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    【インタビュー】2CELLOSが新作『チェロヴァース』を発表。2本のチェロが奏でるロックな奇跡

    配信日: | 配信テーマ:洋楽

    2本のチェロでロックするデュオ、2CELLOSが3作目となるフルレンス・アルバム『チェロヴァース』を発表した。

    2011年、マイケル・ジャクソンの「スムーズ・クリミナル」の大胆なチェロ・アレンジで一躍注目されたのが2CELLOSだ。U2からAC/DC、ガンズ&ローゼズからポリスまで、あらゆるロック・ナンバーに新たな生命を吹き込んできた彼らは新作でAC/DCの「サンダーストラック」からアイアン・メイデンの「明日なき戦い」、ミューズの「ヒステリア」、レディオヘッドの「ストリート・スピリット」、アヴィーチーの「ウェイク・ミー・アップ」など、あらゆるスタイルの楽曲を独自のスタイルで演奏している。

    クロアチア出身のルカ・スーリッチとステファン・ハウザーは2人とも幼少の頃からクラシック音楽を叩き込まれ、専門教育を経て数々の大舞台での演奏経験を持つ実力派チェロ奏者だ。彼らが愛器ヤマハのチェロを奏でることによって、それぞれの楽曲に異なった側面から光が当てられ、これまで愛聴してきたロック・ナンバーの数々は、初めて聴いたときの新鮮な魅力を取り戻すことになる。
    2015年6月には来日公演も決定した2CELLOSに、言葉の二重奏を奏でてもらおう。

    ●『チェロヴァース』の収録曲は、どんな基準で選んだのですか?

    ルカ:最初にAC/DCの「サンダーストラック」をレコーディングしたんだ。その出来がすごく良かったんで、アイアン・メイデンの「明日なき戦い」も演ってみることにした。それからアヴィーチーの「ウェイク・ミー・アップ」をレコーディングして、マイケル・ジャクソンの曲を入れたかったから「ゼイ・ドント・ケア・アバウト・アス」も演ってみて…そうしてアルバムが出来上がっていったんだ。

    ステファン:アルバムのコンセプトとかは、考えなかったんだ。むしろ枠を設けず、いろんなタイプの曲を演奏したかった。

    ルカ:どの曲も僕たちのアイデンティティを込めている。決して“カヴァー”しているという認識はないんだ。オリジナルをそのまま演奏してはいないからね。“編曲”あるいは“アレンジ”と呼んでいるよ。

    ●編曲しやすかった曲、しにくかった曲はありましたか?

    ルカ:シンプルな曲ほど、編曲するのが難しいんだ。「サンダーストラック」はすごくシンプルな曲だし、そのままチェロで演奏しても平坦になってしまう。もしバッハやヴィヴァルディがこの曲を書いていたら、どんな感じになるだろう…?と想像しながら、新しい解釈を加えていったんだ。

    ステファン:メロディが明確な曲はアレンジしやすいね。まあ、メロディがない曲はそもそも演奏しないけど(笑)。

    ●2CELLOSが世界に知られるきっかけとなったのが「スムーズ・クリミナル」で、新作では「ゼイ・ドント・ケア・アバウト・アス」を収録しています。マイケル・ジャクソンの曲は演奏しやすいでしょうか?

    ルカ:演奏しやすくはないよ。マイケルの曲はリズムとビートが際立っているし、チェロのために編曲するのは難しい。「ゼイ・ドント・ケア・アバウト・アス」は、この曲のメロディアスな部分を強調したんだ。彼の音楽は素晴らしいと思うけど、歌詞が重要な位置を占める曲もあるし、「マン・イン・ザ・ミラー」や「アース・ソング」などは、チェロで演奏すると平坦になってしまう可能性がある。でもマイケルの音楽は好きだし、これからもチャレンジしていきたいね。

    ステファン:「ビリー・ジーン」も演ってみたかったな。次のアルバムに入れるかもね。

    ●これまで3枚のアルバムでAC/DCとスティング、ミューズの楽曲は“常連”となっていますが、彼らの音楽の魅力は何でしょうか?

