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    【ライヴ・レビュー】 ジューダス・プリースト/2015年3月11日 日本武道館

    配信日: | 配信テーマ:洋楽

    「イングランドのミッドランズ地方は製鉄業が盛んで、空気に鉄粉が混じっている。それで俺たちの中に“メタル”の血が流れているんだ」

    ジューダス・プリーストのロブ・ハルフォードは、“メタル・ゴッド”である自分の原点についてこう語る。この地域はブラック・サバスやグレン・ヒューズ(ディープ・パープル)、ロバート・プラント(レッド・ツェッペリン)など、ハード・ロック/ヘヴィ・メタルの礎を築いた面々を育んできた。

    その鉄粉は風に乗って、日本にまで飛来したようだ。アルバム『贖罪の化身』に伴うジャパン・ツアーの東京公演において、日本武道館にはヘヴィ・メタルの“信念の守護者(ディフェンダーズ・オブ・ザ・フェイス)”達が集結。2階席の一部に黒幕をかけたものの、ほぼ満席となり、EXシアターでの追加公演も行われるなど、大盛況となった。

    場内が暗転、いよいよ始まるぞ!…と思ったら機材トラブルが発生。観衆は出鼻をくじかれた格好になったが、暗い中をバンドがステージに上がるのを待つ。ひたすら待つ。場繋ぎで流されていたAC/DCの『バック・イン・ブラック』の3曲目「危険なハニー」で復旧したが、既に出来上がっているメタル信徒にとっては、数時間待たされた気分だったに違いない。せいぜい15分程度だったにも関わらず、既に飢餓状態にあった彼らは、イントロ・テープが流れると改めて大歓声でバンドを迎えた。

    ベテラン・バンドには浮き沈みがあるものだが、ジューダス・プリーストはコンスタントに名盤・名曲を生み出してきた。最新作からの「ドラゴノート」でスタートしたライヴは、1曲目から凄まじい盛り上がりとなった。さらに「メタル・ゴッズ」「デヴィルズ・チャイルド」「生け贄」というプリースト・クラシックスを惜しげもなく披露。新作からの「ヴァルハラの宮殿」も場内のヴォルテージを上げることになった。

    この日のステージで特筆すべきだったのは、ロブ・ハルフォードの快調ぶりだろう。1曲目でステッキを手にして登場したときは驚かされたが、それは単なる小道具で、元気いっぱいの、張りのあるヴォーカルを聴かせる。彼のトレードマークであるハイトーンのスクリームも披露されたが、近年のツアーで演奏された「死の番人」や「フリーホイール・バーニング」のような、もはや人間の限界を超える声域の楽曲を外したことにより、ヴォーカルに安定感が増していた。

    今回の来日公演は『贖罪の化身』に加えて、1984年に発表された鋼鉄の金字塔『旋律の絆』の30周年を記念するワールド・ツアーの一環でもあった。彼らは1984年9月、武道館に初進出しているが、このときオープニング・ナンバーだった「誘惑の牙」を中盤にプレイ。サイレント恐怖映画の古典『吸血鬼ノスフェラトゥ』(1922)からのシーンをスクリーンに映しながら、30年を経てもこの曲がまったく古びないことを証明する。

    「地獄の行進」「ターボ・ラヴァー」「贖罪の化身」と、新旧ナンバーを交互にプレイする彼らだが、いずれもベテランの熟練と尽きることのないアドレナリンを兼ね備えている。それに少なからぬ貢献をしているのは、2011年に加入したギタリスト、リッチー・フォークナーだ。バンド創設者であるグレン・ティプトンもエネルギーあふれるギター・プレイで魅了するが、リッチーはステージ狭しと動き回るアクションと速弾き/シュレッドを交えたリード・プレイで、若いキッズ層にも十二分にアピールしていた。

    東日本大震災から4年ということで、ロブが犠牲者の方々への哀悼のメッセージを送る。その後にプレイされたのが「死の国の彼方に」というのは、タイトルからしてどんなものか?…とも一瞬思ったが、バンドのありったけのエモーションを込めた演奏を聴かされたら、あらゆる疑念は溶解していく。スクリーンには地球が映し出され、世界各国が炎に包まれていき、日本も炎上していった。

    「ジョウブレイカー」でいよいよライヴも終盤。彼らがバンドとして活動する限り永遠に演奏され続けるであろう「ブレイキング・ザ・ロウ」で観衆を歌わせた後、いったん引っ込んだロブがバイクに跨がって再入場。「殺戮の聖典(ヘルベント・フォー・レザー)」でクライマックスを迎える。頭がツルツルの初老の男が甲高い声でシャウトしながらバイクを鞭で引っぱたくという、世間一般の通念からしたら尋常でない光景も、ヘヴィ・メタル・ワールドにおける美学の極致だ。いったんバンドがステージを下りても、「プリースト!プリースト!」というコールは鳴り止むことがなかった。

    アンコールでは1982年、世界を蹂躙した名盤『復讐の叫び』から「ヘリオン〜エレクトリック・アイ」、そして「ユーヴ・ガット・アナザー・シング・カミング」で会場の温度を沸点まで急上昇させる。そしてスコット・トラヴィスの短いドラム・ソロから導かれた「ペインキラー」は、この日のライヴで最もエクストリームでブルータルな瞬間だった。

    そして、この日は特別なサプライズが飛び出した。バンドと大観衆が一体となって歌う「リヴィング・アフター・ミッドナイト」(名古屋公演でも演奏された)、そして『背徳の掟』からの「神への誓い」だ。このアンコールが最初から用意されていたのか、それとも武道館のファンのために突発的に演奏したのかは不明だが、常にスペシャルであるジューダス・プリーストのライヴが二重・三重にスペシャルになったことは確かだ。

    ふと思い出すと前回、2012年2月の来日は、“フェアウェル・ワールド・ツアー”に伴うものだった。それが最後だと信じて会場を訪れた観客は、悪い言い方をすれば“騙された”わけだが、この日、武道館を後にする観客の中で「何だよ、解散するんじゃなかったのかよ。騙された!」などと言っている者は一人もいなかった。それはそうだろう。こんな凄いライヴを見せられて、不満を漏らすのは“メタル・ゴッド”のバチが当たるというものだ。

    ジューダス・プリーストのライヴを経て、日本のメタル・ファンの全身にはさらに濃い鉄粉が付着したのだった。

    2015年3月19日音楽ジャーナリスト&ライターの眼(1版)掲載 執筆記者:山崎智之

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