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    【ライヴ・レビュー】オリビア・ニュートン・ジョン 2015年4月28日/渋谷オーチャードホール

    配信日: | 配信テーマ:洋楽

    2015年4月28日、ポール・マッカートニーが日本武道館でライヴを行ったことは、一般マスコミでも大々的に報じられた。名曲オンパレードのステージは大声援を浴びたと聞くが、それと同じ日、渋谷オーチャードホールで行われたオリビア・ニュートン・ジョンの東京公演2日目も、微笑みと歓声、拍手に彩られた、見事な盛り上がりのライヴだった。

    オリビアのデビュー45周年を記念する今回のジャパン・ツアー。66歳の彼女だが、その歌声はまったく衰えを感じさせない。むしろ、かつてレコードではパワーで押していた部分を、さらりと歌うことで、よりスムーズに心に染みこむ効果を出していた。

    45年のキャリアを誇るベテラン・シンガーにして、世界のトップ・エンタテイナーであるオリビアにとって、観衆を楽しませることは最優先事項だ。バンドと共にステージに上がると、彼女はいきなり「そよ風の誘惑」で会場全体を自分の手のひらに乗せてしまった。1975年、全米ナンバー1を記録したヒット曲に、50代のリアルタイム世代はもちろん、若めのファン(とはいっても30代ぐらいだろうか)も惹き込まれてしまう。オリビアの曲は、観客それぞれの人生を彩ってきたサウンドトラックなのだ。

    「ジーン・ケリーと踊った曲よ。覚えてる?」というMCから披露された「ザナドゥ」、そして「マジック」は1980年公開の映画『ザナドゥ』挿入歌だ。オリビアのど真ん中ポップ次代のこれらの曲は40代半ばの筆者(山崎)にとっては直撃のヒット・ナンバーであり、熱いものが胸にこみ上げてくる。その次に歌われたのは、やはり1980年の「恋の予感」だが、斜め前のおばさんが目尻をぬぐっているのが見えた。筆者と同世代だろうか。

    ライヴ中盤にはアコースティック・コーナーが設けられ、カントリー路線の初期のナンバーが歌われる。「イフ・ノット・フォー・ユー」や「プリーズ・ミスター・プリーズ」、「カントリー・ロード」、「バンクス・オブ・ジ・オハイオ」など、1970年代に歌った曲も、新しい生命が吹き込まれ、鮮度を取り戻している。「バンクス・オブ・ジ・オハイオ」は愛する人を刺殺する暗い曲のはずなのに、みんながスマイルを浮かべ、手拍子を送っている。

    そんなカントリー・コーナーの最後に演奏されたのが「フィジカル」だった。エアロビクス全盛時代のミュージック・ビデオが大人気だったこの曲ゆえ、さすがに落ち着いたアレンジにするのか……と思っていたら、最初の数節を歌った後に「ストップ!みんな、昔みたいなので聴きたいでしょ?」と観衆に問う。もちろん「イエス!」の声援が湧き上がり、オリビアは立ち上がって、ポップ・ヴァージョンで最初から歌い直した。もちろんこれが“お約束”なのは判っていても、観衆はワッと爆発する。彼女は軽やかなステップでダンスも見せ、会場は盛り上がり大会となった。

    「フィジカル」がライヴ中盤のハイライトだったとすれば、後半のハイライトは『グリース』コーナーだった。1978年、オリビアがジョン・トラボルタと共演したこの映画は、彼女を世界的ポップ&映画スターにするミサイル発射台だった。この日は5曲を、メドレー形式ではなくフルで歌唱。「私はサンドラ・ディー」「恋のデュエット」「愛すれど悲し」「想い出のサマー・ナイツ」「ウィ・ゴー・トゥゲザー」を、バック・シンガー(ジョン・トラボルタのパート担当のシンガーを含む)を交えながら歌った。

    本編ラストをビッグ・パーティーで締めくくった彼女はアンコールではしっとりと「グレイス・アンド・グラティテュード」「愛の告白」を歌い上げる。さらに2回目のアンコールではピアノだけをバックに「虹の彼方に」を歌い、約1時間40分のステージは幕を下ろした。

    キャリアを通じて社会意識が高く、さまざまなチャリティ活動にも関わってきたオリビア。1970年代にはイルカ漁に反対するために来日公演が延期になったこともあったが、今回の来日では東京・大阪・名古屋公演に加えて、『Pray For Fukushima』と題された福島公演も行われた。

    ポール・マッカートニーのあまりの元気ぶりに、また来年ぐらいに日本に来るんじゃないの?とファンが訝ったそうだが、それはオリビアも同様だ。今なおポップ界のトップを譲らないヴォーカルに微笑み、泣き、聞き入った夜は、これからも何度でも楽しみたいものだった。

    2015年5月 7日音楽ジャーナリスト&ライターの眼(1版)掲載 執筆記者:山崎智之

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