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    爆走ロックンロール魂は永遠に ピーター・パン・スピードロック『Buckle Up & Shove It!』

    配信日: | 配信テーマ:洋楽

     20世紀の終わり、ひとつの爆走ムーヴメントがあった。メタルもガレージもパンクも猛スピードで吹っ飛ばし、歌う内容はセックス!アルコール!ケンカ!ロックンロール!デリカシーも何もあったものではない粗暴なサウンドが、世界を席巻したのである。

     “爆走ロックンロール”に明確な定義があったわけではなく、その音楽性と同じくきわめて大雑把なジャンル分けだったが、ひとつの基準となったのが、自らが“爆走系”だったエレクトリック・フランケンシュタインのサル・カンゾニエリが編集したコンピレーション『A Fistful Of Rock’n’Roll』だった。全13集からなるこのコンピレーションだが、収録するべきバンドが多すぎて、最後の『Vol.13』は在庫一挙放出の3枚組となってしまったというテキトウさ・過剰さも、音楽性にマッチしていた。

     収録されたのは全321組、それぞれ1曲ずつ。ヘラコプターズやターボネグロ、スーパーサッカーズ、ジーク、ドワーヴズ、グルシファー、アンティシーン、パフボール、フレイミング・サイドバーンズといった定番爆走系バンドから、フー・マンチュー、セラピー?、ジェフ・ダールなどジャンルの枠を押し広げるアーティストまで、全編血湧き肉躍るロックンロールの殴打連発で、入門編と呼ぶには消耗度が高すぎる超巨編だった。

     1997年から2007年、5つのレーベルを跨いで発表されたこのコンピレーションは成功を収め、カンゾニエリも第2弾シリーズ『A Fistful More Of Rock’n’Roll』を出す!と息巻いていたが、爆走シーンは急激に失速。シーンを代表する大物バンドが登場せず、有望な新人バンドも減り、『A Fistful〜』参加バンドも次々と解散していった。

     だが、そんな中で現在も第一線で活躍しているのが、オランダのピーター・パン・スピードロックだ。1996年、アインドホーフェンで結成して以来、彼らはひたすら爆走ロックンロール道を突っ走ってきた。

     “大人になんかなりたくない”というピーター・パン症候群からバンド名を取って結成された彼ら、ファースト・アルバム『Peter Pan』(1997)発表時にはまだ爆走が徹底しておらず、“ピーター・パン”というバンド名も“平和好きのヒッピー”と誤解されたこともあり、CDは壊滅的に売れなかったらしい。メジャーの『ヴァージン・ベネルックス』から発表されたこのアルバムだが、1,000枚プレスされたうちの700枚が破棄処分されたそうで、現在ではマニア垂涎のアイテムとなっている。

     彼らの才能と破壊衝動が解き放たれるのが翌1998年に発表された2作目『Rocketfuel』からだ。ベーシストが現在のバートマンに替わって突然アクセル全開、後先を考えないロックンロールで攻めまくる彼らの姿勢は、この名盤アルバムで確立されたといっていい。

     ピーター・パン・スピードロックが評価されるのは、その音楽性はもちろんのこと、シーンやコミュニティの確立に尽力していることだ。彼らの地元アインドホーフェンのシーンを盛り上げる“アインドホーフェン・ロック・シティ”ムーヴメントの先鋒として活動しているのも彼らだし、2014年11月22日はアインドホーフェンの『クロックヘボウ』で、『スピードフェスト』フェスティバルを開催することが決まっている。このフェスにはターボネグロ、アディクツ、ナパーム・デス、ドゥームライダーズらと共に、彼らもステージに上がる。

     2014年、彼らの9作目のスタジオ・アルバム『Buckle Up & Shove It!』が発表された。相変わらずの爆走ぶりは厚みと破壊力を増し、モーターヘッドを馬鹿で下品にして歯止めを利かなくしたロックンロールへと進化を遂げている。1曲目「Get You High」を筆頭に、スピード感とむせ返るほどのエネルギーは健在だ。

     カヴァー曲としてダムドの「ニュー・ローズ」とヤードバーズの「ハートせつなく」も収録されているが、どちらも殺傷力がオリジナルの500%増している。ディメンテッド・アー・ゴーのスパーキーことマーク・フィリップスをゲストに迎えた「ハートせつなく」はスピードこそ速くないものの、破壊力は申し分ない。少なくとも偏差値が20ぐらい下がることを覚悟して聴かねばならないのが『Buckle Up & Shove It!』なのだ。

     爆走ロックンロール魂は永遠だ。漢(おとこ)になれなくとも、少なくとも男の子でありたい。そんな念を抱きながらダイヴしていくのが、ピーター・パン・スピードロックなのだ。


    2014年9月25日音楽ジャーナリスト&ライターの眼(1版)掲載 執筆記者:山崎智之

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