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    ジンジャー・ワイルドハート・インタビュー/アルバム『アルビオン』、2014年6月の来日公演、そして終わりなき音楽談義

    配信日: | 配信テーマ:洋楽

     ジンジャー・ワイルドハートのニュー・アルバム『アルビオン』には、すべてがある。ハードでメロディアス、エクストリームでポップな本作は、ワイルドハーツやヘイ!ヘロー!などさまざまなバンドで活躍する彼の集大成といえるものだ。嬉しいとき、悲しいとき、どんな気分のときも、聴く人のハートにピッタリはまる瞬間が必ずあるだろう。

     2014年6月には来日公演も決定。ジンジャーが『アルビオン』を語る。
    さらに彼のインタビューでおなじみ、さまざまなアーティストについての音楽談義も聞くことが出来た。


    ●『アルビオン』はさまざまな音楽性の曲があって、聴くたびに新しい発見がありますね。

     まさにそんなアルバムにしたかったんだ。レコードやCDを買って、1回聴いたらおしまいというのは、もったいないだろ?…アンド・ユー・ウィル・ノウ・アス・バイ・ザ・トレイル・オブ・デッドみたいに、何度聴いても新しい発見があるバンドは素晴らしい。俺も常に予測不能でありたいんだ。聴く人を驚かせたいんだよ。…ただ、『アルビオン』は他のアルバムと較べて、呑み込みづらいかも知れないね。一度聴いて「うーん」と渋い顔をしていた人が、数日したら「最高傑作だ!」と言ってきたりする。

    ●とはいってもキャッチーなメロディやフックのあるコーラスなど、決して難解ではないと思います。

     まだ聴き込んでいないリスナーが、ネット上に「今回はイマイチ」とか書いたりもするんだよなあ。…俺のファンと称する人間で、実は俺の音楽がそれほど好きじゃない人もいる気がする。毎回「ヘヴィじゃない」「ヘヴィ過ぎる」とか、わざわざ文句を言うためにCDを買っているような人がいるんだ。そんなにヘヴィな音楽が聴きたければ、ディリンジャー・エスケイプ・プランのCDでも買えばいいのにね!

    ●2013年にはミューテイション名義での2枚組アルバム、ヘイ!ヘロー!としてのアルバムを発表したばかりなのに、凄まじいハイペースでの新作リリースですね。

     俺の場合、アルバムをレコーディングしている間に、次のアルバムの曲を書き始めているんだ。だから『アルビオン』を作っているときも、次の作品の曲を書いていたよ。未完成の曲を放置しているのは、好きじゃないんだ。早く世に出して、みんなに聴いてもらいたい。俺はもうすぐ50歳だし、地球上にいられる残り時間も限られているからな。

    ●ポール・マッカートニーやローリング・ストーンズみたいに、70歳を過ぎても頑張っているアーティストがいますから、あなたもまだまだ大丈夫ですよ!

     そうだな、あと20年もあればアルバムを50枚は作れる(笑)。

    ●『アルビオン』とは、どのようなアルバムですか?

     『アルビオン』は、約1ヶ月をかけてイギリスを回ったときのドキュメントなんだ。ただ、その旅はアイディアを蓄積させるのではなく、むしろ膨大な量のアイディアを捨てていく作業だった。自分の生まれ育った土地、思い出のある場所…家に戻ったとき、アルバム10枚ぶんのマテリアルがあった。それを1枚にまとめたのが『アルビオン』なんだ。去年アルバムを3枚も出したとは、考えもしなかった。生まれて初めてアルバムを作る気分だったよ。

    ●1曲目「ドライヴ」はスパークスの「ディス・タウン」とAC/DCの「悪魔の招待状」を合体させたイントロ、さらにコーラスがビーチ・ボーイズ風の曲をまとめ上げるという、信じられない離れ技を見せていますね。

