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    【ライヴ・レビュー/後編】フジ・ロック・フェスティバル’15/2015年7月24日(金)〜26日(日)新潟県・苗場スキー場 〜 モーターヘッド編

    配信日: | 配信テーマ:洋楽

    「Just in case you thought we were somebody else, we are Motorhead. We play rock’n’roll」

    レミーがマイクに向かってこう語っただけで、グリーン・ステージに集った“モーターヘッドバンガーズ”達の怒号に近い声援が湧き上がった。

    フジ・ロック・フェスティバル15の初日、最大のグリーン・ステージでのセミ・ファイナル。観衆の人数こそフー・ファイターズやミューズ、ノエル・ギャラガーというヘッドライナーには及ばなかったものの、その“濃度”は彼らに劣らぬ、否、上回るものだった。

    「We are Motorhead. We play rock’n’roll」というのは、モーターヘッドのライヴではお馴染みのフレーズだ。さらに「just in case(念のため)」というのは、ライヴ・アルバムの名盤『極悪ライヴ』(1981)でラスト「モーターヘッド」の前に発していたセリフで、マニアだったら即ニヤリとするだろう。まだ1音も弾かずして、レミーは観衆を手のひらに乗せてしまった。

    1曲目は「ウィ・アー・モーターヘッド」。2000年に発表された同題アルバムからの曲だが、ヘヴィさ・スピード感ともに申し分ない爆走ナンバーだ。5年ぶりの日本公演を待ちわびたファンはその感動を言葉に表せず、代わりに暴れることでその想いを露わにする。

    ただ、2曲目に「ダメージ・ケイス」を持ってきたのは、ライヴの勢いを殺ぐことになった。往年の『オーヴァーキル』(1979)からの楽曲だが、日本でライヴ演奏されるのはおそらくこれが初めてだ(間違いだったらごめんなさい)。この日3曲目・4曲目に演奏された、おなじみの「ステイ・クリーン」「メトロポリス」を2曲目・3曲目に持ってくる必勝パターンの方が、彼らに馴染みのないファンもいるフジロックでは効果的だったのではないだろうか。

    69歳という年齢、糖尿や血腫との闘病など、体調に不安があるレミーだが、ステージ上から放つオーラは苗場の山々にまで届いていた。だが正直、そのヴォーカルやベース演奏の衰えは隠しきれるものではなかった。かつて銃弾ですら跳ね返した不死身のレミーは、そこにはいなかった。爆走ロックンロールで知られた彼らが「ザ・チェイス・イズ・ベター・ザン・ザ・キャッチ」「ロスト・ウーマン・ブルース」「ジャスト・コス・ユー・ゴット・ザ・パワー」と、テンポを落とした曲を増やしてきたことも違和感をおぼえさせたし、その歳に見合ったレミーのヨレヨレぶりは、ファンとしてはショッキングですらあった。

    ホークウィンドをクビになったレミーがモーターヘッドを結成して、2015年で40年になる。レコード会社との法的トラブルやメンバー交替など、彼はさまざまな苦難と戦い、傷を負ってきた。

    だが、戦わずしてステージを下りるレミーではない。老いて、傷つきながらも、しっかり自分の足で立って熱唱する姿からは、“滅びの美学”が感じられた。

    もちろん彼もたった一人で前進していくことは出来ない。ギタリストのフィル・キャンベル、ドラマーのミッキー・ディーという頼りになる仲間がいてこそ、モーターヘッドはモーターヘッドたり得るのだ。

    これが最後だとばかり、「ゴーイング・トゥ・ブラジル」「エース・オブ・スペイズ」「オーヴァーキル」というファスト・ナンバーで畳みかける。完全燃焼人生を69年間続けた男だからこそ出せる凄味がひしひしと伝わってくる。これまで筆者(山崎)が見てきたモーターヘッドのライヴでも、最もレミーの“生きざま”を見せつけるものだった。

    モーターヘッドは2015年8月にニュー・アルバム『バッド・マジック』を発表、その後ワールド・ツアーを行うことが発表されている。その旅路がいつまでも続くとは、レミー自身も、世界中のファンも考えていないだろう。かつてレミーは「エース・オブ・スペイズ」で「I don’t want to live forever 永遠になんか生きたくない」と歌ったが、心臓が止まるその瞬間まで、モーターヘッドは爆走を続けるだろう。

    幾つもの名演が生まれた3日間。モーターヘッドのステージは、フジロックの歴史に新たな神話が生まれた瞬間だった。

    2015年8月27日音楽ジャーナリスト&ライターの眼(1版)掲載 執筆記者:山崎智之

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