    ステファン:AC/DCの曲はハードにロックするからプレイしていて楽しいし、スティングやミューズ、そしてコールドプレイの曲には、素晴らしいメロディがある。チェロと違和感なく溶け込んでいくメロディだと思うよ。たとえメロディが良くても、チェロ向きではないアーティストもいるんだ。クイーンの曲にも素晴らしいメロディがあるけど、厚みのあるオーケストレーションが特徴で、2台のチェロだと効果的ではなくなってしまう。

    ●『チェロヴァース』が過去の作品と異なるのは、どんな点でしょうか?

    ステファン:これが3枚目ということで、アルバムをどう作ればいいか、徐々にコツが判ってきた。演奏そのものやマイクのポジション、ミックス…サウンドがよりパワフルになったと思う。音楽の歴史上、チェロの音を最もパワフルに捉えたアルバムだろうね。

    ●原題のポピュラー音楽を演奏するにあたって、どの時代のクラシックと相性が良いでしょうか?

    ルカ:音楽スタイルや曲によって異なるね。「サンダーストラック」はバロック調だし、「明日なき戦い」はロマン主義に近いかも知れない。「明日なき戦い」とロッシーニの「ウィリアム・テル序曲」と兄弟のようだったんで、融合させてみたんだ。

    ●ヤマハのチェロを弾くようになったのは、いつからですか?

    ルカ:2011年、2CELLOSとしてツアーするようになってからすぐだよ。それまで別のメーカーのカーボン・ファイバー製のチェロを弾いていたんだけど、大きな会場でアンプを通したとき、どうしてもパワー不足だったんだ。エルトン・ジョンとツアーすることが決まって、彼がヤマハのピアノを愛用していることもあって、ヤマハのスタッフにエレクトリック用のチェロを持ってきてもらった。弾いてみて、恋に落ちたんだ。アンプを通してもアコースティック・チェロのような生音の暖かみがあるし、ライヴでディストーションをかけてもパワフルだしね。

    ステファン:特にライヴではヤマハのチェロは完璧だね。スタジオでのレコーディングではアンプリファイする必要がないし、アコースティックのチェロを弾くことが多いけど、ライヴでは手放すことが不可能だ。チェロでロックをプレイする音楽家にはお薦めするよ。

    ●あなた達が弾いているチェロは、市販のSVC110Sモデルとはどう異なっていますか?

    ルカ:カスタマイズしているのはペイントだけで、性能は市販されているものと同じだよ。もしツアー中に壊れてしまっても、楽器店に行けば同じものを手に入れることが出来るんだ。常に高い品質が保たれているのがヤマハの楽器の凄いところだよ。

    ●ライヴでチェロにディストーションをかけたりするのは、かなり“邪道”ですよね。

    ステファン:僕たちはエキサイティングな音楽が好きなんだ。ポップやロックの曲をチェロで演奏するとき、エレベーターで流れているような、リラックスするものにはしたくない。刺激的なものにしたいんだよ。そのためだったらヘヴィ・メタルを演奏したり、ディストーションをかけることだってやるさ。

    ●3枚のアルバムで、必ず数曲ヘヴィ・メタルの曲を収録していますが、あなた達はメタル・ファンなのですか?

    ステファン:僕たちは特定のジャンルの音楽ファンではないんだ。メタルでもポップでもクラシックでも、良い音楽が好きなんだよ。

    ルカ:メタルにもいろいろあるけど、僕たちがプレイしているのはメロディがあるものだよ。「ヴオオオオッ」って感じのデス・メタルはやりようがない(苦笑)。

    ●前作『2CELLOS2』(2012)にレーサーXの「テクニカル・ディフィカルティーズ」を収録したのは驚きました。

    ステファン:実はレーサーXのファンだったわけではなく、友人に教えてもらったんだ。凄いギター・テクニックだと驚いて、それをチェロでやってみたらどうだろう?と思った。

    ●新作ではアヴィーチーの「ウェイク・ミー・アップ」、『2CELLOS2』ではプロディジーの「ヴードゥー・ピープル」を演奏していましたが、テクノ/エレクトロニカに対してはどんなアプローチを取っていますか?