     「ディス・タウン」「悪魔の招待状」はどちらも好きだから、そう言ってもらえると嬉しいね。俺の家のレコード棚には、さまざまな音楽のレコードやCDがあるんだ。俺のiPodもシャッフル・モードにすると、次にどんな曲になるか想像もつかない。いろんな音楽を吸収して、それをドッと放出するのが好きなんだ。この世界で、100%オリジナルなものを見つけるのは難しい。でも、既存のものを消化して、自分のアイデンティティを込めることで、ユニークな表現を出来ると思う。俺がやろうとしているのは、まさにそんなことだよ。

    ●アルバムのタイトル曲「アルビオン」はプログレッシヴ・ロックの領域に踏み込んでいる気がします。キング・クリムゾンっぽいというか…。

     キング・クリムゾンの名前は知っているけど、まともに聴いたことはないんだ。プログレを聴くのは、実はあまり好きではない。レコードを聴くよりも、自分でプレイする方が楽しいタイプの音楽だ。「アルビオン」はボツになりかけた曲なんだ。スタジオの時間が足りなくて、「まあ時間もないし、次のアルバムにでも入れようか」と考えていた。でも、その後でデモを聴き返してみたら、すごく良い曲だと思ったんで、もう一度スタジオに入ってレコーディングすることにした。だからこの曲のみ、バンド全員が参加していないんだ。この曲がプログレっぽく聞こえるのは曲が長いこと、それからジョン・プールのキーボードによるものが大きいね。ジョンはプログレ・バンドでもやっているし、すごく詳しいんだ。

    ●「チル・マザーファッカー・チル」の後半は、イエスからの影響があるでしょうか?

     はっきり言って、ない! イエスは聴いたこともないんだ。ジェネシスはこないだ、ジョンが聴かせてくれた。何というアルバムかは忘れたけど、だいたい予想していたのと同じで、好きではなかった。いや、決してプログレ全体が嫌いなわけじゃないんだ。シンフォニックな音楽はむしろ好きだよ。ジョン・バリーの映画音楽は最高だし、あれほど壮大なスケール感のあるバンドがいるとしたら、興味がある。カーディアックスやポリフォニック・スプリーはプログレなのかな?彼らだったら好きなんだけどな。

    ●彼らがプログレと分類されることは、あまりない気がします。…これまで、あなたの音楽でプログレ的なアプローチはあまり聴かれませんでしたね。「スカイ・ベイビーズ」は10分以上あったけど、決してプログレ的ではなかったし…。

     いわゆるプログレではないかも知れないけど、『ヨーニ』でもこういうタイプの曲をやったし、『555%』にも「タイム」や「テイスト・アヴァージョン」みたいな複雑な構成の曲があった。今回初めてやったわけではないんだ。『ミューテイション』も、それをよりエクストリームな路線に進めたものといえる。複雑な曲構成や変拍子には昔から興味があったんだ。単にこれまでは技術がなくて、プレイ出来なかっただけだ!

    ●一方、「グロウ・ア・ペアー」のダンス・ビートはブロンディの「アトミック」を思い出しました。

     「グロウ・ア・ペアー」のキーボード・パートはジョンがアイディアを出したんだ。最初、俺が歌ったら、デュラン・デュランみたいだった。それで代わりにヴィクトリア(ヘイ!ヘロー!での相棒でもある女性ヴォーカリスト)が歌ったら、ブロンディみたいになったよ。俺はデュラン・デュランよりブロンディの方が好きだから、それでオッケーだ。ガキの頃、俺はパンクが好きで、スティッフ・リトル・フィンガーズとかダムド、エクスプロイテッドを聴いていた。友達はみんなニュー・ウェイヴ・オブ・ヘヴィ・メタルを聴いていたけど、俺はヘヴィ・メタルは好きじゃなかった。そんなとき、デュラン・デュランがデビューしたんだ。「グラビアの美少女」とか「プラネット・アース」とか、最悪だと思った。心底嫌いになれるバンドだったし、彼らのファンも嫌いだったよ。ただ、年月を経るにつれて、彼らをミュージシャンとして評価できるようになった。特にジョン・テイラーのベースは良い。デュラン・デュランのレコードで最も記憶に残るのはベース・ラインなんだ。ジャパンにしてもそうだよ。ジャパンの音楽性を決定づけるのは、ミック・カーンのベースなんだ。ベース・ラインのセンスとリズム感で彼に匹敵するのは、ジョン・プールだと思う。彼のベース・ラインは楽曲に命を吹き込むんだ。俺の中ではミック・カーン、ジョン・テイラー、ジョン・プールは1本の線で繋がるんだよ。

