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    【ライヴ・レビュー】ジェフ・ベック @ブルーノートジャズ・フェスティバル・イン・ジャパン 2015年9月27日/横浜赤レンガ野外特設ステージ

    配信日: | 配信テーマ:洋楽

    2015年9月27日、横浜赤レンガ野外特設ステージで『ブルーノートジャズ・フェスティバル・イン・ジャパン』が行われた。

    日本では第1回となるこのフェスティバル。ベイブリッジとみなとみらいを臨みながら秋の海風に吹かれてジャズに聴き入るという最高のロケーションだ。空模様が怪しかったものの、最後まで雨に降られることはなく、夜になるとスーパームーン前夜の満月に照らされて、幻想的な雰囲気を味わうことが出来た。リストバンド方式のため場外の飲食店、あるいは隣接している“工作船資料館”にも足を伸ばすことが出来るなど、自由度の高いフェスだった。

    指定席を前方に設置したメイン・ステージ“BIRD STAGE”とスタンディング形式のセカンド・ステージ“DIZ STAGE”の2ステージで交互にライヴが繰り広げられ、ジェフ・ベック、パット・メセニー、インコグニート、ロバート・クラスパー、ハイエイタス・カイヨーテなど知名度と実力を兼ね備えたトップ・アーティスト達を揃えたラインアップに、チケットの売れ行きも上々。場内エリアは大勢の観衆のスマイルが満ちあふれ、シードルなど一部ドリンクは終演を待つことなく売り切れとなった。

    “BIRD STAGE”のヘッドライナーはジェフ・ベックだ。やはり第1回のトリとなると、大物アーティストを持ってきたいところだろう。1年半前に単独来日公演を行い、そのとき“近日発売”予定だったニュー・アルバムが未だに出ていないジェフだが、観衆の多くが彼目当てだったことは間違いない。

    半世紀を超えるプロ・キャリアを持つジェフは、世界のあらゆるフェスに出演してきた。1969年のウッドストック・フェスはキャンセルしたものの、その直前の『ニューポート・ジャズ・フェスティバル』には出ているし、最近ではエリック・クラプトン主宰の『クロスロード・ギター・フェスティバル』の常連だ。日本においても1975年の『ワールド・ロック・フェスティバル』、1986年の『Suntory Beer Sound Market ‘86』、1989年の『Kirin Beer’s New Gigs ‘89』、2006年の『ウドー・ミュージック・フェスティバル』など、もはやフェス常連だといえる。

    実際にジェフが“フェス向き”のアーティストかというと、やや疑問である。彼にはヒット・シングルがあるわけでもないし、ショーアップされたステージを見せるわけでもない。彼はただひたすらギターを弾くだけであり、野外フェスの拡散した空気は、彼のプレイの繊細なタッチを生かしきることが出来ない。『ブルーノート・フェス』の2日前にZepp Tokyoで単独公演が行われたが、やはり屋内の小会場の方が、彼のギターを直接ハートで吸収することが出来た。

    とはいっても、ジェフのギター・プレイには文句なしの説得力があり、この日も彼の指先からは幾つものマジックが生まれた。

    この日ジェフはリヴァース・ヘッドの白いストラトキャスターでほぼ全編弾きとおし、ジミ・ヘンドリックスの「リトル・ウィング」のみチューニングの異なる別のストラトを弾いていた。1本のギターでもその表現力が無限なのが、ジェフ・ベックというギタリストなのである。

    『フー・エルス!』(1999)からの「イーヴン・オッズ」という、ちょっと意外な選曲から、近年のライヴではおなじみのビリー・コブハムの「ストラタス」、新曲「ユー・ノウ・ユー・ノウ」「プラン9」など、新旧取り混ぜた楽曲を縦横無尽に弾くジェフ。前半のハイライトは、セカンド・ギタリストとして参加しているニコラス・メイヤー作の「イェミン」だった。ニコラスの『YUZ』(2007)に収録されていたこの曲をライヴで聴いたジェフが惚れ込んだ、という逸話があるナンバーだが、ジェフがキャリアを通じて垣間見せてきたオリエンタル趣味を現代風にアップデートした秀曲だ。
    (ギター・ロックに東洋の旋律を持ち込んだ先駆者のひとつが、ジェフ在籍時のヤードバーズによる「オーヴァー・アンダー・サイドウェイズ・ダウン」だったともいわれる)

    ニティン・ソウニーの書いた「ナディア」は近年のジェフのライヴでおなじみだが、やはり彼のオリエンタル志向が露わになっている。この日もこの曲は場内をエキゾチックな雰囲気にしていた。

    今回の来日メンバーはジェフとニコラス、ロンダ・スミス(ベース)、ジョナサン・ジョゼフ(ドラムス)という前回の顔ぶれに、ジミー・ホールが加わった布陣だ。ジミーは『フラッシュ』(1985)以来、ジェフとしばしば活動してきたシンガー。ジェフは「ジミーはサム・クックやジェイムス・ブラウンのような黒人ソウル・シンガーのようにも歌えるし、ロッド・スチュワートのようなザラザラしたスタイルでも歌える。僕にとって理想の白人シンガーはポール・ロジャースだけど、ジミーはその域に近づいている」とベタ褒め(筆者によるインタビューより)だが、長年のファンからは賛否…というか、やや“否”が勝る存在だ。時にがなり立てるような声質が災いしているのかも知れないが、おそらく彼が受け入れられない最大の理由は、「ジミーが歌うよりも、その部分をジェフがギターで弾いた方がはるかに雄弁でエモーショナル」だからだろう。もし別のバンド、別のギタリストで活動していたら、もっと高く評価されていたかも…と考えるとある意味、ジミーは不運なシンガーなのかも知れない。

    後半に入ると夜も深まり、「哀しみの恋人達」、「コーパス・クリスティ・キャロル」、「デイ・イン・ザ・ライフ」と泣かせるギター・インストゥルメンタルがひときわ映える。いつまでもジェフのギターに聞き入っていたい、と想いながらも、本編は「ローリン・アンド・タンブリン」で終了。アンコールは「ダニー・ボーイ」「ゴーイング・ダウン」だった。フェスが“祭り”であることを考えると、ロック・ナンバーで盛り上がって終了するのが正解なのだろう。
    (なお2日前の単独公演は「ローリン・アンド・タンブリン」「ゴーイング・ダウン」で本編終了、アンコールは「ダニー・ボーイ」、そしてB.B.キングに捧げる「ザ・スリル・イズ・ゴーン」だった)

    フェス向きでない…?とかヴォーカルが…?とか、文句を垂れながらも、結局ジェフのギターに魅せられてしまった夜。フェスが終わり、 ちょっと前まで月下に響いていたギターの調べを頭の中で反芻しながら歩く帰り道は、それ自体が贅沢な瞬間だった。

    2015年10月15日音楽ジャーナリスト&ライターの眼(1版)掲載 執筆記者:山崎智之

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