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    『ランディ・ローズ〜アルティメット・トリビュート』と現代トリビュート・アルバムの四半世紀

    配信日: | 配信テーマ:洋楽

    トリビュート・アルバムは主に、あるアーティストの楽曲を別のアーティストがカヴァー、レコーディングすることで、敬意を表するというものだ。

    『○○、××を歌う』という企画盤は昔から多数あり、トリビュート・アルバムというものがいつ生まれたかを特定するのは困難だ。だが、現代ロック界においてトリビュートがひとつの潮流になったのは、1990年だといえる。

    この年リリースされたイギリスの音楽紙『NME』企画の『The Last Temptation Of Elvis』にはポール・マッカートニー、ブルース・スプリングスティーン、ロバート・プラント、ダリル・ホール&ジョン・オーツ、レミー、アーロン・ネヴィルらが参加、エルヴィス・プレスリーの曲を歌って話題になった。

    また、エレクトラ・レコーズの設立40周年を記念して創られた『ルバイヤート/エレクトラ40周年記念アルバム』はエレクトラの契約アーティストが同レーベルからの名曲をカヴァーするという趣向で、ザ・キュアーがドアーズを、ジプシー・キングスがイーグルスを、メタリカがクイーンの名曲をレコーディングしている。

    さらに同年リリースの『ホエア・ザ・ピラミッド・ミーツ・ジ・アイ(ロッキー・エリクソンに捧ぐ)』にはZZトップやR.E.M.、ジーザス&メリー・チェーン、プライマル・スクリームらが参加。タイトルに“a tribute to〜”と冠された作品では最初期のものとなった。

    「このアーティストがこの曲を!」という組み合わせの妙味や意外性が音楽ファンに受け入れられ、また新たに曲を書く必要がなく、アーティストの拘束時間も短くて済むというお手軽さもあって、トリビュート・アルバムは急速に大きなビジネスになっていく。過去のビッグ・ネームがアルバイト感覚で参加した安直なアルバムも粗製濫造された中で、『KISSトリビュート』(1994)や『レッド・ツェッペリン・トリビュート』(1995)、『噂〜フリートウッド・マック・トリビュート・アルバム』(1998)、『ウィ・アー・ア・ハッピー・ファミリー〜ラモーンズ・トリビュート』(2003)などは、参加アーティストの豪華さや内容の質の高さで高い評価を得ることになった。

    “トリビュート業界”で重要なのは、実力のあるミュージシャンを多数知っている人脈だったりする。ボブ・キューリックは、まさにうってつけのプロデューサーだろう。キッスの結成時に最終オーディションまで残ったという逸話を持つボブ(弟のブルース・キューリックはキッスに加入している)は優れたギタリストでもあり、ミート・ローフやマイケル・ボルトンのバックで活動、自らのバンド、バランスでは日本のTVCMに出演したこともある。セッション・ワークも数多くこなして顔が広いのに加えて、業界有数のナイス・ガイとして知られる彼は、数多くのトリビュート・アルバムを仕掛けてきた。

    クイーン、エアロスミス、キッス、アリス・クーパー、アイアン・メイデン、ビートルズ、フランク・シナトラなど、ボブはトップ・アーティストに捧げるトリビュート作を数多くプロデュースしてきたが、いずれもハード・ロック/ヘヴィ・メタル界のアーティスト達を起用しているのが特徴だ。中にはアレンジが煮詰められておらず、手っ取り早くまとめられたきらいがある作品もあるが、いずれも楽しめるものだ。そのボブ・キューリックがプロデュースする2015年の最新作が、ランディ・ローズに捧げる『ランディ・ローズ〜アルティメット・トリビュート』である。

    オジー・オズボーン・バンドのギタリストで、1982年3月19日に飛行機事故で亡くなったランディへのトリビュート・アルバムは過去にも作られたことがあるが、今回ボブはランディの兄ケリー・ローズをアソシエイト・プロデューサーに迎え、本作が“正統”なトリビュート・アルバムであることを印象づけている(本作のボーナスDVDの日本語対訳や資料では“ケル・ローズ”と表記されているが、本人がDVDで“ケリー”と発音している)。