    ●ジャパンは1970年代後半、彼らのデビュー当時から好きだったのですか?

     もちろんだ。特に最初の2枚のアルバムは好きだったよ。その頃、俺はパンクが好きで、特にニューヨーク・ドールズが好きだった。音楽と同じぐらいヴィジュアル性が気に入っていたんだ。そんなときジャパン、それからハノイ・ロックスが登場した。あまりにルックスが最高だったんで、とにかくレコードを買って、気に入るまで聴き続けることにしたんだ。ハノイには一瞬で恋に落ちた。ジャパンは何度か聴きこむ必要があったな。彼らの音楽はファンカデリックやパーラメントみたいな黒人ファンクと違って、セックスを感じさせないファンクだったからね。そんな中で、ミック・カーンのベースは際立っていた。それまで聴いたことのない、安全ゾーンの外側のプレイだったんだ。それからジャパンを聴くようになって、デヴィッド・シルヴィアンの物真似も出来るようになった。日本のショーでリクエストがあればやるよ!

    ●ジャパンやハノイ・ロックスも同様に、アルバム『ヨーニ』(2007)にゲスト参加して、昨年12月に行われたあなたのバースデイ・ライヴにも飛び入りしたバーニー・トーメも、ヴィジュアル系ロックンロール・ギタリストですよね。

     その通り!30年前の自分に教えてやりたいよ。「バーニー・トーメと友達になって、一緒にプレイしたんだ」ってね!バーニーは世界一クールなギタリストだったんだ。ディープ・パープルを脱退したイアン・ギランが結成したギランの『ミスター・ユニヴァース』(1979)も最高だったし、ソロ・アルバム『ターン・アウト・ザ・ライツ』(1982)も素晴らしかった。「チェルシー・ガール」のカヴァーが入っているアルバムだよ。レディング・フェスティバルでバーニーがトリオ編成のバンドでプレイするのを見たことがある。メンバー同士でステージ上を、馬跳びしていたのを覚えている。ギラン時代以上にクールだ!と思った。『ヨーニ』のレコーディング中、スタジオで彼と数メートルしか離れていないところにいたけど、どうやってあんなサウンドを出せるのか不思議でならなかった。大してサステインの効いていないギターで、 変なサウンドを出すんだ。まるでマジシャンが時計やコインを空から出すようにね。しかも世界有数のいい人で、彼の友人であることを誇りにしているよ。

    ●さっき「1970年代後半、ヘヴィ・メタルは好きじゃなかった」と言っていましたが、ギランは許容範囲だったのですか?

     ギランはいわゆるヘヴィ・メタル・バンドではなかった。確かにロックで、ヘヴィだったけど、オペラもポップも何でもありの、すごく奇妙なバンドだったんだ。アイアン・メイデンのレコードは、だいたいどんなサウンドか想像がつくだろ?俺は予測不能な音楽が好きなんだ。そのせいで、友達とも疎遠になった。俺はスパークスが好きで、彼らはスコーピオンズが好きだから、話が合うわけがない。久々にギランの『グローリー・ロード』(1980)を聴きたくなったよ。あとギランのメンバーだったバーニーやコリン・タウンズ、ジョン・マッコイが酔っ払って作った、スプリット・ニー・ルーンズ名義のシングルも持っている。最高だよ。

    ●好きなアーティストの参加作品は突き詰めて追いかけるタイプですか?

