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    ボブ・ディラン、新作『シャドウズ・イン・ザ・ナイト』を2015年2月に発表/“ディラン税”のはげしい雨が降る

    配信日: | 配信テーマ:洋楽

    ボブ・ディランのニュー・アルバム『シャドウズ・イン・ザ・ナイト』が2015年2月にリリースされることが発表された。

    通算36作目のオリジナル・アルバムとなる本作は、全曲がカヴァーだ。アルバム発売に先駆けて「寂しい私 Full Moon And Empty Arms」がネット上で先行公開されたが、いずれもフランク・シナトラがレパートリーにしていた楽曲だ。シナトラ自らが作曲に関わっている「恋は愚かというけれど I’m A Fool To Want You」やミュージカル『南太平洋』からの「魅惑の宵 Some Enchanted Evening」、ドリス・デイのヴァージョンがヒットした「夜に生きる The Night We Called It A Day」、日本語でも多くのシャンソン歌手にカヴァーされてきた「枯葉 Autumn Leaves」(最近ではエリック・クラプトンが演っている)などが収録されている。

    本作についてディランは「以前からやりたかったけど、30人編成のビッグ・バンドの曲を5人編成用のアレンジする勇気がなかった」と語っているが、いざアレンジを固めると、スタジオ・ライヴ形式でレコーディングしてしまったという。公式ステートメントによると、ストリングスやホーン・セクション、バック・ヴォーカルも入っていないそうで、ライヴに近い雰囲気の作品が期待される。

    現時点ではまだアルバム全曲の音源は公開されていないが、「寂しい私」でやや意外だったのは、オリジナル通りの歌詞を歌っていることだ。ディランはスタンダード曲をカヴァーするときも、コンテンポラリーな題材を含む新しい歌詞を加えて、時に原形を留めなくなってしまうことすらあるが、この曲ではシナトラのヴァージョンに忠実に歌っている。はたしてアルバム全曲がそうなのか、それとも他の曲ではディランならではの角度から書き直されているのか、そちらも楽しみなところだ。

    ディランの熱心なファンはしばしば、彼のアルバムやライヴに費やすお金のことを“ディラン税”と呼ぶが、近年の過酷すぎる重税には、悲鳴を上げていることだろう。オリジナル・アルバムこそ2012年の『テンペスト』以来となるが、『アナザー・セルフ・ポートレイト(ブートレッグ・シリーズ第10集)』(2013)のデラックス・ヴァージョンには1970年、ワイト島フェスティバルのライヴ音源が収録されていたし、『ザ・ベースメント・テープス・コンプリート(ブートレッグ・シリーズ第11集)』はCD6枚組の『地下室』セッション集大成といえるものだった。47枚組の『コンプリート・アルバム・コレクション』(2013)を奮発してしまったマニアもいるかも知れない。紙ジャケ仕様CD再発盤、あるいはエルヴィス・コステロとマムフォード&サンズが『ザ・ベースメント・テープス』の精神を継承した『ザ・ニュー・ベースメント・テープス』に手を出したファンもいるだろう。

    さらに2014年3月から4月にかけて、ジャパン・ツアーも行われた。ディランのライヴといえば日替わりでセットリストが異なることが有名で、全17回公演のうち複数回見に行ったファンがかなりいたに違いない。しかもチケットはけっこうなお値段だ。しばしばディラン・ファンは“ディラン破産”を口にするが、それが本当にジョークでは済まない次元の話なのである。

    しかも困りものなのは、彼のアルバムもライヴも、その代金以上のものを提供してくれるため、ファンがなかなか見切りを付けることが出来ないのだ。それぞれがお財布と相談しながら、可能な範囲で追いかけていくしかないのだが、くれぐれも皆さん、ディラン納税は計画的に行っていただきたい。

    2014年は日本、ヨーロッパ、大洋州、アメリカを精力的にツアーしてきたディラン。アルバムを出しても出さなくてもとにかく世界中の“ネヴァー・エンディング・ツアー”を続ける彼ゆえに、2015年もワールド・ツアーを行うことは間違いないだろう。

    もしかしたら、今回のツアー日程にも日本が入っているのでは…?と考えると、嬉しくも恐ろしい。2015年も、ボブ・ディラン税のはげしい雨が降る。

    2014年12月18日音楽ジャーナリスト&ライターの眼(1版)掲載 執筆記者:山崎智之

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