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    【ライヴ・レポート】ベヒーモス 2015年10月13日/東京・渋谷クラブクアトロ

    配信日: | 配信テーマ:洋楽

    ヘヴィ・メタルには闇の顔がある。2015年10月13日、ベヒーモスの単独来日ライヴは、知ってはならない世界へと足を踏み入れる魔宴(サバト)だった。

    わずか2日前の10月10・11日には、日本の秋を彩る“鋼鉄の祭典”『ラウド・パーク15』がさいたまスーパーアリーナで行われたばかりだ。10周年を迎えるこのメタル・フェスではスレイヤーとメガデスがヘッドライナーを務め、合計38アーティストの演奏を3万4千人の大観衆が楽しみ、熱狂した。

    ウィークエンドに大会場で盛り上がる華やかな『ラウド・パーク』がメタルの“光”だとすると、その2日後、平日夜に鬱々と繰り広げられたベヒーモスの小会場でのライヴはメタルの“闇”だ。

    ポーランド出身のブラックンド・デス・メタル・バンド、ベヒーモスが初めて日本の地を踏んだのは、2008年10月のことだ。2010年4月には『EXTREME THE DOJO Vol.23』で3バンドのトリを務め、3度目の来日は『ラウド・パーク13』と、徐々に日の当たる場所に動きつつあった彼らだが、一転して暗闇に身を隠して行ったのが今回の来日公演だ。

    この日、渋谷クラブクアトロにベヒーモスを追ってきた人々もまた、“ナイトブリード=夜に生まれし者”だ。彼らは『ラウド・パーク』に背を向けてこの会場を選択したか、それとも2日間のフェスを楽しんだ後、さらに“獣の数字”である6,660円のチケット代を払うことを辞さないマニアである。
    (ちなみにベヒーモス公演と『ラウドパーク』のプロモーターは同じクリエイティブマン。今回の来日が『ラウドパーク』とずれたのは、単に香港と台湾のツアー日程との関係だった)

    しかしこれほどまでに、闇を愛する者がいるのか。一歩外に出ればネオンに彩られた渋谷センター街(バスケットボールストリート)が拡がっているというのに、会場は約8割の入り。666人の観衆(推定)は、アルバム『ザ・サタニスト』からの聖ならざる曲が演奏されるのを待ちわびているのだ。

    ほぼ開演予定時刻の19:00ピタリに律儀に始まったライヴだが、それを除けば、彼らの邪悪な世界観は見事に完成されたものだった。『ザ・サタニスト』と同様に「ブロウ・ユア・トランペッツ・ゲイブリエル」から始まったショーはメンバー達の演奏からステージ・アクション、コスチューム、立ち位置、ライティングなどに至るまで、統一感を感じさせる。それは決してアイドルのコンサートのようにコーディネートされたものではなく、バンドとクルーに“反キリスト教”というひとつのゴールがあるから成り立つものなのだ。

    ヴォーカル兼ギターのネルガルは吼え、叫び、世界を呪詛しながら、「死ね、ジーザス!」と日本語でメッセージを伝える。セト(ギター)とオライオン(ベース)とのコンビネーションも一糸乱れず、本編ラストでは3人並んで血を吐き、最前列の観客を血まみれにした(もちろん血糊だ)。

    虫垂炎の手術で『ラウド・パーク13』を欠席したインフェルノ(ドラムス)だが、そのリベンジとばかり、超絶ドラムスを叩きつける。さらに「アット・ザ・レフト・ハンド・オブ・ゴッド」ではクルーと共に呪術的なトライバル乱打を披露し、観衆の暴力衝動を抗えないほどにかき立てた。それに応じるように、場内には幾つものサークル・ピットが出来上がった。

    ラスト「オー・ファーザー、オー・サタン、オー・サン」ではメンバ−全員が角の生えた悪魔マスクを着用。ぼんやり浮かび上がるシルエットが奏でる演奏は、魔族の饗宴を締めくくるに相応しいものだった。

    メタル・ファンにとっては、光が眩しすぎるときがある。そんなとき、漆黒よりも暗い闇は、心地よい安住の地だ。夜に生まれし者は、夜に還っていく。約80分のライヴが終わって、会場は嘔吐するように虚脱状態の我々を吐き出した。

    2015年10月22日音楽ジャーナリスト&ライターの眼(1版)掲載 執筆記者:山崎智之

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