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    映画『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を音楽的に語ってみる

    配信日: | 配信テーマ:洋楽

    2015年のベスト映画という呼び声も高い『マッドマックス 怒りのデス・ロード』は世界的に大ヒットを記録しているが、音楽的に語りがいのある映画でもある。

    全編アクションとバイオレンスの本作には悪の独裁者イモータン・ジョーや息子のリクタス・エレクタス、人食い男爵、おばさんバイカー軍団など、個性的すぎるキャラクターが多数登場するが、その中でも熱狂的に支持されているのが“ドゥーフ・ウォーリアー”だ。

    イモータン・ジョー率いる“ウォーボーイズ”の改造車軍団の一員としてギターをかき鳴らす“だけ”のドゥーフ・ウォーリアーだが、武装トラックの上で巨大スピーカーの壁を背にしてツイン・ネックのギター(片方が6弦ギター、もう片方は4弦なのでおそらくベース)から火炎を噴射する姿は鮮烈なインパクトをもたらした。セリフもなく、終盤を除くとほとんど動きもないものの、映画を見た誰もが「あのギターから火を噴いていた人」について熱く語る。アイアン・メイデンのロゴ体で“DOOF WARRIOR”と書かれたTシャツ(非公認)も海外で発売されたほどだ。

    演じるIOTAはオーストラリアのシンガー・ソングライターだ。この映画でのインパクトがあまりに強すぎたため、デス・メタルかグラインドコアのミュージシャンではないかと誤解されるが、その音楽性はアンビエント色のあるエクスペリメンタル・ポップ/ロックだったりする。

    そして『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の映画音楽を手がけているのは、ジャンキーXLだ。オランダ出身のトム・ホルケンボルフのソロ・プロジェクトであるジャンキーXLはエレクトロニカ・アーティストとして『サタデイ・ティーンエイジ・キック』(1998)でワールド・デビュー。プロディジーやケミカル・ブラザーズなどの流れで評価されてきた。アーティストとしての活動と並行して映画音楽も手がけるようになった当初、『DOA デッド・オア・アライブ』(2006)ではゲーム原作の映画だったこともあって、エレクトロニックかつロックなアプローチを取っていたが、『300 帝国の進撃』(2014)ではオーケストラを用いた雄壮な映画スコアを提供していた。本作においても、フル・オーケストラの演奏に加えて、彼自らがギターやドラムス、シンセを担当。さらに一部ギター・パートをヤー・ヤー・ヤーズのニック・ジナーが弾いているのも注目だ。

    ちなみにニックのヤー・ヤー・ヤーズの仲間であるカレンOは『かいじゅうたちのいるところ』(2009)の音楽を手がけるなど、つくづく映画に縁のあるバンドだ。

    いわゆる“テーマ曲”はないものの、強い印象を残すのが重厚な反復フレーズからなる「サヴァイヴ」だ。この曲、どこかで聴いたと思ったら、ポーランドの現代音楽家クシシュトフ・ペンデレツキの『交響曲第3番』第4楽章「パッサカリア〜アレグロ・モデラート」に似ていたりする。こちらが重要な役割で使われた映画『シャッターアイランド』(2010)の音楽監修を担当したのがロビー・ロバートソンなので、ロック・フィールドのミュージシャンの感性に強くアピールするフレーズなのかも知れない。

    (余談ながら、レディオヘッドのジョニー・グリーンウッドがペンデレツキに傾倒していることも有名だ)

    なお『マッドマックス 怒りのデス・ロード』はサウンドトラック・アルバムも発売されている。映画本編だとカーチェースや爆発、巨大砂嵐などの爆音と一体になって輪郭を掴みづらい音楽をじっくり聴くことが可能だ。ジャンキーXLが「ヒッチコックの『めまい』へのオマージュ」と語るのも、音楽単体で聴くことで初めて納得がいったりもする。

    ジャンキーXLは本作に続いて『バットマン v スーパーマン:ドーン・オブ・ジャスティス』の音楽も手がけており、そのシンフォニックvsエレクトロニックなスタイルがどのように発揮されるか楽しみだ。

    日本版エンディング・テーマ「Out Of Control」をMAN WITH A MISSION × ゼブラヘッドが手がけたり、映画本編に登場するイモータン・ジョーの愛妾の一人がゾーイ・クラヴィッツ(レニー・クラヴィッツの娘)だったり、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』はとにかく音楽ネタに事欠かない映画なのだ。

    2015年7月16日音楽ジャーナリスト&ライターの眼(1版)掲載 執筆記者:山崎智之

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