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    ラム・オブ・ゴッド『VII シュトゥルム・ウント・ドラング~疾風怒濤~』をより深く感じるために

    配信日: | 配信テーマ:洋楽

    ラム・オブ・ゴッドがアルバム『VII シュトゥルム・ウント・ドラング~疾風怒濤~』を2015年7月にリリースする。

    現代アメリカン・メタル最強のバンドのひとつと呼ばれる彼らの通算7作目となるこのアルバムは、先行公開された「スティル・エコーズ」「512」を筆頭に、強烈なヘヴィネスとグルーヴですべてを粉砕し尽くす。それに加えて、ランディ・ブライが初めてクリーンなヴォーカルで歌った「オーヴァーロード」など、音楽性の幅を広げた作品となっている。

    そして『VII シュトゥルム・ウント・ドラング~疾風怒濤~』は、“プラハ事件”が影を落としたアルバムでもある。

    2010年5月24日、ラム・オブ・ゴッドはチェコのプラハでライヴを行ったが、その際にステージに上がった観客のダニエル・ノセック(19歳)が転落して頭を打ち、30日後に死亡している。バンドはそのような出来事があったことをまったく知らず、約2年後の2012年6月27日にツアーで再びプラハに到着。ランディはダニエルをステージから突き落として死に至らしめた容疑で拘束されることになったのだ。

    なおランディは2010年のプラハ公演のことをほとんど覚えておらず(会場の警備が緩かったことと、ライヴ後にスリップノットのポール・グレイが亡くなったと知ったことしか覚えていなかった)、突然拘留されたことは、不条理ですらあった。

    彼が保釈されるまでの38日間拘留されたパンクラーツ刑務所の歴史を描いた「スティル・エコーズ」、彼が収容されていた監房の番号からタイトルを得た「512」など、アルバムには事件に直接関連する2曲があるのに加えて、第二次世界大戦中にチェコ統治にあたったナチ高官ラインハルト・ハイドリヒの暗殺計画を描いた「アンソロポイド」、ソ連軍のチェコスロヴァキア侵攻に抗議して焼身自殺した大学生ヤン・パラフを歌った「トーチズ」など、チェコが重要なテーマとして取り上げられている。

    仲間が異国チェコで拘束され、バンドの未来に暗雲が垂れ込めたことから(最長で10年の刑になる可能性があった)、メンバー達の演奏にも怒りとショックがみなぎっている。彼らの作品でも、最もエモーショナルな“揺らぎ”を感じさせるアルバムだろう。

    ランディの拘束と裁判、そして無罪を勝ち取るまでの過程は、バンドにとってまさに“疾風怒濤=シュトゥルム・ウント・ドラング”の時代だった。ドラマー、クリス・アドラーのメガデスへの参加を含め、このタイトルはバンドの置かれた状況を描写している。

    もちろんアルバムを聴くだけでも『VII シュトゥルム・ウント・ドラング~疾風怒濤~』はアルバムそのものが事件のあらまし、そして彼らの想いを雄弁に物語っているが、さらに深く掘り下げることが出来るのが、DVD『As The Palaces Burn』とランディ自らが著した本『Dark Days: A Memoir』だ。

    ドン・アーゴット監督による映像作品『As The Palaces Burn』は元々、前作『レゾリューション』(2012)に伴うワールド・ツアーと、世界各国のファン気質を描いた作品となる筈だった。そのため前半はコロンビア、イスラエル、インドのファンが描かれており、バンドの大ファンであるコロンビアのタクシー運転手が「俺の友達がメデジン・カルテル(コロンビア有数の麻薬・犯罪組織)に殺されてさぁ…」と遠い目をして、そのボスだったパブロ・エスコバルの墓が映し出されたりもする。

    だが後半になるとプラハ事件が軸となり、ランディやメンバー、家族の表情、そして裁判の模様までが映像として収められている。

    一方『Dark Days: A Memoir』はランディがパンクラーツ刑務所で過ごした38日間を中心に、彼の心境をあますところなく明かした書籍だ。

    自分のライヴでファンが亡くなったという事実、それが自分の責任かも知れないという呵責、千人以上が処刑されたパンクラーツ刑務所で受刑者たちと共に過ごす生活、異国での裁判、まったくヘヴィ・メタル・カルチャーを理解しない法廷で“ステージ・ダイヴ”を説明する苦労など、ランディの苦悩が、全編貫かれている。

    ただ、どんな苛酷な状況でもユーモアは失われていない。同室のモンゴル人受刑者(ドルジという名前)との珍妙なコミュニケーション、シャワー室でうっかり石鹸を落としてしまい、「犯されないか?」と冷や汗をかきながら拾った話、祝日の特別メニューとして激臭チーズOlomoucké tvarůžkyが出てきて悶絶したなど、決して暗くなりすぎないのが本書の特徴だ。

    マネージャーから差し入れされた本がカフカの『審判』(主人公が理由も判らず刑務所に入れられ、最後に処刑される。なおカフカはチェコ出身)で、ランディが「何でよりによってこの本を…」とぼやくエピソードは、不謹慎ながらプッと笑ってしまう。

    さらにランディにとっての“ロック・スター”論や、アルコール中毒の告白、早産だった長女の死、そしてパンクラーツ刑務所の歴史(第二次大戦中のナチ統治下、労働力や銃弾をセーブするためフランスからギロチンを取り寄せた)など、彼の心象風景が本のあちこちで語られている。

    残念ながら現時点でDVDは日本未発売、本は英語版のみだが、『VII シュトゥルム・ウント・ドラング~疾風怒濤~』の世界観をより深く感じるために、ぜひ押さえておきたいところだ。

    4作目のアルバム『サクラメント』(2006)が全米チャート8位、続く『ラス』(2009)が 2位、『レゾリューション』(2012)が3位と、世界制圧も目前のラム・オブ・ゴッド。今回はいよいよ全米ナンバー1獲得を期待されている。メタル界をリードしていくだけのパワーと激情が、このアルバムにはある。

    2015年のメタル界を席巻する傑作アルバムである『VII シュトゥルム・ウント・ドラング~疾風怒濤~』は、DVDと本と絡み合いながら、ひとつのドラマを紡いでいるのだ。

    2015年7月23日音楽ジャーナリスト&ライターの眼(1版)掲載 執筆記者:山崎智之

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