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    放映が終わっても音楽は鳴り響く。老若男女あらゆる世代に届く「あまちゃん」の音楽(後編)

    配信日: | 配信テーマ:Jポップ

    「あまちゃん」のドラマと音楽との間に一体感があるのは、脚本を読んで作る、映像を観て作るという通常の制作の範疇からさらに深く踏み込んでいるからでもあるだろう。大友は曲作りに入る前の段階で、ドラマの舞台となっている北三陸や久慈に取材に行き、実際に現地の海女さんたちとも交流を深めたのだという。そうした体験は「あまちゃん」の音楽にも反映しているに違いない。

     ドラマの中で重要な位置を占めていた曲のひとつ、「海」も大友が自らの肌で北三陸の海を感じたからこその作品なのではないだろうか。この曲にはたくさんのバージョンがある。『「あまちゃん」オリジナル・サウンドトラック』(以下『1』)には「海/デモバージョン」が収録されている。たおやかなアコーディオンや素朴で温かな木管楽器などが入ってくるセッションからは北三陸の海のふくよかな波の揺らめきまでもが見えてきそうだ。
     
    『「あまちゃん」オリジナル・サウンドトラック 2』(以下『2』)には「海2012」が収録されている。ピアノ、アコギ、マリンバで始まり、管楽器や鍵盤楽器が加わり、ドラムやベースなどのバンドサウンドと一体となって、波のうねりにも通じる大らかなグルーヴを生みだしていく。個々のミュージシャンの体温までもが伝わってきそうな演奏が素晴らしい。

    『1』収録の「じぇじぇじぇ」や「地味で変で微妙」などを聴くと、喜怒哀楽、人物や風景描写はもちろん、人間が五感で察知出来るあらゆるものが音楽化されていることがわかる。震災当日、主人公アキの友人、ユイがトンネルを出て、震災の被害を目撃するシーンで流される『2』収録の「風、レール」はその極みだ。恐怖や戦慄だけではない。そこにあふれる光や流れる風なども含めて、音楽によってしか表現しえない世界が広がっている。音楽はここまで表現できるのか。その可能性の大きさを再認識させられたのも「あまちゃん」の音楽によってだった。

     大友が「あまちゃん」のために作った楽曲が二百数十曲、バージョン違いなども含めて、録音したテイクが三百数十。通常のドラマとは比較にならないくらい、時間や労力やコストを費やして制作されているところからも、この作品にかける大友を始めとする音楽家や制作者たちの情熱が伝わってくる。

     このドラマは基本的にはコメディーなのだが、後半に入って、“震災からの復興”という大きなテーマが浮き彫りになった。脚本の宮藤は宮城県出身、大友は横浜出身だが小3以降、中学、高校と福島県で暮らしている。被災地への思いがこの作品を特別な力が宿ったものにしているのは間違いないだろう。震災が描かれた後の放映ではオープニング・テーマの明るさがより胸に染みてきた。

     橋幸夫と吉永小百合とのデュエットによる1962年の大ヒット曲「いつでも夢を」がドラマの中で使われていたのだが、この曲も懐メロとしてではなくて、高度成長期にあった未来への希望を今の時代に引き継いでいくリアルな歌として響くようになった。音楽は聴き手の心情や状況の変化に伴って、その表情を変えていく。そうした音楽の懐の深さを大友も宮藤も熟知しているに違いない。この作品の根底には音楽への信頼があると思うのだ。音楽を信じることはイコール、人間を信じることでもある。サントラ盤『2』のラストに流れるのは波の音。この音はおそらくは人間がこの世に生を受けて、最初に耳にする音にも似ている。「あまちゃん」というドラマ、及びその音楽が描いたのは壮大な始まりの物語。この続きを描いていくのはリスナーであり、視聴者だろう。

    2013年11月14日音楽ジャーナリスト&ライターの眼(1版)掲載 執筆記者:長谷川誠

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