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    ウィンガーが2014年11月に来日。『イン・ザ・ハート・オブ・ザ・ヤング』25周年ライヴが実現

    配信日: | 配信テーマ:洋楽

    ウィンガーが2014年11月、ジャパン・ツアーを行うことになった。1月にY&Tとファイアーハウスと共に来日、1988年のファースト・アルバム『ウィンガー』を全曲演奏したばかりの彼らだが、なんと1年で2回の日本上陸 。しかも今回はセカンド・アルバム『イン・ザ・ハート・オブ・ザ・ヤング』の発売25周年を記念して全曲を演奏するというスペシャル・ライヴだ。両公演を見た人は、本国アメリカでは連続ミリオンセラーとなった初期2枚のアルバムを日本に居ながらして、全曲楽しめてしまうという、1980年代当時ですらあり得なかった事態になってしまったのだ。

    ウィンガーは1980年代のアメリカン・ハード・ロック/ヘヴィ・メタル・シーンにおいて、きわめて特異な位置を占めていたバンドだった。何よりもまず全員が、優れたテクニックを持ったミュージシャンだったことがある。キップ・ウィンガー(ベース、ヴォーカル)とポール・テイラー(キーボード)はアリス・クーパーのバンドで活躍していたし、レブ・ビーチ(ギター)はスタジオ・ミュージシャンとしてトゥイステッド・シスター、フィオナなどの作品でプレイしていた。ロッド・モーゲンスタイン(ドラムス)は現ディープ・パープルのスティーヴ・モーズらと共に超絶技術派集団ディクシー・ドレッグスの一員であり、ミュージシャンズ・ミュージシャンとして尊敬されていた。

    そんな実力派のミュージシャン達によって結成されたウィンガーだったが、ソングライティング面でもメロディアスなハード・ロックをプレイ。「セヴンティーン」「ハートブレイク」「マイルズ・アウェイ」「キャント・ゲット・イナフ」などがヒット・チャートを騒がせている。

    そんなテクニックとソングライティングを兼ね備えた、完全無欠といって過言でなかったウィンガーだが、アメリカでは常に中傷の的でもあった。人気バンドにアンチがつくのは不可避なことだが、それにしても彼らは過剰なほどに嘲笑され、軽んぜられたのだった。

    その理由として、まず彼らが1988年という、MTVの後押しによるメタル・ブームが下火になった時期にデビューしたことがあった。ヘアスプレーとスパンデックスは時代遅れとなり、速弾きシュレッド・ギターもダサいものとされつつあった。キップがクラシック・バレエ仕込みの華麗なターンや腰振り、脚上げを披露するミュージック・ビデオも、批判に拍車をかけることになった。

    さらに大きなダメージを及ぼしたのは、メタリカの「ナッシング・エルス・マターズ」ミュージック・ビデオだった。全世界で3,000万枚を超える歴史的ベストセラーとなったアルバム『メタリカ』(1991)からのシングル曲であり、MTVでヘヴィ・エアプレイされたこのビデオでは、ドラマーのラーズ・ウルリッヒがキップのポスターからダーツを引き抜くシーンがある(彼がダーツを投げる姿は映像作品『コンプリート・シーンズ・オブ・メタリカ』で見ることが出来る)。“旬”のスーパースターだったメタリカがダーツの的にするウィンガーは、一気に“メタルの恥”扱いされるようになってしまったのだ。

    このことについてキップは「ラーズに一言いってやろうと思ったけど、大勢のボディガードに囲まれて話せなかった。だいたい俺たちの方が奴らよりテクニックがあるし!」と語っていた。

    そしてトドメを刺したのが、MTVの人気番組『ビーヴァス&バットヘッド』だった。メタリカTシャツを着たビーヴァスとAC/DCTシャツを着たバットヘッドのコンビを主役とするこの番組にはスチュワートというダサいオタクも登場するが、彼が着ているのがウィンガーTシャツだったのだ。番組が放映開始された1992年の前年にはニルヴァーナが『ネヴァーマインド』を発表、オールドスクール・メタルが流行遅れになったせいもあり、ウィンガーは“ダサい旧世代メタル”の代表格となってしまった。ウィンガー自身も時流に乗ろうとしたのか、3枚目のアルバム『プル』(1993)ではヘヴィでダークな路線を志していたが、見事にヒットせず、バンドは解散することになる。

    そんな“ウィンガーはダサい”という図式はしばらく続くことになる。KoЯnの「オール・イン・ザ・ファミリー」(1998)はヴォーカルのジョナサン・デイヴィスとリンプ・ビズキットのフレッド・ダースとがお互いをディスしあうという内容だが、「お前のお気に入りバンドはウィンガー」というのが悪口として使われていた。

    だが時代は一巡して、ウィンガーの音楽は21世紀に入って再評価を受けるようになった。かつてのファン、そして彼らのアルバムを聴いた新しいファンの要望に応えてバンドは復活、2001年に再結成ツアーを敢行。さらに『IV』(2006)、『カーマ』(2009)、『ベター・デイズ・カミン』(2014)という3枚の新作アルバムを発表している。

    2014年1月の来日公演で熱い大声援を浴びてから10ヶ月、彼らは日本に戻ってくる。今回は川崎・大阪がウィンガーとスローターの2バンドによるライヴ、名古屋では“Best Of Greatest Hits”と銘打って、新旧ヒット曲が演奏される。前回のステージでそのライヴ・バンドとしての健在ぶりを強く印象づけた彼らゆえ、今回も期待に違わぬステージ・パフォーマンスを見せつけてくれるだろう。

    良い曲と良い演奏と良いライヴを“ダサい”と呼ぶのだったら、“クール”なんかになりたくない。ウィンガーには、そう思わせる魅力があるのだ。



    ===公演日程===

    【KAWASAKI ROCK CITY VOL.2 2014】
    2014年11月22日(土)/23日(日)
    会場:CLUB CITTA'
    出演:ウィンガー、スローター
    http://clubcitta.co.jp/001/kawasaki-rockcity2-2014/

    【NAMBA ROCK CITY VOL.2 2014】
    2014年11月20日(木)
    会場:なんばHatch
    出演:ウィンガー、スローター
    http://clubcitta.co.jp/001/namba-rockcity2-2014/

    【WINGER JAPAN TOUR 2014“Best of Greatest Hits”】
    2014年11月19日(水)
    会場:名古屋Electric Lady Land
    出演:ウィンガー
    http://clubcitta.co.jp/001/winger/

    2014年10月23日音楽ジャーナリスト&ライターの眼(1版)掲載 執筆記者:山崎智之

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