    ステファン:僕たちの作業はチェロを使って、ジャンルの枠から音楽の核の部分を解き放つことなんだ。アヴィーチーは“エレクトロニカ”と呼ばれるけど、その曲の中には優れたメロディがある。ただダンスしたくて彼のアルバムを聴く人は、そのメロディに気付かないかも知れない。僕たちが演奏することで、「こんなに良いメロディの曲だったのか!」と気付いてくれたら嬉しいね。

    ●今後どんな曲をレコーディングしたいですか?

    ルカ:いろんな音楽にチャレンジしていきたい。ロック、ポップ、ジャズ、ダンス…ジャンルにはこだわらないよ。

    ●今のところレゲエの曲はやっていませんが、もしレゲエの曲を1曲レコーディングするとしたら?

    ステファン:ボブ・マーリーの「ノー・ウーマン・ノー・クライ」かな。

    ルカ:それとも「アイ・ショット・ザ・シェリフ」とか…ボブ・マーリーは良いコンポーザーだね。でも、あまりレゲエは知らないんだ。

    ●チェロやヴィオラなどの弦楽器とロックを融合させる試みは、これまでにも行われてきました。イギリスのサード・イヤー・バンドや、フランスのアール・ゾイ、ベルギーのユニヴェル・ゼロとか…。

    ルカ:…誰?

    ステファン:まったく知らない。

    ●ニルヴァーナの最後のツアーでチェロを担当したメローラ・クリーガーが結成したラスプティナも、チェロにエレキ・ギター用エフェクトを通す試みをしていますね。

    ルカ:ラスプティナは名前だけ聴いたことがあるけど、音は聴いたことがないんだ。今度聴いてみるようにするよ。

    ●フィンランドのチェンバー・ロック・バンド、HOYRY KONEにもチェロ奏者がいて、「明日なき戦い」をレコーディングしていました。

    ルカ:それも知らないなあ。チェロとロックを融合させる試みは決して僕たちのオリジナルな発想ではなく、過去に行われてきただろうけど、それらを研究することはあまりしていないんだ。自分たちの感性で、ベストなものを作ろうとしている。

    ●フィンランドのアポカリプティカもメタリカの曲をチェロでプレイしていますが、彼らの音楽を聴いたことはありますか?

    ステファン:うん、アポカリプティカとはよく比較されるよ。彼らと僕たちはどちらもチェロでロックをやっているけど、アプローチもサウンドも異なっているし、まったく別のことをしていると思う。ただ、僕たちがメタリカの曲を演奏しようとすると、大抵彼らが先にやっていて、つい敬遠してしまう。「だったら別のバンドの曲をやろう」ってなってしまうんだ(笑)。

    ●チェロ奏者がポップ/ロックを演奏するにあたって、アドバイスをお願いします。

    ステファン:オリジナルを超える意気込みでやることだね。そして、自分たちだけのスタイルでやることだ。

    ルカ:チェロは無限の可能性を持った楽器なんだ。音域も広いし、出すことが出来るサウンドも多彩だ。これほど幅広い表現が出来る楽器は、他にないんじゃないかな。そんなチェロが2本集まることによって、奇跡だって起こせるんだ。僕たちは扉を開いたに過ぎない。これから若いチェロ奏者たちに、その可能性を広げて欲しいね。



    【公演情報】
    2015年6月に来日公演が決定
    詳細はウドー音楽事務所(http://www.udo.co.jp/)まで

    2015年2月12日音楽ジャーナリスト&ライターの眼(1版)掲載 執筆記者:山崎智之

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