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    震災以降の困難な時代における希望の歌 <レビュー> 柳原陽一郎のニューアルバム『ほんとうの話』

    配信日: | 配信テーマ:Jポップ

     東日本大震災が起こってから2年半以上の月日が流れた。この間にも“震災以降の音楽”と呼びたくなる作品も数多く発表されている。音楽は時代を映し出す鏡のようなものでもあるのだから、震災の影響が音楽作品にも及んでいくのは当然と言えば当然だが、自覚的に震災と向き合って制作されたと思われる作品も目につく。8月にリリースされ、9月14日から音楽配信も始まった柳原陽一郎のニューアルバム『ほんとうの話』もそうした作品のひとつ。震災と原発事故によって、それまでに信じていた価値観が根底から揺らいでしまったと感じている人もたくさんいるだろう。柳原はそうした今の日本の現状、日常に根ざした歌を歌っている。

     アルバム名にも使われている“ほんとう”という言葉は時代の空気を浮き彫りにするキーワードのようにも響く。アルバムタイトル曲とも言うべき、1曲目の「ホントのバラッド」はじわじわと体の奥に染みこんでくる名曲だ。“昨日のホントはウソでした”といったシニカルでアイロニカルな歌詞は彼ならでは。もともと彼は90年代中盤まで、唯一無二の個性を持ったバンド“たま”の一員として活動し、シュールでエッジの効いた楽曲を数多く生みだしている。その切れ味の良さはこの新作からも感じとることができる。だが、この歌の最大の特徴は困難な時代を生きていく糧となるものを音楽によって具現化している点にあると思うのだ。“友よ、歌おう ホントのバラッドを”というフレーズのなんと温かく響くことか。柔らかな歌声とギター、マンドリン、アコーディオンなどの演奏からは人間の体温も伝わってくる。「そしてペンギンは語る」での“ほんとのこと”、「ほんとうに好きな人」での“ほんとうに好きな人”など、“ホント”、“ほんとう”、“ほんと”といった単語があちこちに散りばめていて、内省的なまなざしも感じ取れる。ただし、メッセージだけが前面に出るのではなくて、豊かな音楽作品として成立しているところにこの作品の懐の深さがある。

    “ガレキの中で咲いていたのは百合の花”と歌われている「再生ジンタ」はトラッド風味も加わったヒューマンな演奏に体が揺れる。“桜が咲いたら また飲み明かそう”と歌われている「やがて君は夢となるのか」は穏やかな歌と演奏の背後からさりげなく滲む哀愁がクセになる。60年代後半から70年代前半のプロテスト・フォークソングを彷彿とさせる「農夫に力を」での抑えた歌声の奥底からは強い憤りの念も伝わってくる。サウンド・エフェクトを交えての音作りからは2013年の今の時代性も感じ取れる。柳原節全開と言いたくなるのはポップで明るい曲調で、毒のある歌詞を軽やかに歌っている「悪人志願」。キャッチーでありながら、ニヤリとさせたり、グサリとえぐったりと自由自在。震災以前に制作されたという楽曲もいくつか収録されている。「ロータスの庭」もそんなナンバーのひとつ。アフリカの民族楽器、バラフォンも使用されていて、夢と現実の狭間をたゆたうようなトリップ感が気持ちいい。震災とは無関係の歌なのだが、この歌の幻想的な世界が今の気分となぜかフィットする。震災を踏まえて制作された曲もおそらく今後、長きに渡って愛されていくだろう。つまりどの曲も時を越えていく普遍性を備えている。

     アルバム『ほんとうの話』を聴いていて感じるのは音楽のパワーの素晴らしさだ。どの曲も深い説得力を持っているのは、彼が強い意志、覚悟を持って、踏み込んで作り、歌っているからだろう。アルバムラストの「歌を止めるな」も彼の音楽への思いが伝わってくる曲。ゆったりとしたテンポの曲なのだが、着実に前に進んでいく足取りのように刻まれるリズムの確かさが伝わってくる。歌が止まらないことをリズムそのものが示唆している。朗らかで大らかでしなやかでタフ。これは広い意味でのフォークソング、つまり民衆の歌でもありそうだ。この最新アルバムを食品に例えると、滋味にあふれた食べ物といったところだろうか。ただし、時にはひりひりと辛かったり、苦かったりする。つまり口当たりのいいスイーツではなくて、良薬みたいな存在。体にも精神にもいい作用を及ぼしていく。困難な時代であっても鳴り止むことのない希望の音楽がここにある。

    2013年10月 3日音楽ジャーナリスト&ライターの眼(1版)掲載 執筆記者:長谷川誠

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