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    【ライヴ・レポート】タル・ウィルケンフェルド/2015年12月2日(第2部) ビルボードライブ東京

    配信日: | 配信テーマ:洋楽

    タル・ウィルケンフェルドが2015年11月末から12月初旬、初の単独来日ライヴを行った。

    20歳そこそこでジェフ・ベックのバンドのベーシストとして大抜擢を受けた彼女は、2007年のアメリカ『クロスロード・ギター・フェスティバル』で4万人の大観衆を前にしてプレイ、注目を集める。

    それから彼女は2009年2月のジェフの来日公演にも同行を経て、チック・コリアやオールマン・ブラザーズ・バンド、ハービー・ハンコック、ライアン・アダムスなどと共演。その小柄な体型に似合わないパワフルなベース・プレイで一躍、新世代のベース・ヒロインとなった。

    2012年10月にはヴィニー・カリウタをバックに迎えてリーダ−・プロジェクトでの来日公演を行うことが発表された彼女だが、交通事故で中止に。さまざまなミュージシャンから引っ張りだこの彼女の来日の再セッティングは困難を極めたが、足かけ3年をかけて、“主役”として日本のステージに戻ってくることになった。

    オーウェン・ベリー(ギター)、フィル・クローネンゴールド(キーボード)、タミール・バージレー(ドラムス)を従えて行われたライヴは、スーパー・ベーシストとしてのタルよりも、トータルなアーティストとしての彼女を前面に出したものだった。2016年にリリース予定だというリーダー・アルバムの新曲からショーを始めた彼女だったが、自らヴォーカルを取っており、2曲目(やはり新曲)になるとベースをオーウェンに任せ、ギターを手にしていた。また、3曲目ではホロー・ボディのベースを弾くなど、サウンド面での試みも行われていた。

    2006年にレコーディングされたソロ・アルバム『トランスフォーメーション』ではフュージョン/ファンク路線の音楽性をとり、筆者(山崎)が2009年にインタビューしたときは最も影響を受けたミュージシャンとしてジミ・ヘンドリックスを挙げていたが、この日プレイされた楽曲はいずれもポップでありながら、ジャズ風味も感じさせるものだ。アダルトなシンガー・ソングライターとしての彼女の個性と才覚を感じさせる楽曲の数々に、集まった観客(おそらく多くは彼女が過去に共演したミュージシャン達のファンだろう)も声援を送っていた。

    この日プレイされたカヴァー曲はジェフ・バックリーの「ラスト・グッドバイ」、そしてザ・スミスの「ハウ・スーン・イズ・ナウ」というもの。29歳になったばかりの彼女がさまざまな音楽を吸収しながら、進化を続けていることが窺える。

    なお、マライア・キャリーの「夢見るクリスマス」もプレイされたが、それは季節柄プレイしたのであって、おそらく音楽的な影響はないと思われる。

    随所で絶妙なベース・テクニックを披露しながらも、あくまで楽曲を生かすことを優先していたタルだが、本編ラストをバンド全員によるジャズ・テイストのスリリングなインストゥルメンタル・ジャムで締めくくってみせた。

    アンコールの最後ではタルがシェイカーを振りながら、バンド全員が場内を練り歩いて退場するという楽しい趣向もあり、 約1時間20分のショーはあっという間にフィナーレを迎えた。

    ベースの聴きどころのツボを押さえながら、今回はアーティスト&シンガーとしての側面が色濃かったタルだが、もちろんそのテクニックは一級品。今後の来日では、実力派ミュージシャン達と繰り広げるバトルにも期待できるだろう。また、リーダー・プロジェクトに加えて、かつてジェフ・ベックと共演したように、サイド・プレイヤーとして絶妙なサポートぶりを見せる彼女も見られる筈だ。

    無限の可能性を持つタル・ウィルケンフェルドというアーティストの片鱗を感じさせる、未来への扉を開け放つようなライヴだった。

    2015年12月10日音楽ジャーナリスト&ライターの眼(1版)掲載 執筆記者:山崎智之

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