     うん、ヴァイブレーターズのノックスがハノイのメンバーを従えて作ったアルバム(フォールン・エンジェルズ『フォールン・エンジェルズ』(1984))とかも押さえたし、好きなミュージシャンのレコードだったら何だって聴きたいんだ。たまにファンに「ジンジャー、あなたはレコードを出し過ぎだ」とか言われることがあるけど、そんなの信じられないよ。俺は自分が好きなミュージシャンだったら、何枚でもレコードを出して欲しかった。もしハノイ・ロックスが100枚アルバムを出したら、やった!と大喜びしていたよ。

    ●『アルビオン』のジャケット・アートについて教えて下さい。

     『アルビオン』は“イギリス”がテーマだから、イギリスの象徴であるライオンをジャケットに使いたかったんだ。そうしてインターネットを探していたら、ライオンがあくびしている写真を見つけた。イギリスに飽き飽きしている、って感じで、完璧だと思ったんだ。その写真をリッチ・ジョーンズに渡して、リップ・リグ・アンド・パニックの『ゴッド』みたいに彩色してもらった。リッチは“ジンジャー・ワイルドハート”のロゴ用のフォントも見つけてくれたし、今回のアルバムのヴィジュアル面では重要な位置を占めているよ。

    ●昨年(2013年)、コートニー・ラヴとツアーした経験はどんなものでしたか?

     すごく楽しかったよ。コートニーとも仲良くなって、ずっと一緒にバンドを組もうと言われたほどだった。コートニーは最後のパンク・アイコンだよ。彼女は“パンク”と呼ばれるのが大嫌いだけどね。頭がいいし、物知りだし、反応が早い。自分の意見を持っていて、とても知的な人物だ。

    ●コートニーとレコーディングはしましたか?

     デモは録ったけど、使われなかったんだ。コートニーのマネージャーは、彼女をより実験的なエレクトロニック・ポップ路線に向かわせようとしていた。それで彼女のために俺が書いた曲は、ポップ方向にシフトしたものだったんだ。でもその後、彼女はマネージャーをクビにすることになった。新しいマネージャーは彼女をアグレッシヴなパンク・ロック路線で売り出すことにしたんで、俺が書いた曲は「ポップ過ぎる」ってことになってしまったんだ。ただ、コートニーとの関係は良好だし、また一緒にライヴをやる可能性は高い。彼女が日本でプレイするときに俺も一緒に行くかも知れないよ。

    ●その前にあなたはソロとして6月、ジャパン・ツアーを行いますが、どんなライヴになるでしょうか?

     今回は俺とジョン・プール、ドラムスのデンゼル、ギターのクリス・カタリストという、少人数でのツアーとなる。だから、よりベーシックなロック・ショーになるよ。クリーミーなスタイリッシュ・パンク・ロックのライヴになる。プログレもやるかも知れない。パンク・プログレだけどな(笑)。

    ●それ以外に2014年から2015年にかけて、予定していることはありますか?

     新しいプロジェクトが動き出すんだ。G.A.S.S.(ジンジャー・アソシエイテッド・シークレット・ソサエティ)というもので、アーティストと世界中のファンを密接に結びつける、斬新な手段となる。既にこのプロジェクトのために36曲を書いているし、さらに大きなスケールのものになっていくよ。2014年5月1日に全貌が明らかになるから、楽しみにして欲しいね。それ以外にもホラー&スプラッター映画の解説本や俺の歌詞についての本を書きたいし、2014年は俺の人生で最も忙しい1年になるだろう。最高にエキサイティングな気分だよ。



    <公演情報>
    GINGER WILDHEART ALBION JAPAN TOUR 2014

    2014/6/24(火)東京 渋谷duo music exchange
    2014/6/25(水)名古屋 新栄APOLLO BASE
    2014/6/26(木)大阪 アメリカ村 FANJ TWICE

    主催:Vinyl Junkie Recordings
    協力:クリエイティブマン

    2014年4月 3日音楽ジャーナリスト&ライターの眼(1版)掲載 執筆記者:山崎智之

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