音楽ジャーナリスト&ライターの眼 ~今週の音楽記事から~

新聞社の音楽記事、音楽ライターによる書き下ろし記事を集めたウェブサイトです。(毎週、月・木更新)

音楽ライター記事

つぶやく・ブックマークする

    ヘイ!ヘロー! インタビュー/ワイルドハーツのジンジャーが語る、新しいビジネスと新しいロックンロール

    配信日: | 配信テーマ:洋楽

     ワイルドハーツのリーダーであるジンジャーが新しいプロジェクト、ヘイ!ヘロー!を始動させた。

     2013年4月にはワイルドハーツとして、名盤『アースvsワイルドハーツ』20周年記念ライヴを行ったばかりのジンジャーだが、早くも7月にはプロモーションで来日。ヘイ!ヘロー!でのパートナーである女性ヴォーカリスト、ヴィクトリアと共に、新作について語ってくれた。

     2012年にジンジャーが話題を呼んだのは、アルバム制作資金をファンから事前に集めるというクラウド・ファンディング形式で成功を収めたことだった。3枚組アルバム『555%』(とダイジェスト盤『100%』)はタイトル通り、目標の5倍以上を達成。不振にあえぐ音楽ビジネスに新しい可能性を提示している。

     ジンジャーは語る。

    「『プレッジミュージック』のCEOベンジー・ロジャースから誘われたんだ。どうなるか見当もつかなかった。まさかあれほど成功するとは想像してなかったよ」

     彼によると、『プレッジ~』の魅力は「アーティストとファンが一緒にアルバムを作っていく作業」だという。

    「”アーティストがアルバムを作り、それをファンが買う”という作業から一歩踏み込んで、ファンがアルバム作りに参加することになる。みんなが盛り上がれる、ひとつのパーティーなんだ」

     ヘイ!ヘロー!のデビュー・アルバム『ヘイ!ヘロー!』に収録された「ハウ・アイ・サヴァイヴド・ザ・パンク・ウォーズ」には、同じようなやり方で成功しようとする先輩としてのアドバイスが込められている。尊厳を持って、死ぬほどリハーサルをやって、1日3回でもライヴをやって、たくさんの疑問を持って、そして何よりも、クソを食わされるな...と。

    「『プレッジ』は誰もが儲かる、金貨の泉じゃないんだ。必死で働かなければならないのは変わらない。ただ演奏するだけでなく、汚いバンに乗って、チラシを配って、死ぬほどライヴをやって、自分の名前を拡げていかねばならない。自分自身が営業マンなんだ」

    『ヘイ!ヘロー!』もまた、クラウド・ファンディング形式で資金を集めて作られた作品だ。このアルバムでヴォーカルをとっているヴィクトリアはオクラホマ生まれ、現在はニューヨーク在住のシンガーだ。

    「父親が音楽マニアで、アメリカでは知られていないアーティストのレコードを聴いていた。ニック・ロウとかエルヴィス・コステロとか、『スティッフ』レーベルのバンドが好きだったわ。そんなせいか私の趣味も変わったもので、好きになるのは自分にとって最も困難な音楽が多かった。それでオペラ歌手を目指したわ(笑)。インディアナ大学で音楽を専攻して、すごく鍛えられたけど、自分が本当にやりたいのはオペラなのか?単に難しいから挑戦したかったのではないか?...と疑問を持って、結局ドロップアウトしたわ。それからニューヨークでロックやキャバレエ系のセッション・シンガーをやっていたけど、ワイルドハーツがニューヨークでショーをやった時、バックステージでジンジャーと会ったのよ」

     それが縁でヴィクトリアはジンジャーのソロ・バンドでバック・ヴォーカルを務めるようになりアルバム『555%』、そして2012年6月の来日公演にも同行している。

     ヴィクトリアがジンジャーの音楽に魅力を感じたのは、「音楽の境界線を越える」ところだった。

    「恐れを知らないアーティストが好き。驚きたい。マイク・パットンがやっている音楽がすべて好きではないけど、毎回ショックを受けるわ。ジンジャーもそんなアーティストだと思う」(ヴィクトリア)

    『ヘイ!ヘロー!』日本盤CDのボーナス・トラックには、スパークスのカヴァー「ワッキー・ウィメン」が収録されているが、スパークスもまた、彼らの中で”恐れを知らない”バンドとして分類されている。

    「スパークスが『No.1 In Heaven』(1979)でやったことは、勇敢だった。ドナ・サマーの「アイ・フィール・ラヴ」は革命的なレコードだったけど、当時”ロック・バンド”だったスパークスがすべてを捨てて、ジョルジオ・モロダーの門を叩くことは、想像できないことだったんだ」(ジンジャー)