    ブラッド・ギルスやバーニー・トーメ、ガスGなど、オジー・バンドの歴代ギタリストを起用しているのも、“正統”性を出している。なお、現オジー・バンドの一員であるガスGはオジー本人と奥方兼マネージャーのシャロン・オズボーンに「参加してもいいですか?」と承諾を得たという。

    本作の全11曲中8曲でヴォーカルを取っているのは、ティム・“リッパー”・オーウェンズだ。ジューダス・プリーストのコピー・バンドから本物のジューダス・プリーストに加入したことで一躍メタル界のスターになった彼はこれまでボブと何度もトリビュート仕事をしている常連だ。ボブ以外のトリビュートや他アーティストとのバンドやプロジェクト、ゲスト参加などがとにかく多く、その実力と裏腹にスペシャル感に乏しいシンガーだが、本作でもきっちりオジー役をこなしている。

    全曲でベーシストを弾いているのは、ルディ・サーゾだ。クワイエット・ライオットとオジー・バンドでランディと行動を共にし、飛行機事故の現場にも居合わせたルディは生前のランディをよく知るミュージシャンだ。彼はまた有名バンドを渡り歩いてきたことで知られ、オジーの『ダイアリー・オブ・ア・マッドマン』(1981)やホワイトスネイクの『白蛇の紋章』(1987)では演奏していないにも関わらず、内ジャケットやミュージック・ビデオにはちゃっかり顔を出している。クワイエット・ライオットの「バング・ユア・ヘッド(メタル・ヘルス)」(1983)のミュージック・ビデオでは彼がベーシストとして映っているが、この曲では彼は弾いていない。

    ルディはまたディオ、ブルー・オイスター・カルト、クイーンズライク、アニメタルUSAなど知名度があるバンドに次々と加入するなど、機を見るに敏なベーシストであり、『ランディ・ローズ〜アルティメット・トリビュート』のような企画を逃す筈がないだろう。

    上に挙げたミュージシャン達に加えて、本作にはアレキシ・ライホ(チルドレン・オブ・ボドム)、ジョージ・リンチ(ドッケン)、ジョエル・ホークストラ(ホワイトスネイク)、ダグ・アルドリッチ(ホワイトスネイク)などのスーパー・ギタリスト達が参加している。彼らのプレイはいずれも素晴らしいものである一方、想像から逸脱しないことも事実だ。

    だが本作で度肝を抜くのが、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンのトム・モレロがギター、システム・オブ・ア・ダウンのサージ・タンキアンがヴォーカルをとった「クレイジー・トレイン」だろう。スイッチを素早くON/OFFさせるテクニックについて「ランディとエース・フレイリーから影響された」とトムは語っているが、敬意を込めながら盛大にぶち壊し、オリジナリティを前面に出したギター・プレイは見事だ。サージのエキセントリックなヴォーカルもオジーと異なった狂気をかもし出し、鮮烈なインパクトを持っている。

    さらに強烈なのが「ミスター・クロウリー」だ。荘厳なシンセのイントロから、突如テスタメントのチャック・ビリーがスラッシュ・メタルで鍛え上げた吼え声を聞かせる瞬間は、本作最大のハイライトのひとつだ。

    ボーナスDVDはボブ・キューリックが参加ミュージシャン達にインタビューしたり、ケリー・ローズがかつてランディがギター講師をしていたムソニア音楽学校を案内するなど、あくまで“オマケ”の範疇ながら楽しめる内容だ(日本語字幕は画面に焼き付けるのではなく、別冊ブックレットに対訳が付けられている)。英文ライナーノーツでランディが“66歳のときにギターを学び始めた”と誤植があるのは困りものだが(正解はもちろん“6歳”)、翻訳者さんも困ったのか、強引に“66年に学び始めた”としているのが微笑ましい。

    実力者ミュージシャン達を揃えた一方で“手堅い”部分も多く、『ランディ・ローズ〜アルティメット・トリビュート』が四半世紀におよぶ現代トリビュート・アルバム史において頂点に座する1枚とは言えないかも知れない。だが卓越した演奏と幾つかのサプライズ、そしてランディ・ローズというミュージシャン・人間への愛情と敬意を込めた本作は、何度でも聴くに値する、楽しいトリビュートだ。

    2015年4月16日音楽ジャーナリスト&ライターの眼(1版)掲載 執筆記者:山崎智之

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