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    イエスが1972年ライヴ集大成ボックス14枚組CD『プロジェニー:1972ライヴ』を発表

    配信日: | 配信テーマ:洋楽

    英国プログレッシヴ・ロックを代表するベテラン・バンド、イエスの1972年の未発表ライヴ音源が奇跡の発掘。43年の月日を経て、デラックス・ボックス・セットとして発売される。

    『プロジェニー:1972ライヴ(デラックスBOX)』と題されたこのライヴ・アルバムは1972年北米ツアーの後半、10月31日から11月20日までの7公演のフル・セットをそれぞれの公演ごとにCD2枚、合計CD14枚に収めた作品だ。このツアーはクリス・スクワイア(ベース)、ジョン・アンダーソン(ヴォーカル)、スティーヴ・ハウ(ギター)、リック・ウェイクマン(キーボード)そして新加入のアラン・ホワイト(ドラムス)というラインアップで行われた。その模様はライヴ・レコーディングされ、LP3枚組のライヴ巨編『イエスソングス』としてリリースされたが(CDは2枚組に全曲収録)、本作には全7公演、約700分がフルで収められている。

    『イエスソングス』はプログレッシヴ・ロック史に燦然と輝くライヴ・アルバムの最高峰のひとつとして君臨してきた。ストラヴィンスキーの「火の鳥」イントロから「シベリアン・カートゥル」に雪崩れ込む瞬間のスリル、「燃える朝やけ」「同志」「危機」などの大曲、そして「ラウンドアバウト」「スターシップ・トゥルーパー」の昂ぶり。あまりに聴き込みすぎて、隅から隅まで暗記してしまったファンも少なくないだろう。本作は、それと同時期のライヴを未加工の状態で楽しむことが出来るタイムカプセルだ。しかも7公演分だ!

    アルバム『危機』を完成させた1972年7月、ドラマーのビル・ブルーフォードはバンド脱退を表明する。残されたメンバー達は急遽アラン・ホワイトを迎えるが、彼が加入してから北米ツアー初日(7月30日、ダラス公演)まで3日しかなかったというのは有名なエピソードだ。それから8月・9月・10月とみっちりツアーを行ってライヴ・レコーディングを行ったのは、アランのドラミングが不安材料だったから、という説もある。ただ『プロジェニー』を聴くと、彼がバンドの一員として見事に機能していることが判る。

    演奏が素晴らしいのに加えて、このツアーには『こわれもの』(1971)『危機』(1972)のプロデュースを手がけたエディ・オフォードが同行、レコーディングを担当しているため、音質も素晴らしい。翌年、1973年3月に初来日公演を行うイエスだが、その半年前には、バンドの充実ぶりが窺える。

    まだ『プロジェニー』は本稿を執筆している時点で2回しか通して聴いていないため(とはいっても22時間を費やしたわけだが)、各テイクの分析や、どの公演のどの曲が『イエスソングス』に使われたのか、分析はまだ行えていない。それは今後、世界中のマニアが論議を戦わせることになるだろう。だがその作業は、意外に骨の折れるものになるかも知れない。

    『イエスソングス』収録の「ラウンドアバウト」は11月1日、オタワのシヴィック・センター公演のテイクだというのが定説だが、『プロジェニー』と比較してみると、ほぼ同テイクのようではあるものの、ヴォーカルやバック・コーラスで“直し”が入っているように聞こえるし、観衆の歓声を加えたり消したりしていることで、やや印象が異なって聞こえる。1970年代のライヴ・アルバムはスタジオでオーヴァーダブを加えたり、バンドによっては録り直すこともあった。イエスがそうだとは言わないが、『イエスソングス』に収録されているテイクが『プロジェニー』とまったく同じ、というわけではないようだ。

    『イエスソングス』では「危機」「スターシップ・トゥルーパー」が1972年12月15日、ロンドンのレインボー・シアター公演からのテイク(映像版『イエスソングス』収録)、「パペチュアル・チェンジ」「遙かなる想い出/ザ・フィッシュ」が1972年2月、ニューヨーク公演のテイクといわれている(ドラムスはビル・ブルーフォード)。ただ、それらの音源のソースについてバンドからの正式発表はなく、『プロジェニー』収録の7公演以外のライヴからのテイクが収められている可能性も十分にあるのだ。

    もちろん普通の音楽ファンからしてみれば、同じセット・リストのライヴを7公演ぶん聴くのは楽な作業ではないし、お財布にも優しくない。そんなライト層のファンのために、7公演からベスト・テイクを選りすぐってCD2枚組にした廉価盤仕様の『プロジェニー:1972ライヴ』も同時発売となる。『イエスソングス』と曲目は重複するものの、いずれもテイクは異なっており、“アナザー『イエスソングス』”として楽しむことが可能だ。

    これからじっくり『プロジェニー』を聴き込んで、それぞれのテイクを楽しむ日々がしばらく続きそうだが、ファンというのは貪欲なもの。これからどんなアーカイヴ作品が世に出るか?…と期待が高まる。

    『イエスソングス』で2曲が使われた1972年2月19・23日、ニューヨークのアカデミー・オブ・ミュージック公演、そして25日、プロヴィデンスのブラウン大学での公演を収めたマスター・テープが1998年に倉庫から発掘され、バンドに手渡されたという記録が残っているため、いずれリリースされる可能性もある。

    また1976年から1978年、アメリカやイギリス、ヨーロッパ各地でのライヴを収めた『イエスショウズ』のアウトテイクが放出される日を夢見るファンも多いに違いない。

    プログレッシヴ・ロック界ではキング・クリムゾンやエマーソン・レイク&パーマーがライヴ音源発掘を行い、マニアを驚喜させているが、今後イエスがどんなレア音源を世に出していくか、楽しみでならない。

    2014年11月の来日公演では『こわれもの』『危機』の完全再現を行うなど、イエスは現役ライヴ・パフォーマーとしても絶大な人気を誇っている。2015年夏のTOTOとの北米ツアーではベーシストのクリス・スクワイアが急性赤白血病の治療で欠場することになったが、きっと再びステージ上で元気な姿を見せてくれるだろう。リアルタイムの彼らを追いかけるのと同時に、その栄光の軌跡を掘り下げ、往年の名曲・名演に浸ることもまた、ファンにとっては喜びなのである。






    2015年5月14日音楽ジャーナリスト&ライターの眼(1版)掲載 執筆記者:山崎智之

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