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    レニー・クラヴィッツがロックの歴史を変えた瞬間

    配信日: | 配信テーマ:洋楽

    2015年3月に予定されていたレニー・クラヴィッツのジャパン・ツアーが中止になってしまったのは、残念だった。中止理由は“予期せぬスケジュールの問題”とのことだが、チケットの売れ行きも順調だったそうで、ぜひ早めに新たな日程を組んでもらいたいものだ。

    今回のツアーは、レニーが2014年にリリースした最新アルバム『ストラット』に伴うものだった。約3年ぶりの新作となるこの作品は、レニー自らが「まるで高校時代の自分に戻ったような、真のロックンロール・レコード」と呼ぶものだ。全12曲+日本盤ボーナス・トラック4曲でトータル71分という長丁場でありながら、全編テンションが高いままで、まったくダレることがないのが、さすがレニーといったところである。

    「セックス」「ザ・チェンバー」「ストラット」などの極太ファンキーなナンバーは、いずれもライヴをダンスフロアにしてしまうこと間違いなしだし、ロック/ソウル・バラード「ザ・プレジャー・アンド・ザ・ペイン」「ウー・ベイビー・ベイビー」なども、生で聴いてみたい入魂のヴォーカルをフィーチュアしている。

    さらにレニーには、時代を超えて聴かれ続ける名曲の数々がある。2014年、『ストラット』発表後のヨーロッパ・ツアーでは「レット・ラヴ・ルール」「オールウェイズ・オン・ザ・ラン」「イット・エイント・オーヴァー・ティル・イッツ・オーヴァー」「自由への疾走」などが演奏されており、それをライヴで聴くことが出来なかったことに、歯ぎしりをするばかりだ。

    レニー・クラヴィッツが優れた曲を書くアーティストであることはもちろんだが、彼のデビューがロックの歴史において大きなターニングポイントとなったことも見逃せない。

    1980年代中盤まで、ロック音楽とは常に進化していくものだった。テクノロジーの進歩によりサンプリングやシンセサイザーが普及していき、言葉のライムを“楽器”のひとつとして進化させたヒップホップも台頭してきた。ギタリストのテクニックも飛躍的に向上、イングヴェイ・マルムスティーンやスタンリー・ジョーダン、クリス・インペリテリなど、超高速速弾きや変幻自在のタッピングを駆使するマエストロ(達人)が次々と登場した。

    当時、音楽における懐古主義は、趣味色の濃いものだった。“オールディーズ・バット・グッディーズ”の名のもと、おじいちゃんが縁側で聴くものだったり、ザ・デュークス・オブ・ストラトスフィアーやパープル・ヘルメッツなど、ディレッタント(好事家)なバンドが掘り下げていくマニアックなものだった。

    そんな流れを一変させたのが、リック・ルービンがプロデュースしたザ・カルトの『エレクトリック』(1987)だったり、レニーの『レット・ラヴ・ルール』(1989)だった。『エレクトリック』はレッド・ツェッペリンやAC/DC、ローリング・ストーンズらの美味しいところを凝縮させたサウンドを世界に鳴り響かせた。そして『レット・ラヴ・ルール』はビートルズやスティーヴィ・ワンダー、スライ&ザ・ファミリー・ストーン、レッド・ツェッペリンなど、当時アナクロと呼ばれた音楽からダイレクトな影響を窺わせ、それらのアーティスト達を再びクールにすることになったのだ。

    彼らが時代の扉を大きく開け放ったことによって、1990年代にはロックの原点回帰が起こることになる。アコースティック楽器の音色の魅力を再認識させるアンプラグド・ブームやロックの初期衝動性とリビドーを重視するグランジ・ムーヴメント、そして女性シンガー・ソングライター・ブームなどが1990年代前半のトレンドとなった。

    オアシスは1960年代レトロ・サウンドを蘇らせてスーパースターとなったが、もし『レット・ラヴ・ルール』による革命がなかったら、ここまで成功していたか判らない。ノエル・ギャラガーというソングライターの才能は何らかの形で発揮されていただろうが、オアシスの音楽性はもっと異なったものになっていただろう。

    さらに、1960年代から1970年代にロックを聴いて育ったリスナー層が購買層の少なくない割合になったことで、レトロ重視の傾向はさらに強まっていく。近年ではオーバー還暦アーティストのライヴ会場が満員になることも稀ではなくなった。

    レニー・クラヴィッツは優れたロック・アーティストでありソングライターであり、ロックの歴史を変えた重要なキーパーソンだった。彼がまた日本に戻ってきて、ステージに立つ日が、待ち遠しい。

    2015年3月26日音楽ジャーナリスト&ライターの眼(1版)掲載 執筆記者:山崎智之

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