    「カヴァーしたいスパークスの曲のリストを作って、2人ともやりたい曲が『ワッキー・ウィメン』だったのよ。他に候補に挙がっていたのは『イートン・バイ・ザ・モンスター・オブ・ラブ』や『サンク・ゴッド・イッツ・ノット・クリスマス』...『ティップス・フォー・ティーンズ』もやりたかったけど、コーラスのハーモニーをアレンジするのに1週間ぐらいかかるし、ボーナス・トラックにそんなに時間を割くことが出来なかった」(ヴィクトリア)

     ヘイ!ヘロー!としてのライヴ活動も楽しみだが、その前にジンジャーには急遽、ツアーの予定が入ってしまった。ニルヴァーナのカート・コベインの未亡人コートニー・ラヴ率いるホールのギタリストとしてのアメリカ・ツアーである。

    「コートニーとは数ヶ月前、ニューヨークで知り合ったんだ。みんなが彼女について想像していること、そしてそれ以上が、すべて事実だと言っておこう。彼女みたいな人間は、どこにもいないよ。本当にユニークな人物だ」

     ちなみにヴィクトリアは、ホールを聴いて育った世代だ。

    「『リヴ・スルー・ディス』が出た頃、私は13、14歳だった。あのアルバムにはステッカーが貼ってあって、買うには保護者の許可が必要だったから、友達の家に行って聴いたのよ。親に禁止されてると、さらに刺激的に感じるわね」

     時に、その音楽的才能に疑問符がつくこともあるコートニーだが、稀代の名ロック・ソングライターであるジンジャーは彼女の音楽をどう捉えているだろうか?

    「いや、実はあまり知らないんだ(苦笑)。こないだガヴ(マネージャー)が彼女のアルバム一式を持ってうちに来たところだよ。今のところ、エレクトリック・ギターの入った曲は好きなものが多いね。でもアコースティック系の曲はピンと来ない。彼女のシャウトは作為的でなく、本能に任せて吼えているから凄いね。(スマッシング・パンプキンズの)ビリー・コーガンが書いたリフは悪くなかったな。『セレブリティ・スキン』だっけ?なかなか有望な若者だと言っておこう。きっと出世するよ(笑)」

     ホールとのツアーが終わるとソロ名義でのアルバム、そしてソロ・アコースティック・アルバムに着手するというジンジャー。“荒ぶる魂(ワイルドハート)”を持つ男の旅路は、まだまだ続いていく。

    2013年8月 1日音楽ジャーナリスト&ライターの眼(1版)掲載 執筆記者:山崎智之

    音楽ライター記事一覧を見る

    洋楽 のテーマを含む関連記事

    リズム重視してアレンジ チーフタンズのリーダー パディ・モローニ

    アイルランドを代表する伝統音楽のグループ、チーフタンズが来日公演を行う。現地の文化に根ざしながら、親しみやすいサウンドを展開。度々グラミー賞に輝き、ローリング・ストーンズやジョニ・ミッチェルら、有名どころとの共演も多い。長きにわたる活動について、リーダーのパディ・モロー...

    ライブ盤に込めた思い ジャクソン・ブラウン 人間の良心 信じている 

     米国のベテランシンガー・ソングライター、ジャクソン・ブラウンが公演のため来日した。社会や個人のあり方を世に問う誠実な姿勢が、世界中で支持されている。混迷する世界情勢の中、ジャクソンは我々に何を伝えていきたいのか。最新のライブ盤「ザ・ロード・イースト」(ソニー)に込めた...

    【ライヴ・レビュー】イエスfeaturingジョン・アンダーソン、トレヴァー・ラビン、リック・ウェイクマン/2017年4月17日 東京 Bunkamuraオーチャードホール

    2017年4月、イエスfeaturingジョン・アンダーソン、トレヴァー・ラビン、リック・ウェイクマンのジャパン・ツアーが行われた。日本公演が発表された時点では、来日公演はアンダーソン、ラビン&ウェイクマン(ARW)という名義で行われることになっていた。だが直前の4月9...

    2017年、日本に吹く熱風 / サンタナ『ロータスの伝説 完全版』とジャパン・ツアー

    これまで洋楽アーティスト達は数多くの伝説的ライヴ・アルバムを日本で録音してきた。ディープ・パープル『ライヴ・イン・ジャパン』やチープ・トリック『at武道館』、ボブ・ディラン『武道館』、エリック・クラプトン『ジャスト・ワン・ナイト』、スコーピオンズ『蠍団爆発!トーキョー・...

    世界的ベーシスト、ネイザン・イーストの公開リハーサルで見た、演奏が練り直され新たな響きが生まれる瞬間

    (取材・文/飯島健一) 卓越したプレイで数多のミュージシャンに信頼され、音楽ファンも魅了するベーシストのネイザン・イースト。今年1月に2ndソロアルバム『Reverence(レヴェランス)』を発表して、2月に来日。ビルボードライブ東京での公演前夜に開催された今回のスペシ...

     

    ページの先頭へ戻る

    • RSS
    • お問い合わせ