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    ピンク・フロイド『永遠(TOWA)』:寂寞感と諦めのサウンドトラック

    配信日: | 配信テーマ:洋楽

    ピンク・フロイドのアルバム『永遠(TOWA)』は、偉大なるロック・バンドの半世紀におよぶ歴史に幕を下ろす作品だ。

    2014年11月に発売されてから、幾つものレビューや感想が雑誌やウェブ上で書かれてきた。デヴィッド・ギルモアのギターがふんだんに詰め込まれた、どこを切ってもピンク・フロイドらしい作品だという論調もあったし、1993年の『対(TSUI)』のレコーディング・セッションと実現しなかったアルバムからの没テイクからなる、ツギハギに過ぎないとする記事もあった。

    ただ、どの記事にも共通するのは、『永遠(TOWA)』が彼らの最後の作品であるという寂寞感と、諦めの境地だった。

    1985年にロジャー・ウォーターズが脱退、ギルモアがバンドのリーダーシップを握ったとき、少なくないファンが、いつの日か“完全な”ピンク・フロイドが復活すると期待していた。2005年7月、『ライヴ8』フェスティバルでウォーターズ、ギルモア、リック・ライト、ニック・メイスンの4人が20分に満たない再結成ライヴを行ったときも、いつか本格的なワールド・ツアーが実現することを信じていた。

    だが、2006年にはオリジナル・メンバーであるシド・バレットが、2008年にはリック・ライトが亡くなった。そして2013年にはバンドの多くのジャケット・アートを手がけてきたストーム・トーガソンがこの世を去っている。近年ではウォーターズとギルモアが何度かステージで共演を果たしているが、ピンク・フロイドの再結成という大きな望み(ハイ・ホープス)が叶えられることがないという事実を、我々は受け入れなければならなかった。

    『永遠(TOWA)』は、そんな寂寞感と諦めへのサウンドトラックとしては完璧な作品だ。

    本作の日本盤帯には“最終章”とあるが、それは正しくない。それは、20年前の『対(TSUI)』に求めるべきだろう。本作は最終章の後に付け加えられた補遺だ。

    本作でロック・ソングとしての体裁を成しているのは、「ラウダー・ザン・ワーズ」1曲のみだ。もちろん、この曲のみで本作を聴く価値は十分以上にあるのだが、『対(TSUI)』でも歌詞を手がけたポリー・サムソン(ギルモアの奥方)の歌詞は“何となくそれっぽいムード”ではあるものの、かつてのウォーターズの辛辣な毒や詩情は望むべくもない。

    アルバムの大半を占めるのは雰囲気もののインストゥルメンタルだ。ギルモアのギターはたっぷりと泣かせるものだが、楽曲としては決して満足できる仕上がりではなく、1分台の切れ端も幾つも含まれている。『永遠(TOWA)』はひとつの作品としては未完成ですらある。

    だが未完成であるがゆえに、本作はさらに泣かせるアルバムとなっている。ピンク・フロイドの歴史は、グランド・フィナーレのファンファーレによって締めくくられたものではなかった。バンドは『対(TSUI)』に伴うツアー後にフェイドアウトしたし、ギルモアのソロ・キャリアもペースが落ちていく一方だ。全世界で5,000万枚という空前のヒットを記録した『狂気』(1973)や、ロック・スターの疎外感と狂気を描いたコンセプト・アルバム『ザ・ウォール』(1979)などを生み出してきたバンドの最後としては、決して華々しものではない。だが、だからこそ本作は切ないのだ。

    ジミ・ヘンドリックスは1970年に亡くなってからも次々と未発表音源からなるアルバムが発表され、その中には生前の作品に劣らぬ充実度を誇る作品もある。ジミはいつまでも焰を放ち続ける、超人タイプのアーティストである。その一方で、ピンク・フロイドは寿命と共に消えていく、人間的なアーティストだ。これから彼らのアウトテイクやライヴ作品がリリースされることもあるだろうが、現在進行形のバンドとしては、『永遠(TOWA)』が最後のものとなる。

    彼らのキャリアにおいて、本作は蛇足といわれるかも知れない。だが、エピローグとして、出さなければならない必然性のある蛇足だったのだ。

    『狂気』収録の「タイム」で歌われたとおり、時間は限りあるものだ。「走って追いつこうとしても、太陽は沈んでいく」というこの歌詞は、「時間は過ぎ、歌は終わる。何か言い残したことがあった筈だけど」と締めくくられる。ピンク・フロイドは『永遠(TOWA)』で、言い残したことがない形でバンドのキャリアに終止符を打った。

    2015年1月15日音楽ジャーナリスト&ライターの眼(1版)掲載 執筆記者:山崎智之

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