、好き者にはたまらない。

    初期ジャーマン・ハードを語るにあたって欠くことが出来ないのは、イギリスのバンドからの影響だ。第二次世界大戦の敗戦により、ドイツは東西に分断され、西ドイツには数多くの連合軍施設が設置された。それによって英米の文化が流入し、イギリスの若手ミュージシャンがライヴを行うことも増えてきた。ビートルズやディープ・パープルのメンバー達がハンブルクで武者修行をしたことはよく知られている。そしてドイツの音楽好きの若者たちも、自らロックを演奏するようになったのだ。

    ちなみにイギリスとドイツの音楽シーンは人的交流も盛んであり、UFOのように、イギリス出身でありながらドイツでの方が人気があるバンドもいた。また、ユーライア・ヒープのケン・ヘンズリーはドイツでウィードのアルバム『ウィード』(1971)に参加している。そして、イギリス出身のシンガー、ジョン・ロートンがドイツ人ミュージシャン達と1969年にハンブルクで結成したのがルシファーズ・フレンドだった。

    ルシファーズ・フレンドの代表作といえばファースト『ルシファーズ・フレンド』(1970)とセカンド『ホエア・ザ・グルーピーズ・キルド・ザ・ブルース』(1972)が挙げられる。どちらも日本盤CDは廃盤だが、2015年には4作目『バンケット』(1974)と5作目『マインド・エクスプローディング』(1976)が紙ジャケ仕様で再発されているので、そちらに走ってしまうのも良いかも知れない。ホーン・セクションやストリングスをフィーチュアした異色作の前者、ハード路線に戻ったがどうも煮え切らない後者と、どちらもマニア心をくすぐる作品であり、これを機会にぜひ聴いてみよう。

    2016年1月の来日ライヴでは意外なほどに洗練されたステージを見せたルシファーズ・フレンドだが、現在進行形の彼らの音を聴きたいリスナーには『ライヴ@スウェーデン・ロック2015』がおすすめだ。2015年6月5日、スウェーデン・ロック・フェスティバルで収録されたこのライヴ・アルバムでは歴代のナンバーが演奏されており、日本公演と曲目もほぼ同様なため、目を閉じるとステージでの勇姿が蘇ってくる。

    なおオープニングMCでは“28年ぶりのメジャー・コンサート”と語られているが、それは1週間前の5月31日にハンブルクのダウンタウン・ブルース・クラブで小規模なウォームアップ・ライヴが行われているからだ。

    ルシファーズ・フレンドは2016年にニュー・アルバムを発表する予定で、それをきっかけに初期ジャーマン・ハードの再評価が始まる可能性もあるだろう。彼らの来日は、新しいムーヴメントの胎動なのかも知れない。

    2016年2月18日音楽ジャーナリスト&ライターの眼(1版)掲載 執筆記者:山崎智之

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