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    ABCが2016年1月に来日。80sの名盤『ルック・オブ・ラヴ』がライヴで蘇る

    配信日: | 配信テーマ:洋楽

    2016年の新年早々、日本に1980年代の風が吹く。ABCの来日公演は、ポップ・ミュージックが華やかできらびやかだった時代にいざなってくれるタイム・マシンだ。

    1982年6月に発表された彼らのデビュー・アルバム『ルック・オブ・ラヴ』は、UKポップ・ミュージックにおいて最も完成された作品のひとつだ。2015年のイギリス公演では『ルック・オブ・ラヴ』完全再現が行われて話題を呼んでおり、本稿では彼らの来日を祝って、この名盤を改めて振り返ってみたい。

    『ルック・オブ・ラヴ』には、ポップ・ミュージックに求めるべきすべてがある。「ルック・オブ・ラヴ」「ポイズン・アロウ」「我が心のすべてを」などのポップでキャッチーな曲調、切なくもユーモアに富んだ歌詞。 ラメ・スーツに身を包んだ伊達男マーティン・フライのソウルフルな歌唱、トレヴァー・ホーンによるプロデュース、アン・ダドリーによるオーケストレーションは、聴く者のハートを“毒の矢”で貫き続けてきた。

    英国シェフィールドから彼らのような“華”のあるバンドが登場したのは、地元の音楽シーンに対するアンチテーゼだった。1970年代末のシェフィールドを代表するのはキャバレー・ヴォルテールや初期ヒューマン・リーグ、クロックDVAなどの実験的なエレクトロニック・グループ、あるいはデフ・レパードのようなハード・ロック・バンドだった。ファンジンを作っていたマーティン・フライがヴァイス・ヴァーサのメンバー達と結成したABCはそんなバンド達と対極にある、“シックやアース・ウィンド&ファイアーぐらい洗練されて、『ダイアモンドの犬』とクール&ザ・ギャングに育てられた”ような音楽性を志向することになった。

    デビュー・シングル「涙まだまだ」は1981年10月にリリースされ、全英トップ20にチャート・インするが、このプロダクションは彼らの理想とするものから遠かった。彼らは当時人気だった男女デュオ、ダラーの「ハンド・ヘルド・イン・ブラック・アンド・ホワイト」を聴いて、この曲をプロデュースしたトレヴァー・ホーンに声をかけることにした。

    後にマーティンは「パノラマのような、ワイドスクリーンのサウンドが欲しかった。ダラーの曲は嫌いだったけど」と語っている。

    アルバムで彼らが志したのは、汗臭いロックンロールやパンクから可能な限り距離を置くことだった。「セックス・ピストルズやクラッシュよりもハンフリー・ボガートの線を狙った」そうだが、単なる懐古趣味やノスタルジアではなく、シックやPファンクばりのダンサブルなビートをフィーチュアしたものだった。

    クラブ・シーンから発生したニュー・ロマンティクス・ムーヴメントとは一線を画し、古くて新しいポップ・サウンドは熱狂的に支持され、『ルック・オブ・ラヴ』は全英チャート1位を獲得。アメリカや日本でもヒットを記録する。

    バグルズやイエスでの活動で、ミュージシャンとして知られていたトレヴァー・ホーンだが、本作をきっかけにプロデューサーとして飛躍。イエスの「ロンリー・ハート」やバンド・エイド「ドゥ・ゼイ・ノウ・イッツ・クリスマス?」、フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッド、ポール・マッカートニー、t.A.T.u.など数多くの第一線アーティストを手がけることになる。

    また、アン・ダドリーは本作でオーケストレーションを手がけた後、アート・オブ・ノイズを結成。『クライング・ゲーム』『フル・モンティ』などの映画音楽も担当するなど、ボーダーレスな音楽活動を続けている。

    バンドと音楽、プロデュースとアレンジという、すべての歯車がピッタリはまった『ルック・オブ・ラヴ』は大成功を収め、当時デビューしたてのデュラン・デュランのジョン・テイラーも「完璧なアルバム。敵わないと思った」と語ったほどだった。

    だが、ABCは急激に失速していく。1983年に発表されたセカンド・アルバム『ビューティ・スタッブ』には、シングル「そして今は…」を筆頭に佳曲が多く収録されていたが、デビュー作の華々しさに欠けていた。それからメンバー交替が相次ぎ、オリジナル・メンバーはマーティン・フライのみとなっている。

    今回の日本公演でのライヴ演奏曲目に関しては発表がなく、当日のお楽しみとなりそうだが、イギリスでの『ルック・オブ・ラヴ』完全再現ツアーに続く形のため、同作からのナンバーがかなり多くなりそうだ。ひょっとしたら日本でもアルバム完全再現なんて奇跡が起こるかも?…と期待してしまうオールド・ファンもいるだろう。

    もちろん彼らはデビュー作のみの一発屋ではなく、「ハウ・トゥ・ビー・ア・ミリオネア」「ビー・ニア・ミー」「ホエン・スモーキー・シングス」などのヒット曲を発表しており、それらの曲も日本で披露されると思われる。

    1983年2月の初来日公演から32年。ABCの来日公演は、『ルック・オブ・ラヴ』という稀代の名盤ポップ・アルバムに再び光を当てる格好の機会となるだろう。



    <公演情報>
    「ABC ~BACK TO 80s~」

    ●ビルボードライブ大阪
    2016年1月5日(火)
     1stステージ開場17:30 開演18:30  
     2ndステージ開場20:30 開演21:30

    ●ビルボードライブ東京
    2016年1月6日(水)
     1stステージ開場17:30 開演19:00
     2ndステージ開場20:45 開演21:30
    2016年1月7日(木)
     1stステージ開場17:30 開演19:00
     2ndステージ開場20:45 開演21:30

    2015年11月26日音楽ジャーナリスト&ライターの眼(1版)掲載 執筆記者:山崎智之

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