音楽ジャーナリスト&ライターの眼 ~今週の音楽記事から~

新聞社の音楽記事、音楽ライターによる書き下ろし記事を集めたウェブサイトです。(毎週、月・木更新)

音楽ライター記事

つぶやく・ブックマークする

    ライヴらり:3組の“個性”が“ジャズの現在”を示した攻めの祭典(ヤマハ ジャズ フェスティバル in 浜松 2014)

    配信日: | 配信テーマ:ジャズ



    23回目を迎えた“ハママツ・ジャズ・ウィーク”のメイン・イヴェントである“ヤマハ ジャズ フェスティバル”に今年も足を運ぶことができました。

    今回も午後1時の開演で3パート、ヴォーカルありスモール・コンボありビッグバンドありというバランスのとれたラインナップ。ジャズ・フェス界の“松花堂弁当”と呼ぼうか、ヴォリューム感からすれば“ラーメンのトッピング全部載せ”のほうが言い当てているのではないかなどと迷うところですが……。

    いずれにしても、歴史と実績を積み重ねてきた日本を代表する地域ジャズ・フェスのトリを飾るにふさわしい圧巻のステージ。どんな内容だったのかを紹介しましょう。

    ♪♪♪様子見を許さない圧倒的パフォーマンス

    パート1に登場したのはヴォーカリストのギラ・ジルカ。イスラエル人の父と日本人の母とのあいだに生まれながら、神戸育ちという“生粋の関西人”であるキャラクターを活かしたトークもさることながら、抜群のテクニックによる縦横無尽のヴォーカル表現によって2010年の遅すぎるソロ・デビュー以来斯界の注目を浴び続けている彼女のパフォーマンスをホールの空間で楽しむという贅沢が許されるのも、このフェスならではのこと。

    ギター・クァルテットをバックに、初っ端から超ロングトーンやハイトーンでのスキャット、ピアノとの超速ユニゾンなど、声が内包している楽器としての可能性を極限まで高めたアプローチを惜しげもなく披露して、客席に漂おうとしていた“様子見気分”を蹴散らしてしまいます。一転してバラードになると、音符に言葉が寄り添うことの意味を改めて考えさせられるような奥深い表現を滲ませ、聴き手が曲の世界に集中できるサポートをしてくれるのです。この間合いのすばらしさはライヴハウスでも体験済みだったのですが、こうしたホールでもまったく遜色なくそれを発揮している場面に立ち会うことができ、ますますギラ・ジルカの“凄さ”に対する評価が高まってしまいました。

    ♪♪♪30代のメンバーを凌駕する72歳の全力疾走

    続いて登場した日野皓正は、前日に72歳の誕生日を迎えて“枯れた円熟の境地”を披露する……はずもなく、グッと平均年齢が下がったバンドを従えてますます過激に“攻めのジャズ”を展開してくれます。6拍子ファンクから8ビートへと目まぐるしく変化していく“縦ノリ”のサウンドは緊張感を高めながら観客の姿勢を前のめりにする不思議な魅力を放ち、トランペットからパーカッションに持ち替えた日野皓正が繰り出す新たなリズムがどんなハプニングを巻き起こすのかを見逃すまいとする特殊な関係性が生まれていた気がします。

    また、東日本大震災の復興を願って作られた「NEVER FORGET 311」の辛辣で強烈なジャズ・ヒップ・ホップの後には「ふるさと」のトランペット・ソロ。そして拍手に迎えられながら再登場して演奏した「スマイル」と、彼がビートの大切さとともに“歌心”を忘れない超一流のエンタテイナーであることを見せつけたステージングになりました。

    ♪♪♪新旧ジャズを融合したニュー・ビッグバンド・スタイル

    パート3に登場したのはゴードン・グッドウィンズ・ビッグ・ファット・バンド。2000年結成のこのビッグバンドはデビュー・アルバムがいきなりグラミー賞にノミネートされ、TAKE 6やデヴィッド・サンボーン、ダイアン・リーヴスといったポップスからジャズまでのビッグ・ネームとの共演を果たしてファン層を広げ、2012年には念願のグラミー賞を獲得。いま最も注目されるビッグバンドのひとつです。

    ステージにメンバーが登場するとMCによるイントロダクション・ショーがスタート。このあたりは一般的なジャズのビッグバンドのステージとはちょっと印象が違って、客席もなにが始まるのかと興味津々です。演奏がスタートすると、オーソドックスなジャズ・スタイルながら、これもまた旧来のジャズの印象を打ち破るほど、テンポが超速。さらに、エレクトリック・ギターがフィーチャーされている点もこのバンドならではで、曲によってはギター、エレクトリック・ピアノ、エレクトリック・ベース、ドラムの編成でフュージョン・バンドに変貌するといった演出も織り込まれ、彼らが“スウィング”や“ハード・バップ”といったジャズのアイテムだけに頼らず、ポップでコンテンポラリーなサウンドをもうひとつの“核”としてとらえていることが伝わってきます。

    もちろんジャズ・レジェンドを意識したスタイルのプレイも魅力的で、例えれば“両刀遣いの達人”といったところでしょうか。

    アンコールではギラ・ジルカとゴードン・グッドウィンズ・ビッグ・ファット・バンドの共演、さらには日野皓正も呼び込んで「チェロキー」の熱くスリリングなバトルを繰り広げ、ゴージャスでファン・サービスにあふれたステージを締めくくりました。

    終演後のボクの頭のなかには、「フランス料理のフル・コースや日本の会席料理のような順番や前後の流れに重きをおくものではなく、中華料理の満漢全席のように出てくる料理がすべて“全力自己主張”しているフェスだったな……」という感想が浮かんでいたことを申し添えておきましょう。



    【concept】
    コラム担当の富澤えいちが観に行ったライヴをピックアップ。出演者やジャンルの特徴をつかむポイントを織り交ぜながら、ライヴ会場の雰囲気や、楽しく過ごすためのコツなどにも触れていきますので、ジャズ・ライヴを攻略するヒントにしてください。

    2014年12月25日音楽ジャーナリスト&ライターの眼(1版)掲載 執筆記者:富澤えいち

    音楽ライター記事一覧を見る

    ジャズ のテーマを含む関連記事

    <Topics>上原ひろみ&E・カスタネーダ ピアノとハープの「会話」 ジャズの「何か」感じさせるライブ盤

     「ジャズ録音100年」という区切りに合わせ、ジャズを見つめ直す書物やCD、コンサートが続々と登場している。100年というのは、歴史を尊重し伝統を守ろうという意識が生まれるのに十分な時間である。ただ、ジャズは常に既成のルールに疑義を唱え、新たなスタイルやサウンドを提案し...

    ジョン・コルトレーン編<4>|なぜジャズには“踏み絵”が必要だったのか?

    実は、ジョン・コルトレーンを“踏み絵”としての存在へと導いたセロニアス・モンク(1917-1982)自身も、やがて“踏み絵”として広く知られることになり、現在に至っている。彼を“踏み絵”の座に据えたのは、“セロニアス・モンク国際ジャズ・コンペティション”。このコンペ(競...

    ジョン・コルトレーン編<3>|なぜジャズには“踏み絵”が必要だったのか?

    1956年末になって、ジョン・コルトレーンが“黄金の”マイルス・デイヴィス・クインテットを辞するに至る原因は、前回言及したように麻薬との関係を断ち切るためであったことは確かなようだ。コルトレーンが麻薬を絶とうとしたことはそれまでにも何度かあったようだが、その禁断症状から...

     

    ページの先頭へ戻る

    • RSS
    • お問い合わせ