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    スピン・ドクターズが「トゥー・プリンセス」から22年、『ソングス・フロム・ザ・ロード』でブルース・ロック・バンドとして復活

    配信日: | 配信テーマ:洋楽


    スピン・ドクターズの「トゥー・プリンセス」が世界的なヒットを記録したのは、1993年のことだった。

    1990年代初頭のアメリカン・ロックを代表するこの曲が世に出たのは1991年8月、アルバム『ポケット・フル・オブ・クリプトナイト』の収録曲としてだった。当初はCDショップの店頭でも目立たなかったこのアルバムだが、精力的なツアー活動、MTVでの「リトル・ミス・キャント・ビー・ロング」「トゥー・プリンセス」ミュージック・ビデオのエアプレイ、全米カレッジ・ラジオ・ステーションの支援、人気TV番組『サタデー・ナイト・ライヴ』への出演などで、じわじわと人気が上昇。アルバム発売から2年をかけて全米チャート3位、アメリカのみで500万枚(海外を含めるとトータル1,000万枚)というメガヒット作となった。そして「トゥー・プリンセス」はアメリカで7位、イギリスで3位という、チャート上位にランクインしている。

    「トゥー・プリンセス」がこれほどの成功を収めたことについて、“装飾過多の1980年代に対する反動”、“大学生のギター・ロック志向”などの理由を挙げることは容易だ。だが、その逆に何故、続く『ターン・イット・アップサイド・ダウン』(1994)のセールスがガクンと落ちて(それでもアメリカで100万枚を売ったが)、さらにアルバムを追うごとに人気が凋落していったかの説明にはならない。彼らの名前が人々の口に上る機会は減り、『ナイス・トーキング・トゥ・ミー』(2005)を最後に、アルバムも途絶えることになった。

    米『ローリング・ストーン』誌が選出する“1990年代ワースト・バンドTOP10”の8位に選出されたり、このまま1990年代のワン・ヒット・ワンダー(一発屋)としてその名を残すかと思われたスピン・ドクターズだが、8年ぶりのアルバム『イフ・ザ・リヴァー・ワズ・ウィスキー』(2013)は世界中のファンを喜ばせ、そして驚かせることになる。なんとこのアルバムはブルース・アルバムだったのだ。スティーヴィ・レイ・ヴォーンばりのギター・ブルースやダルなローファイ・ブルース、B.B.キングばりのモダン・ブルース、シャッフル調のブギーまで、さまざまなブルースが本作でプレイされていた。

    ただ、突然の路線変更は決して付け焼き刃ではなかった。デビュー当時の彼らはソングライター志向だったが、活動基盤だったニューヨークのクラブ・シーンで「ブルースを演らないと雇わない」と言われ、苦肉の策として次作の曲をエルモア・ジェイムズやウィリー・ディクソン風のブルースにアレンジしてプレイしていたという。シンガーのクリス・バロンは「25年前からブルース・アルバムを作りたいと考えていた」と語っているが、それが実現したのが『イフ・ザ・リヴァー・ワズ・ウィスキー』だったのだ。

    そして2015年6月、アルバム発表後の2013年10月17日にドイツのボン『ハルモニー』で行われたライヴを収めたCD/DVDが発表されることになった。『ソングス・フロム・ザ・ロード』と題されたこの作品は『イフ・ザ・リヴァー・ワズ・ウィスキー』のブルースと『ポケット・フル・オブ・クリプトナイト』のギター・ロックがオーガニックに融合を果たした、スピン・ドクターズというバンドの古くて新しい魅力を味わうことが出来る。

    ステージMCでクリスが「俺たちは『トゥー・プリンセス』だけじゃないんだよ!」と自虐的に語るシーンもあるが、本作を聴けば、彼らが単なるワン・ヒット・ワンダーでないことが判るだろう。もちろん「トゥー・プリンセス」も本編後半で披露され、ひときわ大きな声援を浴びている。

    ちなみに『ソングス・フロム・ザ・ロード』といえば、現在彼らが契約する『ルフ・レコーズ』の看板シリーズで、これまでルーサー・アリスン、ジェフ・ヒーリー、キャンド・ヒート、サヴォイ・ブラウンらがライヴCD/DVDをリリースしてきた。このシリーズに名を連ねるということは、彼らがブルース・コミュニティから“本物”と認定されたということなのだ。

    「トゥー・プリンセス」のヒットから20年以上を経て、ブルース・ロック・バンドとして復活を果たしたスピン・ドクターズ。ブルースの十字路を経て、彼らがどこに向かっていくのか、注目していきたい。

    2015年6月25日音楽ジャーナリスト&ライターの眼(1版)掲載 執筆記者:山崎智之

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